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国際子ども図書館主催の展示会のお知らせです。

国際子ども図書館全面開館記念シンポジウムを開催致しました。

2002.07.08

国際子ども図書館全面開館記念シンポジウム「昔話から物語へ」

シビル・A・ヤーグシュ(Dr.Sybille A. Jagusch)米国議会図書館児童書センター長

シビル・A・ヤーグシュ(Dr.Sybille A. Jagusch)米国議会図書館児童書センター長

ボルチモア公共図書館の各分館で児童室長を務め、1983年に児童書センター長に就任。国際図書館連盟(IFLA)、国際児童図書評議会(IBBY)、アメリカ図書館協会等でも活躍。

「現代の子どものための昔話と妖精物語」

1880年代後半、公立図書館に児童室が作られ、児童図書館員のクラブや大都市の出版社には児童書編集部ができ、図書館員、教育者、編集者、作家、挿絵画家たちによる「よき共謀」(a benign conspiracy)ネットワークが作られた。児童文学書評誌『ホーンブックマガジン』(Horn Book Magazine)が創刊され、ニューベリー賞(Newbery Award) (注1)、コルデコット賞(Caldecott Award) (注2)の設立、児童書出版協会も創立された。こうした発展は児童書、特に絵本の創造に貢献し、さらにヨーロッパ諸国からの移民は芸術的に大きな影響を与えた。

60年代は繁栄の時代であり、公立図書館や学校図書館への国からの援助が増額され、出版物の80%を図書館が購入した。輸入書も受賞対象とするバチェルダー賞(Batchelder Award)(注3)、ボローニャ国際児童図書展が始まり、児童書は創造性豊かになり、テーマも広がりイマジネーションに富んだノンフィクションが出てきた。最高の児童書が作られ、また読書年齢が下がり、厚紙の丈夫な本、文字のない本なども出てきた。
多文化主義といわれるケネディの時代には、世界中の昔話の解釈が行なわれ、アメリカ先住民、アフリカ系アメリカ人やヒスパニック系の童話も出てきた。画家ではマーシャ・ブラウン(Marcia Brown)、ポール・ガルドン(Paul Galdone)、ディロン夫妻(The Dillons)、ポール・ゴーブル(Paul Goble)、ジェラルド・マグダーモット(Gerald McDermott)、ジョーゼフ・ロウ(Joseph Low)、ブレア・レント(Blair Lent)、エイドリアン・アダムズ(Adrienne Adams)、ナンシー・エコールム・バーカート(Nancy Eckholm Burkert)などが、立派で美しい昔話や童話集を出版した。

80年代は、利益重視が顕著になり、児童書に壊滅的な影響を与えた。ビジュアル化が進み、ストーリー性を喪失、派手でメタリックな紙を使用した消費者の受けのみをねらった本が増えた。映画と提携し、メガブックストアが台頭、書店には児童書の担当はいなくなった。
90年代は商業化が更に進み、本はネットで購入可能になりWEBのアニメーションとリンクを持つようになった。司書も児童書の専門家ではなく、MBAや修士号を持つ人が増えて、編集者の力も弱くなった。「ハリー・ポッター」のように世界的なマーケティングや文化対物質主義の対立が見られ、図書館では資料購入費とコンピュータ予算の綱引きが行なわれている。

その中で昔話と童話は人気を博している。権利の消滅した昔話は著作権料を払わずにすむからである。また子ども向けの昔話や童話は最近、用語集や地図、参考文献が付され、「むかしむかしあるところで」ではなく、もっと具体的で正確になった。自由で芸術的、文学的な解釈の先駆者としてジェームズ・マーシャル(James Marshall)やポール・ゼリンスキー(Paul Zelinsky)がいる。現在、『赤ずきんちゃん』ではおおかみの言い分をきくような新しい観点が出て来ている。この方が興味深い話になるからである。スラングや駄洒落など現代的な表現も多く使われ、代表的な作家にエチエンヌ・ドゥレセール(Etienne Delessert)、レイン・スミス(Lane Smith)、デヴィッド・ウィズナー(David Wisner)などがいる。

以上の報告の後に、ヤーグシュ氏は、それまでに述べた昔話と妖精物語の変遷を、「昔話そのままのもの」から「自由闊達な解釈」「文学的な妖精物語」「しかけのある昔話」「ポストモダンな解釈」に分け、スライドで紹介した。

注1) アメリカでもっとも権威のある児童文学賞。毎年、前年の出版作品のなかからアメリカ児童文学に貢献した優秀作品に贈られる。1922年創設

注2) アメリカ合衆国で出版された、もっともすぐれた子どもの絵本を制作した画家に贈られる賞。1938年創設

注3) 1966年に創立されたアメリカ図書館協会児童図書翻訳賞。当時の児童図書部会長ミルドレッド・バチェルダーの名を冠した。

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