10代へ読み聞かせを行う取組(米国)

【2016-020】

10代を対象に読み聞かせを行う取組が、米国の図書館や学校で行われている。

ニューヨーク州ウェストチェスターにある高校の英語科教員であるBeth Avivは、大半の生徒が読み聞かせの経験に乏しいことから、古典とされる小説から絵本まで、様々な本の読み聞かせを行っている。生徒の方も読み聞かせに“夢中に”なり、さらに、教員だけでなく生徒にも読み聞かせを行わせることで、生徒の理解度を測ることができるという。生徒が、音読につまずいた時はクラス全体で言葉を確認したり、質問を受けたりする。ノースダコタ州の図書館員Doreen Rosevoldも、読み聞かせを聞くことで、生徒は、単語の意味や発音、イントネーション等を正しく学んだり、イメージを頭に描いたりでき、理解力が深まるという。

「教育の後退である」「授業時間の有効な活用法ではない」等、10代の生徒たちへの読み聞かせに対して否定的な意見をもつ教育者もいるが、Jim Treleaseは、ベストセラーとなったThe Read-Aloud Handbook (『読み聞かせ この素晴らしい世界』高文研 1988)の中で、授業で行う読み聞かせの有用性を説いている。Treleaseによると、若者は、自分で本を読むよりも耳で聞いた方が、理解力が高まり、読み聞かせによって、人の話を聞く力とリテラシー能力を向上させることができる。また、8年生以上の生徒は、課題以外で本を読む機会が少ないため、読み聞かせをし、読書の楽しさを伝えることが重要だという。4年生から8年生までを教えた経験のある英語科教員のDana Johansenは、より年長の生徒へは、続きを読みたいという気持ちをかきたてるため、シリーズものの1作目を読み聞かせることを推奨している。

また、読み聞かせは様々なイベントにもなり得る。ニューヨーク州ブルックリンにあるSt. Ann’ s Schoolでは、カフェテリアで夜通し行う読み聞かせイベントが10年にわたる伝統となっており、生徒やその家族、学校関係者が招かれる。ホメロスの『イリアス』など古典作品が通しで読まれ、睡眠休憩の後には、ドストエフスキーの『罪と罰』に出てくるビーフストロガノフ等、作品に因んだ料理が食事として提供されることもある。また、小道具を使って読み聞かせを行ったり、作家の誕生日や本の出版記念日を祝ったりする図書館もある。クイーンズにある中学校の司書教諭Sara Lissa Paulsonは、読書を社交的な経験にすることで、生徒たちにとって読書が“価値のある”ものになるという。Paulsonの行う“Reading in the Streets(通りで読書)” の日には、生徒の教室移動の際に、学校図書館関係者が廊下で読み聞かせを行う。生徒たちは、この数分の移動の間に物語の断片を耳にすることで、豊かな言葉に触れ、読み聞かせをしてくれた関係者やその人が好きな本と新たなつながりを築く。ブルックリンにある高校の図書館員は、絵本を“stress-free reading”(ストレスのない読書)ができる本として、読み聞かせや研究等、多くの目的のために、絵本コレクションの構築を計画している。

「今の世代は、我々の世代ほど読み聞かせをしてもらっていない」とAvivは述べるが、その風潮を覆すのは、まだ手遅れではない。Treleaseは、「生涯にわたり読書する人の育成をやめてしまったら、文化全体が危機に瀕することになる」と述べ、読み聞かせと読書の重要性を説く。

Ref:

(2016.02.22 update)