図書館がホームレスの若者を支援(米国)

【2016-081】

米国で、公共図書館がホームレスの若者を支援する取組が広まっている。

米国では多くの若者にホームレスの経験がある。ホームレスをなくすことを目指す団体National Alliance to End Homelessnessによると、ホームレス人口全体の約3分の1を占める194,300人以上が子どもだという。
2007年から2009年の不況でホームレスが過去最大にまで激増し、図書館のアウト・リーチプログラムも倍増した。全米ホームレス連合(the National Coalition for the Homeless)の2009年の報告によれば、ホームレスの3分の1以上は家族であり、多くの図書館の利用者は、18歳から24歳までの就学も就業もしていない若者であった。
また、全米ホームレス連合は、ホームレスの若者の20-40%はLGBTQであり、児童養護施設にいる若者もホームレスになるリスクが高いともいう。米国健康保険福祉省によると、ホームレスの若者の71.7%は身体的・性的な虐待を受けており、さらに、HIV/エイズの感染や精神疾患など大きなリスクを招きやすい。そのため、経験の浅い若者たちが、長期のホームレス生活に陥らないための支援が必要であると専門家は言う。

ホームレスシェルターで長年支援プロジェクトに関わった図書館員等によれば、家族の世話を含め、尋常ではない重荷を負っていることから、ホームレスの若者は、75%が学校を中退してしまう。出席率の悪さや頻繁な転校も目立ち、記録不備、保護者の不在などから、ますます学校に来なくなる。結果として、その学年に求められる読書レベルを下回ってしまう。そのうえ、宿題をするためのパソコンもなく、インターネットも使用できず、学用品の購入さえ困難な者も多い。

このような環境の中で、地域の分館やホームレスシェルターも含め、図書館は、ホームレスの若者たちに安全な環境と確かな援助を図書館サービスとして提供することを期待され、図書館を経て、若者をその他の社会福祉サービスへとつなげていくことが望まれる。
しかしながら、図書館サービスを活用するホームレスの若者は決して多くはない。彼らを惹きつけるため、図書館は、彼らが興味を抱き、挑戦しようと思うような体験を提供することを目的として、様々な取組を行っている。

米国図書館協会(American Library Association: ALA)の飢餓・ホームレス・貧困タスクフォース(the Hunger, Homelessness, and Poverty Task Force: 1996年設置)のメンバーは、効果的な図書館プログラムを創出する鍵となるのは、図書館員が地域の社会福祉事業者と交流し、図書館コミュニティに引き込むことであるという。そうすることで、図書館はホームレスの若者にとって安心で居心地がよく、他の福祉サービスを探そうと考えられるような環境を築き上げることができる。
こういった、図書館員による、図書館の壁を超えた取組には大きな期待が寄せられている。以下に事例を列挙する。

  • キトサップ地域図書館(Kitsap Regional Library: KRL)、ワシントン州
    The Biblio Tech STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)プログラムを開催し、ホームレスの若者向けに科学とテクノロジーの教室を開いている。2013年から、Paul G. Allen Family財団から助成を受け、宗教系非営利プログラムCoffee Oasisと協力し、100時間のSTEM学習インターンシップや放課後のSTEMプログラムを提供するほか、独自に映像デザイン・ロボット工学・コンピュータープログラミング・3Dプリンタなどのワークショップを開催し、Coffee Oasisとのインターンシップも提供している。
  • シアトル公共図書館(Seattle Public Library: SPL)、ワシントン州
    A Teen Drop-In Social Hourという取組の中で、ホームレスの若者同士の連携を促進している。毎週、若者たちは図書館を訪れ、社会福祉事業者にそれぞれの抱える問題を相談したり、職業や教育に関する情報を探したりしている。このプログラムは、図書館の青少年サービス担当部署とシアトルの若者用ホームレスシェルターと協力して行われており、こういった協力関係は、このプログラムの推進に必須であると担当者はいう。
  • ソルトレークシティー図書館(Salt Lake City Library)、ユタ州
    2014年以降、行政機関、社会福祉団体や民間団体が集い、ホームレスの利用者たちに向けて情報を提供するProject Upliftというフェアを開催している。2015年にはYouth Resource Centerがボランティア団体Volunteers of Americaと協力し、フェアへ訪れたセンターの利用者に、散髪・衣服・食事・福引等を提供した。
  • ダラス公共図書館(Dallas Public Library)、テキサス州
    大学生を含むホームレスらが、図書館が運営するStreet View Podcastというインターネットで放送されるラジオ番組を作成し、配信した。地域の社会事業仲介所の代表、ホームレスの図書館利用者、図書館スタッフへのインタビューを行い、ホームレスや麻薬、精神疾患まで多岐にわたる問題を取り扱った2シーズン19話、15時間近くのコンテンツは、放送以降、米国や他国を含む60以上の都市で約11,000回ダウンロードされた。
  • アクロン・サミット郡公共図書館(Akron-Summit Public Library)、オハイオ州
    連邦政府の助成を受けた取組であるProject RISE と協力し、10年以上にわたって、アクロン市立の学校に通うホームレスの生徒に補足的な教育サービスを提供している。担当者は6~8の地域の若者向けホームレスシェルターと、16歳~21歳までの家出青少年を保護する施設と連携し、夏の読書推進等リテラシー教育に基づき、幅広な年齢層を対象に本を手渡す活動を行っている。
  • ブルックリン公共図書館(Brooklyn Public Library: BPL)、ニューヨーク州
    地域分館と7館のホームレスシェルターで、毎月「ティーン・サミット」というプログラムを提供している。このプログラムでは、若者は、教育、大学進学、健康、メンタルヘルスなど、それぞれの関心事について図書館員に話すことができる。参加者にとっては、安全な場所で信頼できる大人と話すことができ、また同年代の図書館利用者の仲間と出会う機会にもなっている。
  • ディカルブ郡公共図書館(Dekalb County Public Library: DCPL)、イリノイ州
    図書館スタッフがシェルターの親子に対し、学校の宿題の手助けをしたり、一緒にゲームをしたり、物語を読み聞かせたりしており、月に30~45人もの若者が利用している。

Ref:

(2016.09.26 update)