2018年国際アンデルセン賞受賞者決定

【2018-027】

2018年3月26日、国際児童図書評議会(International Board on Books for Young People: IBBY)は、2018年国際アンデルセン賞(Hans Christian Andersen Awards)受賞者を発表した。作家賞は日本の角野栄子(かどの えいこ)、画家賞はロシアのイーゴリ・オレイニコフ(またはイゴール・オライノコフ Igor Oleynikov)が受賞した。授与式は、8月にアテネ(ギリシャ)で開催されるIBBY世界大会で行われる。

 

選考委員による講評は以下のとおりである。

角野栄子の作品には、言い表せないほどの魅力と、温もりと、気迫を感じる。とても楽しい絵本から、第二次世界大戦中、不気味なトンネルの森を抜け学校に向かう勇敢な少女や、魔女のキキの物語まで、どの作品にも驚きがあり、人生を肯定し、力をくれる。角野は様々な国を訪れているが、物語は日本の地に深く根ざしていて、思いもしなかったような人たちが登場する。なかでも、自分を信じて困難に立ち向かい、ときには迷いつつ、自ら道を切り開いていく女性や少女の姿は、今の時代に求められるのではないか。シンプルで美しい文章は非常に読みやすく、絵本には遊び心があり、オノマトペが巧みに用いられている。

イーゴリ・オレイニコフは、アニメーション作家時代に培った構図とデザイン性で、いきいきと表すことに卓越した画家である。子ども、魔女、巨人、狼、サメ、妖精、トロールから、旧約聖書のヨシュアやルツ、ハーバードで学ぶ聡明なネズミまで、どんな姿の登場人物も命にあふれ、表情豊かに描かれている。「単にかわいいだけの子どもを描こうとは思わない」と語っているように、作中の人物や景色は、美しさを超越している。ロシアのアートの技法や情熱を受け継ぐ画家として、プーシキン、ゴーゴリ、トロツキー、ブロツキーなどの本の挿絵も手がけているが、今の時代の感性で表現していて、読者の想像を超える驚きと独自性がある。詩や昔話の挿絵を得意とし、アンデルセン、グリム、エドワード・リア、旧約聖書であっても、文章に負けることがない。その才能は挿絵にとどまらず、たくさんのすばらしい絵本も生み出している。

作家賞にノミネートされた33名のうち、最終選考まで残ったのは、角野栄子に加え、フランスのマリー=オード・ミュライユ(Marie-Aude Murail)、イランの Farhad Hassanzadeh、ニュージーランドのジョイ・カウリー(Joy Cowley)、2017年に死去したスウェーデンのウルフ・スタルク(Ulf Stark)の5名。画家賞には28名がノミネートされ、最終選考まで残ったのは、イーゴリ・オレイニコフに加え、アルゼンチンの Pablo Bernasconi、オーストリアのリンダ・ヴォルフスグルーバー(Linda Wolfsgruber)、中国の熊亮(Xiong Liang)、ポーランドのイヴォナ・フミェレフスカ(Iwona Chmielewska)、スイスのアルバータイン(Albertine)の6名。

(敬称略。作者の日本語読みは、判明した場合のみ記載した。)

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所蔵リスト

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角野栄子(かどの えいこ)

1935年東京生まれ。2年間、ブラジルに移民として滞在した後、『ルイジンニョ少年、ブラジルをたずねて』でデビューした。『魔女の宅急便』で1985年に野間児童文芸賞、10歳で疎開したときの体験をもとにした『トンネルの森1945』で、2016年に産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞した。角野は、「本を開くとき、人は、別の世界への扉を開ける。でも、本を読み終えたら、扉を閉めることになるかというと、そうではなく、そこからまた新たな世界が広がる」と語っており、これまで200以上の作品を発表している。

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イーゴリ・オレイニコフ(Igor Oleynikov)

1953年ロシア・モスクワ近郷のリュベルトツィ生まれ。アニメーションの制作に携わった後、児童雑誌や本の挿絵を手がけるようになった。映画のように場面を切り取り、重厚なグワッシュを用いてユニークな登場人物の物語を描き、おとぎ話をはじめ、80以上の作品を発表している。そのうち、“Ballada o malen’kom buksire”(The ballad of a little tugboat, 2011)は、2012年にIBBYオナーリストに選ばれた。


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(2018.04.24 update)