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- > 第1章 初期の児童文学 ‐ 教訓物語から日常小説へ
18世紀半ばまで、子どもの本の多くは「努力と勤勉が人をいかようにでもする」といった宗教的倫理観に支えられた道徳的・教訓的なものや、啓蒙的な「お説教臭い」作品が中心で、どのような本が子どもに喜ばれるかといったことが考慮されることはありませんでした。
そのような中、「おもしろくて、ためになる」子どものための本の出版を初めて本格的に手掛けたのが、ロンドンの書籍商ジョン・ニューベリー John Newbery(1713~1767)です。『小さなかわいいポケットブック』(1744)は、子どもの教訓だけでなく楽しみを与えた最初の本と言われています。ニューベリーは、増え続ける都市部の中産階級の子どもたちを対象に数多くの子どもの本を出版し、その名はアメリカでもっとも権威のある児童文学賞(1922~)に冠されています。
このころから次第に、子どもたちに教え諭す単純な教訓物語よりも、楽しませることを意図した方法で表現することが重視されるようになり、軽妙な挿絵入りで子どもの内面への洞察に優れた作品も現れ始めます。19世紀半ばには、ジュリアナ・ホレイシア・ユーイング Juliana Horatia Ewing(1841~1885)、メアリ・ルイザ・モールズワース Mary Louisa Molesworth(1839~1921)や、1873年に創刊されたアメリカの児童雑誌”St. Nicholas”に連載された『小公子』(1886)のフランシス・ホジソン・バーネット Frances Hodgson Burnett(1849~1924)らによる少女小説、家庭小説が盛んになります。
また、パブリックスクールの普及を背景とした『トム・ブラウンの学校生活』(1857)のトマス・ヒューズ Thomas Hughes(1822~1896)らによる学校小説など、子どもたちの日常に根差した作品が次々と登場します。
未来への希望や可能性に満ちた、子どもの理想の姿を求める児童文学の萌芽がここに見られます。
1-1
小さなかわいいポケットブック(A little pretty pocket-book)
ジョン・ニューベリー/作
出版地 London
出版者 Oxford University Press
出版年 1966
1-2
くつふたつの物語(The history of little Goody Two-Shoes, otherwise called Mrs Margery Two-Shoes)
(オリバー・ゴールドスミス)/作
出版地 London
出版者 G. Routledge & Sons
出版年 [18--?]
1-4
たとえばなし-子どもに動物の扱い方を教えることを意図した本(Fabulous histories, or, The history of the robins : designed for the instruction of children, respecting their treatment of animals)
トリマー夫人/作
出版地 London
出版者 Printed for J.F. Dove
出版年 1833
1-5
サンドフォードとマートンの物語(The history of Sandford and Merton)
トマス・デイ/作
出版地 London
出版者 G. Routledge
出版年 [1880]
1-7
別荘物語(Holiday house : a book for the young)
キャサリン・シンクレア/作
出版地 London
出版者 Blackie & Son
出版年 [18--?]
1-8
ダーウィンおじさんのハト小屋(Daddy Darwin's dovecot : a country tale)
ジュリアナ・ホレイシア・ユーイング/作、ランドルフ・コルデコット/絵
出版地 London
出版者 Society for Promoting Christian Knowledge
出版年 [1881]