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第6章 21世紀の子どもの本 その1 絵本

21世紀の絵本と聞いて、何冊思い浮かぶでしょう。日本では、1960年代から70年代が「絵本の黄金期」といわれ、『ぐりとぐら』(1963年)や『いないいないばあ』(1967年)をはじめ、その頃に出版された絵本が今も多く読み継がれています。毎年1000〜1500タイトル出版されている新刊絵本については、あまり知らないという人も多いかもしれません。

今世紀のはじめには、二つの流れの、小さな絵本ブームがありました。ひとつは「大人の絵本ブーム」であり、もうひとつは家庭だけでなく集団を対象にする「読み聞かせ絵本ブーム」です。その背景には、2000年の「子ども読書年」を契機とした読書活動の広がりがあります。これらの動きは、絵本の読者層を広げると同時に、出版の傾向にも影響を及ぼしてきました。

ここでは、社会が大きく揺れ動いた2001年から2013年の絵本を、三つの視点から紹介しています。何十年も読み継がれてきた古典絵本には、確かな魅力がありますが、絵本は時代の空気、社会を反映する文化でもあります。今を生きる大人が、今を生きる子どもたちに向けて送り出した21世紀の絵本。その新しい表現と傾向に注目してみてください。

1 国境を越えた絵本づくり ―逆輸入絵本と共同出版

絵本ブームの影響を受け、2000年代には絵本作家を志望する人が多くなり、国外での出版の可能性を探る日本人もふえてきました。その舞台となったのが、イタリアのボローニャ・ブックフェア(Bologna Children’s Book Fair)です。絵本作家の登竜門といわれるコンクールの受賞などを通して海外の出版社から注目され、他国でデビューした後、日本に紹介されるという「逆輸入絵本」の現象も広がりました。

理念を共有する他国の出版社との共同出版も、動き出しました。「日・中・韓 平和絵本」は、三国の絵本作家と出版社が協力し合い、平和をテーマにした絵本をそれぞれの言語で同時出版するプロジェクトです。

造本作家・駒形克己は、五感に訴える独自の絵本づくりにこだわり、フランスやメキシコの出版社と共同で絵本を出しています。

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6-1-1ぼくはカメレオン
たしろちさと 作・絵
ノルドズッド・ジャパン 2003(平成15)
(A Michael Neugebauer book)
当館請求記号 Y17-N04-H188
カメレオンのカルロがジャングルに巻き起こす騒動を、色彩豊かに力強く描いた絵本。2003年に、日本語、英語など8か国語版が、世界7か国で同時発売された。2010年にグランまま社から新デザインの改訂復刊版が出版されている。

6-1-2Carlo Chamäleon
Chisato Tashiro
Michael Neugebauer Verlag 2004
当館請求記号 Y18-B402
『ぼくはカメレオン』のドイツ語版。第2版。

6-1-3Camaleò
Chisato Tashiro 作・絵 Luigina Battistutta 訳
Nord-Sud 2003
当館請求記号 Y18-B205
『ぼくはカメレオン』のイタリア語版。

6-1-4Je suis…
Taro Miura
La Joie de lire [2004]
(Collection les versatiles)
当館請求記号 Y18-B938
自分の中にいるいろいろな自分を楽しく見つめる絵本。2004年にスイスの出版社から出された『ぼくは…』のフランス語版。

「ぼくは…」のサムネイル

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6-1-5ぼくは…
三浦太郎 著
ブロンズ新社 2005(平成17)
当館請求記号 Y17-N05-H947
2005年に出版された『Je suis…』の日本語版。

6-1-6Moving blocks
Yusuke Yonezu
Michael Neugebauer Publishing Ltd. 2011
当館請求記号 Y18-B932
穴のあいたページをめくると、四角く積み上げられた積木が、次々と乗物に変わる仕掛け絵本。2011年4月に出版された『のりものつみき』の英語版。

「のりものつみき」のサムネイル

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6-1-7のりものつみき
よねづゆうすけ 作
講談社 2011(平成23)
当館請求記号 Y17-N11-J697
英仏独語版などの刊行後に出版された『Moving blocks』の日本語版。

6-1-8Puss & boots
Ayano Imai 作 Sayako Uchida 訳 Kate Westerlund 翻案
Minedition/Michael Neugebauer 2009
当館請求記号 Y18-B730
民話「長靴をはいた猫」を新たにアレンジした物語が、繊細な筆致で描かれている。

「くつやのねこ」のサムネイル

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6-1-9くつやのねこ
いまいあやの 文・絵
BL出版 2010(平成22)
当館請求記号 Y17-N11-J50
『Puss & boots』の日本語原作。2009年の英語版刊行後、日本で出版された。

「Little tree = Petit arbre」のサムネイル

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6-1-10Little tree = Petit arbre
駒形克己 作
One stroke 2008(平成20)
当館請求記号 Y17-N13-L913
小さな一本の木が季節とともに成長し姿を変えていく様子を立体的に表現。日仏英の3か国語で書かれ、フランスのTrois Ours社と日本で共同出版された。

「へいわってどんなこと?」のサムネイル

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6-1-11へいわってどんなこと?
浜田桂子 作
童心社 2011(平成23)
(日・中・韓平和絵本)
当館請求記号 Y17-N11-J589
日本の作家が「へいわ」とは何かを平易なことばで語りかける。

「京劇がきえた日 : 秦淮河・一九三七」のサムネイル

「京劇がきえた日 : 秦淮河・一九三七」の拡大画像を開きます

6-1-12京劇がきえた日 : 秦淮河・一九三七
姚紅 作 姚月蔭 原案 中由美子 訳
童心社 2011(平成23)
(日・中・韓平和絵本)
当館請求記号 Y18-N11-J188
中国の作家による。京劇役者と幼い少女の交流と別れを通して、戦争が奪う文化について描く。

「非武装地帯に春がくると」のサムネイル

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6-1-13非武装地帯に春がくると
イ・オクベ 作 おおたけきよみ 訳
童心社 2011(平成23)
当館請求記号 Y18-N11-J189
(日・中・韓平和絵本)
韓国の作家による。朝鮮半島に横たわる非武装地帯の四季と平和への希望を描く。

2 赤ちゃん絵本の広がり ―さまざまな試み

少子化、核家族化が進むなか、親子のコミュニケーションを深める手段として、乳児への読み聞かせが重視されるようになりました。月刊絵本『こどものとも0.1.2.』(1995~)は、10カ月から2歳までの赤ちゃんの感覚にどのような表現が響くのか、新しい探求の先駆けとなりました。

2001年、自治体からすべての赤ちゃんへ絵本を手渡す事業「ブックスタート」が始まり*1、多くの出版社が赤ちゃん絵本に取り組み始めました。現在では毎年200タイトル以上*2の赤ちゃん絵本が出版されるようになり、写実から抽象、図鑑からナンセンス絵本まで、表現も内容もバラエティに富んでいます。2003年に始まったシリーズ「谷川俊太郎のあかちゃんから絵本」では、現代美術家の絵画に、意味以前の言葉を組み合わせるなど、一作ごとに冒険的な試みが見られます。

  1. *1 2014年11月30日現在1741自治体中899市区町村が実施
  2. *2 NPOブックスタート調べ
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6-1-14ころころにゃーん
長新太 さく
福音館書店 2011(平成23)
(0.1.2えほん)
当館請求記号 Y17-N11-J512
作者の遺作とされるシュールなナンセンス絵本。『0.1.2.えほん』シリーズの初出は、月刊絵本雑誌『こどものとも0.1.2.』。

「バルンくん」のサムネイル

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6-1-15バルンくん
こもりまこと さく
福音館書店 2003(平成15)
(0.1.2えほん)
当館請求記号 Y17-N03-H142
精巧なタッチで描く生き生きとした表情の車が主人公。

「おおきい ちいさい」のサムネイル

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6-1-16おおきい ちいさい
元永定正 さく
福音館書店 2011(平成23)
(0.1.2えほん)
当館請求記号 Y17-N11-J980
2011年に亡くなった現代アート作家による抽象美術の概念絵本。

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6-1-17はしるのだいすき
わかやましずこ さく
福音館書店 2003(平成15)
(0.1.2えほん)
当館請求記号 Y17-N03-H144
右から左へ次々と駆け抜ける動物たち。めくる喜びを味わえる。

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6-1-18あめかな!
U.G.サトー さく・え
福音館書店 2009(平成21)
(0.1.2えほん)
当館請求記号 Y17-N09-J719
だまし絵で知られる作者による、子どもの遊び心を刺激する絵本。

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6-1-19とってください
福知伸夫 さく
福音館書店 2003(平成15)
(0.1.2えほん)
当館請求記号 Y17-N03-H244
ぬくもりのある木版画と繰り返しのフレーズが赤ちゃんに安心感を与える。

「もじゃらんこ」のサムネイル

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6-1-20もじゃらんこ
きしだえりこ ぶん ふるやかずほ え
福音館書店 2011(平成23)
(0.1.2えほん)
当館請求記号 Y17-N11-J183
穏やかな植物画で知られる画家と詩人が、正体不明のユーモラスな主人公たちを描く。生きる喜びが伝わる絵本。

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6-1-21まり
谷川俊太郎 文 広瀬弦 絵
クレヨンハウス 2003(平成15)
当館請求記号 Y17-N03-H342
文は擬音語のみ。擬音とともに「まり」が動き、形を変える。太い輪郭線と鮮やかな色彩も赤ちゃんの視覚を刺激する。谷川俊太郎の「あかちゃんから絵本」シリーズの1冊。

「ぽぱーぺぽぴぱっぷ」のサムネイル

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6-1-22ぽぱーぺぽぴぱっぷ
おかざきけんじろう 絵 谷川俊太郎 文
クレヨンハウス 2004(平成16)
当館請求記号 Y17-N04-H1229
乳幼児は半濁音や撥音に反応する。半濁音の音と文字が前衛的な絵に溶け込む芸術性あふれる赤ちゃん絵本。「あかちゃんから絵本」シリーズの1冊。

「あっ!」のサムネイル

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6-1-23あっ!
中川ひろたか ぶん 柳原良平 え
金の星社 2008(平成20)
(はじめての絵本たいむ)
当館請求記号 Y17-N08-J1056
乗り物絵本。「あっ!」と赤ちゃんが発見し、ページをめくると発見した乗り物、さらにめくると乗り物の擬音が登場する。3拍子のリズムが心地よい。

「くっついた」のサムネイル

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6-1-24くっついた
三浦太郎 作・絵
こぐま社 2005(平成17)
当館請求記号 Y17-N06-H205
離れた動物がページをめくるとくっつく。最後は親子で「くっついた」。思わず子どもと頬ずりしたくなる絵本。

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6-1-25まるさんかくぞう
及川賢治, 竹内繭子 作
文溪堂 2008(平成20)
当館請求記号 Y17-N08-J661
右開き縦長の体裁。1ページに物体が3つずつ積み上げてあり単語も3語。不安定さや異質な感覚を赤ちゃんと楽しむ1冊。

「コップちゃん」のサムネイル

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6-1-26コップちゃん
中川ひろたか ぶん 100% ORANGE え
ブロンズ新社 2003(平成15)
当館請求記号 Y17-N03-H798
赤ちゃんの身近な物を主人公とするシリーズの1冊。表情豊かなコップ、縦書きの文字と余白が印象的。

3 3.11以降の絵本 ―新しい希望のかたち

2011年3月11日に起きた東日本大震災と原子力災害は、日本の子どもの本の作り手を揺り動かしました。この災害をどのように子どもたちに伝え、被災した子どもたちにどう寄り添っていけるのか。これからの絵本は、どんな希望を読者に語っていけるのか。多くの作家がそれぞれの方法を模索しながら、自分の表現と向き合い続けています。

そうして生まれた3.11以降の絵本には、災害の現実をリアルに描いたものもあれば、ほがらかに勇気づけようとするもの、深い喪失感に寄り添うもの、不安や迷いを共有しようとするもの、日常のかけがえなさに光をあてるもの、自然の力を見直し、現代社会のあり方に警鐘を鳴らすものもあります。

大震災は、絵本の送り手だけでなく、受け手の読み方にも変化を来しました。私たちは今、新しい希望の表現が誕生しようとする分岐に立っています。

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6-1-27はしれ、上へ! : つなみてんでんこ
指田和 文 伊藤秀男 絵
ポプラ社 2013(平成25)
(ポプラ社の絵本 ; 17)
当館請求記号 Y1-N13-L95
「てんでんこ」とは岩手県の方言で「てんでんばらばらに」の意味。日頃から避難訓練を繰り返し、大津波をみんなで生きのびた釜石の小・中学生の実話。

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6-1-28ラーメンちゃん
長谷川義史 作
絵本館 2011(平成23)
当館請求記号 Y17-N12-J428
とぼけたギャグを飛ばし、子どもたちを笑顔にしていった「ラーメンちゃん」。作者が石巻の子どもたちを励ますために手作りし読み聞かせた絵本が、後日出版された。

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6-1-29およぐひと
長谷川集平 [作]
解放出版社 2013(平成25)
(エルくらぶ)
当館請求記号 Y17-N13-L344
家に戻りたい人、家から逃げざるを得ない人。作者は多くを語らず、しかし、子どもたちに伝えたくても伝えきれない「3.11」の現実を静かに描いている。

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6-1-30ハナミズキのみち
淺沼ミキ子 文 黒井健 絵
金の星社 2013(平成25)
当館請求記号 Y17-N13-L461
津波で息子を亡くした母親が、「大好きな町を守りたい」、「悲劇を繰り返さないで」という息子と自分の思いを託し、悲しみから立ち上がって作った絵本。

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6-1-31あさになったのでまどをあけますよ
荒井良二 著
偕成社 2011(平成23)
当館請求記号 Y17-N12-J14
窓を開けるといつもの風景がある。「どんな時も日常」として生きている画家が、今そこにある日常の貴さを描いた作品。

「ここにいる」のサムネイル

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6-1-32ここにいる
舟崎克彦 詩 味戸ケイコ 画
ポプラ社 2011(平成23)
当館請求記号 KC482-J374
大切な人を喪ったすべての人々に向けて、静かな言葉とモノトーンの絵で語りかける絵本。

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6-1-33火の話
黒田征太郎 作
石風社 2011(平成23)
当館請求記号 Y17-N12-J526
火の神は、他の動物より力の弱い人間に火を授け、火を使って殺し合いをしないように約束させたが…。火の神の目線から、「火」を正しく使うよう訴えた作品。

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6-1-34さがしています
アーサー・ビナード 作 岡倉禎志 写真
童心社 2012(平成24)
当館請求記号 Y1-N12-J287
広島の「ピカドン」を知る14点のモノたちが、現代に語りかける写真絵本。弁当箱は「いただきます」を、やかんは「ほんものの火」を、失われた日常と大切な人々を「さがしています」と。

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6-1-35メガネくんのゆめ
いとうひろし 作・絵
講談社 2012(平成24)
(講談社の創作絵本)
当館請求記号 Y17-N12-J1022
みた夢を思いだせないメガネくん。ご近所さんたちに朝ごはんや散歩に誘われ、彼らの夢の話を聞くと…。読者を幸福の記憶へ導く夢絵本。

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6-1-36新世界へ = To The New World
あべ弘士 [作]
偕成社 2012(平成24)
当館請求記号 Y17-N12-J1070
3000キロにもおよぶカオジロガンの渡りを描く。若鳥にとっての「新しい世界」であり、大昔から受け継がれる「約束の地」をめざして、第2ページから最後まで、鳥たちは飛び続ける。

「おじいさんとヤマガラ : 3月11日のあとで」のサムネイル

6-1-37おじいさんとヤマガラ : 3月11日のあとで
鈴木まもる 作・絵
小学館 2013(平成25)
当館請求記号 Y17-N13-L239
ヒナの巣立ちを毎年見守ってきたおじいさん。原発事故がおこり、おじいさんの心配したとおりに異変があらわれる。作者は、鳥の巣研究家でもある。