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国際子ども図書館主催の展示会のお知らせです。

国際子ども図書館開館記念国際シンポジウム 抄録

第二部 国際子ども図書館開館にあたって−報告と討議− その1

休憩をはさんで、第二部では、松岡享子氏の司会で、国際子ども図書館についての報告や討議が行われた。まず国際子ども図書館とは何であるか、なぜできたのか、そしてなんであろうとしているのかということについて館長より報告がなされた。

第二部 国際子ども図書館開館にあたって−報告と討議−

亀田邦子

先ほど、松岡さんから日本の図書館、子どもをとりまく状況、特に図書館や文庫などの子どもの読書にまつわる状況が紹介されましたが、日本では子どもが本を読むための図書館が充実している、本がたくさん出版されるという状況がありながら、一方では子どもがじっくりと読書をする、いい読者に育つという環境が整っていない、本を読む子はたくさん読むけれど、読まない子も非常に増えているというギャップの中にこのプロジェクトの構想が出てきたと考えます。もともとは、ここ十数年、子どもが本を読まないという状況を何とかしなければと、真剣に考えていた大人たちが、これは国として取り組むべき重要な課題であるという認識のもとに、非常に熱心に動いて政治家まで動かしてここにきたという、非常にめずらしい現象ではないかと思います。

個人の文庫、ある地方自治体の図書館ではなく、国を動かしてこの子どもの本に関する専門の図書館をつくった、しかも、財政の厳しい状況の中でこういうことができた、ということは非常に大事なことだと思います。21世紀を生きる子ども達のために20世紀の子ども達の置かれている状況の反省にたって、贈り物としてこれはつくられるのだと、そういう意識を持ってこのプロジェクトに関わっていたすべての大人が取り組んできたのです。子どもにとっての読書の意味は、先ほどそれぞれの方がそれぞれの国の状況の中で、本質的なことを述べられましたが、それに対する認識を基本にして、国が取り組んでいくべきことと判断してここまできたのだということが非常に大きなことだと思います。この子ども図書館をどういう性格のものにするか、何をするためのものであるかということについては、関係者の中でさえも十分に合意に達したということではありませんが、それぞれがそれぞれの立場にたって考えながら、歩みながら今の形を実現したのです。

では国立であることの意義や役割は、何でしょう。子どもが本を読むことを盛んにしていくことの基本は、子どもの一番身近な図書館、環境というものが大事です。 国に一つすばらしい図書館があるということがすなわち子どもの本の読書環境が整うということでは決してありません。そういう意味で国立であることの意味というのはやはり、他の図書館を作ることとは違います。その国立であることの意味を私は三つあげられると思います。

一つは資料と情報ということです。子どもに関する本も含めた子どもの本や、その情報に国が取り組むことによって、日本中の子どもの本がすべて、そして日本だけではなく世界中の子どもの本がここに集まってくるということ、こういうものを土台にして子どもの本の図書館サービスや、子どもの本にまつわるさまざまな活動を支えていけるようになる、それはまさに国でなくてはできないことだと思います。

それから国の中央の図書館としてできたこの国際子ども図書館は、国際的な意義を持ちます。世界的な意味での役割とはまず、各国のナショナルセンターや子どもの読書普及といった真摯な取り組みを続けている方々と手を携えて、−これはIBBYの活動とも繋がると思いますが−子ども達に本を手渡すためのいろいろな役割を担っていく、大きなサービスにしていくということです。もう一つ国際的な意義として、子どもの本を通しての異文化理解に貢献するということもあります。アジアの一員でありながら、日本の子どもは隣の韓国の事情も十分に知らないという状況にあります。それからダスさんのインドの国などについても日本の子どもは詳しく知らされていません。それを子どもの本を通して小さいときから異文化を理解する、日本の子どもの本を通して外国の子どもが日本を理解する、そういうことのための基本的な役割を果たすことが国の施設ならばできる、そしてしなければならないと認識しています。

それから、電子化時代の読書ということに関連して、国際子ども図書館では、電子図書館という取り組みをしています。電子図書館とは、本と対立するものとして存在するのではなくて、子どもに本を開かせるということをより効果的にするための一つの方法として、そういう仕組みを使っていくというように認識しています。子ども達が活字だけではなく、さまざまなメディアに囲まれている今日、そういうメディアをとり込んでいくことも大事でしょう。これにはやはり、システム開発やさまざまな基本的な手立てを講じなくてはならない部分があります。それを国の役割として、皆様に期待されている部分だと考えています。こういうことも、国立だからできること、国立だからこそしなければならないことであるのではないかと思います。

さらに重要なこととして、この図書館に課せられた役割が二面性を持っているということを申し上げたいと思います。一つは、子どもに本を手渡すのは大人の役割と先ほど触れておられましたが、その大人が子どもに本を手渡すための活動をするのをバックアップするということです。支援する、活動の拠点となるという意味での大人へのサービスをする、「子どもに奉仕する人に奉仕する」という大人へのサービスという役割を一つ持っているのです。

もう一つは子どもへのサービスです。子どもの本を基本に置く図書館として、子どもへどういうサービスをするか、その部分を削ぎ落としたナショナルセンターというのも世界には結構多く見うけられますが、日本においては子どもへのサービスという部分について、大人へのサービスと同等に大事なものとして考えていこうとしています。ただし、子どもへのサービスは、日々、子どもが来て本を読む図書館としてのサービス、地域の図書館としてのサービスではなくて、「子どもと本のふれあいの場の提供」という、子どもが本をもっと読むためのきっかけをつかんでもらうという意味での役割を想定しています。それはシャリオットさんのリーディングミュージアムというミュンヘンのそういう役割にかなり触発されています。豊富な資料と電子図書館機能を使うということ、国際的な側面を持っているということによって、子どもへのサービスが、子どもと本のふれあいの場、子どもに読書をするきっかけを与える役割を果たすということが、非常に有効なのではないかと思っています。それから上野公園にあるあの建物に来るということのほかに、日本の国立図書館として、どの子も平等にサービスを受けられるようにということで、電子図書館機能、例えばホームページを開設することによって、あの図書館が持っている子どもの本についての情報、資料というものにアクセスしやすくするというサービスを考えています。この二つの側面を持つということが、このプロジェクトに関わっておられた多くの方々の希望でした。もちろん、国立の図書館として一番大事なのは、資料をきちんとそろえて、それを整理していつでも使えるようにし、大人をサポートすることこそ第一義的な役割であるという声があり、同時に、子どもへのサービスを合わせてやっていくことが基本になければ、子どもの本の図書館のサービスのサポートができないのだという声も多くありました。その結果として、私たちはこの二つの側面を持った図書館をつくったわけです。このことは、ややもすると、非常に中途半端な性格になるという危険性も持っているし、なかなかそれぞれが十分なサービスにならないという恐れがあります。まだ誕生したばかりでわかりませんが、こういう二つの面がそれぞれに充実していくように、いい関係でこの二つが有効的に機能していくような図書館にしていきたいと思っています。

ここで国際的という面を考えてみたいと思います。アジアの一員としての日本に設立された子どもの図書館であるということの意味を非常に重く受け止めています。さきほどアジアの三つの国からのご報告がありましたが、欧米の国の紹介とはかなり色彩が違っていました。子どもが本を読むことが大事であれば、どの子も本を読めるように、そういう時代が来るように日本がアジアにおいて果たすべき役割はとても大きいと思います。私たちがすぐにいろいろなことができるとは思いませんが、アジアの資料をたくさん集めていきたいと思っていますし、アジアで子どもが本を読めないような環境を、少しでも読める環境にしていくような、そういうことのためのお手伝いになることをやっていきたいと考えております。私たちが手伝うだけではなくて、もちろんそういう国々で今まですばらしい活動をしてこられた方のお力を借りるという側面を持っているということを踏まえていなければならないでしょう。アジアだけではなくて、世界ということをもちろん考えなくてはなりませんが、特にアジアを重要に考えているということを申し上げました。国際子ども図書館が何なのか、何であろうとしているのかということは、これで十分であるとは思いませんが、こういうことを目指した図書館になっていこう、そうしたいと思っています。ご承知のように5月5日にオープンした国際子ども図書館は、建物もまだ三分の一しかできていません。これから全体ができるまでの2年間は非常に部分的なサービスしかできませんが、10年20年30年をかけていずれ、創立50周年をむかえたミュンヘンの図書館が到達したすばらしい地点まで、私どもの図書館も到達できるように努力していきたいと思います。