子どもの本・翻訳の歩み展

国際子ども図書館主催の展示会のお知らせです。

※こちらの展示会は終了しました

期間 2000年5月6日(土)から6月4日(日)まで。9:30 - 17:00 月曜休館
会場 国際子ども図書館 3F「ミュージアム」にて。入場無料
主催 国立国会図書館・(社)日本国際児童図書評議会

近代以降の日本において翻訳文化が果たした役割の大きさは、児童文学の分野においても変わりがありません。国際子ども図書館の開館を記念するこの展示会は、海外の作品の翻訳を通じて発展してきた近代日本児童文学の系譜を約300点の作品の展示により紹介するものです。

展示は、大きく2つの部分で構成されています。1つは、明治以後、1960年代までの日本の児童文学の歴史を7つの区分に「輪切り」にして、それぞれの時期において、日本の創作児童文学の状況と、翻訳児童文学との関係を紹介するものです。

子どもの本 翻訳の歩み・7つの時期区分

  • (1) 子どもの文学の誕生(1868年~1909年)
  • (2) 成長する子どもの文学(1910年~1917年)
  • (3) 花開く時代(1918年~1926年)
  • (4) 広がる子どもの本(1927年~1937年)
  • (5) 戦争をはさんで(1938年~1949年)
  • (6) 「近代」から「現代」へ(1950年~1958年)
  • (7) 「現代」の出発(1959年~1969年)

また、子どもの本の翻訳に関して、歴史的な観点だけでは見えにくい問題について、3つの特設コーナーを設けました。

特設コーナー

[1]子どもの本・翻訳事始

日本の子どもたちのために外国の文学作品を翻訳するという仕事は、いつ、どのよう にしてはじまったのでしょうか。ここでは、日本における子どもの本の翻訳の源流としての『ロビンソン・クルーソー』を取り上げます。

[2]「翻訳」のさまざま

外国の文学作品が移入される際に、子どもを意識して、どのような配慮がなされてきたのでしょうか。「翻案」という方法や映像メディアとの交渉など翻訳者たちの工夫について、具体的に考えます。

[3]「絵本」がやってきた

「ことば」が物語を語っていく児童文学は、同じ作品でも、さまざまなかたちの本になりえます。文学書とちがい、見開きの絵が物語を語り、ページをめくっていくことによって展開していく「絵本」の場合、ある特定のかたちをもった「モノ」としての側面を持っています。ここでは、絵本の翻訳の歩みをたどります。

<展示資料から> ※<>は国立国会図書館請求記号

『八つ山羊』(1887)グリム/作

1. 『八つ山羊』(1887)グリム/作 <YDM103161>

グリムの『おおかみと七匹の子やぎ』。絵に仕掛けがある。

2. 『おほかみ』(1889)グリム/作 <YDM102874>

同じく『おおかみと七匹の子やぎ』 。原文の山羊が羊になっている。日本家屋、着物姿の挿絵が面白い。

『おほかみ』(1889)グリム/作

3. 「十五少年」『少年世界』掲載(1896)ジュール・ヴェルヌ/作 <サ52−10>

原題は「二年間の休暇」。ヴェルヌ晩年の 少年冒険小説。孤島での少年たちの活躍ぶりはその後日本の冒険物に大きな影響を与えた。

『小公子』(1897)若松賤子/訳

4. 『小公子』(1897)若松賤子/訳 <YDM103024>

明治23~25年に『女学雑誌』に連載されたものを、前後編まとめた完本。原作の精神をくみ取った、なめらかな名訳で知られる。

5. 『十二健児』(1902)エドモンド・デ・アミーチス/作 <YDM101050>

抄訳であるが、『クオレ』を日本に初めて紹介したものとして貴重。

6. 『未だ見ぬ親』(1903)マロ/作 五来素川/訳 <大阪府立国際児童文学館所蔵>

『家なき児』の初訳。人物も地名も日本名に変え、日本の話として紹介。母親探しの旅物語は感動を呼んだ。

7. 『驪語』(くろうまものがたり)(1903)シュウエル/作 <YDM100962>

『黒馬物語』の最初の完訳。

8. 『ストウ夫人の奴隷トム』(1903)ストウ夫人/作 <YDM101248>

アメリカの南北戦争の口火となったともいわれる小説。奴隷制を憎む作者のメッセージは、大人にも子どもにも強い印象を与えた。

9. 『赤靴物語』(1908)アンデルセン/作 <YDM102854>

少年少女のために外国文学を紹介する叢書の一つとして出版される。

10. 『アリス物語』(1912) ルイス・キャロル/作 永代静雄/訳 <児乙部12-N-1>

『少女の友』に連載した『不思議の国のアリス』の初訳を単行本にした。

11. 『フランダースの犬』(1909)ウィーダ/作 日高善一/訳 <YDM101356>

日本基督教会の牧師による初訳で、小冊子ながら多くの読者を得、40版を重ねた。清と斑(ブチ)の物語として翻案されている。

12. 『安得仙家庭物語』 (1911)アンデルセン/作  <YDM100803>

「醜い家鴨の雛」をはじめ、アンデルセン童話25編を収録。

13. 『家なき児』 (1912) マロー/訳 菊池幽芳/訳 <YDM100805>

新聞連載後の単行本。母探しという主題が日本人の感性によく合い、感傷的物語として長く読み継がれる。以後この表題が使われるようになる。

14. 『飛行一寸法師』 (1918)ラーゲルレーフ/作 香川鉄蔵/訳<377-28>

「ニルスの不思議な旅」の初訳。

15. 『ハイヂ』 (1920)スピリイ/作 野上弥生子/訳 <375-39>

初めて「ハイジ」が日本に紹介される。アルプスの少女像は清純さ、健全さの象徴となる。

16. 『若草物語』 (1934)オルコット/作 矢田津世子/訳 <大阪府立国際児童文学館所蔵>

この年に日本でアメリカ映画『若草物語』が公開され、訳書にも同じタイトルがついた。以後、このタイトルが定着した。

17. 『少年探偵団』(1934) ケストナー/作 中西大三郎/訳 <大阪府立国際児童文学館所蔵>
『少年探偵エミイル』(1934) ケストナー/作 山本夏彦/訳 耕進社 <三康図書館所蔵>
『少年探偵エミール』(1934) ケストナー/作 菊地重三郎/訳 中央公論社

ケストナーが初めて日本に紹介された、この三冊連続の出版現象は、同作品のドイツ映画が5月に封切りされたため。映像メディアと子どもの本の始まりを示すものとして興味深い。

18. 『長い冬』上・下(1949)ローラ・ワイルダー/作 石田アヤ/訳 <児95—W—2>

ワイルダー作品の初訳。「小さな家」シリーズの第6冊目で、最もドラマチックな作品。以後、シリーズが少しずつ訳出される