展示会「スペイン語でつながる子どもの本―スペインと中南米から」小冊子 (表紙) 展示会「スペイン語でつながる子どもの本―スペインと中南米から」 Children’s Books in Spanish from Spain and Latin America (4点の書影を上記展示会タイトルの下に配置) (書影の配置) 1『かちんこちんのムニア』(書影)アスン・バルソラ 作・絵 宇野和美 訳 徳間書店 1996 2『めがねっこマノリート』(書影)エルビラ・リンド作 エミリオ・ウルベルアーガ 絵 とどろきしずか 訳 清水憲男 監修 小学館 2005  3『マルコとパパ:ダウン症のあるむすことぼくのスケッチブック』(書影)グスティ 作・絵 宇野和美 訳 偕成社 2018  4『いいこにして、マストドン!』(書影)ミカエラ・チリフ 文 イッサ・ワタナベ 絵 星野由美 訳 ワールドライブラリー 2015 (国際子ども図書館シンボルマーク) 国立国会図書館国際子ども図書館 International Library of Children's Literature (1ページ) 展示会「スペイン語でつながる子どもの本―スペインと中南米から」では、国際子ども図書館の所蔵資料から、スペイン語で書かれた子どもの本とその翻訳書を展示します。スペイン語を公用語とする国はスペインだけでなく、大西洋を隔てた中南米にも数多く存在します。この展示会では、スペイン語圏の国々出身の作家・画家たち、中でも、現地で子どもの本の出版が増え始めた1980年代以降に活躍してきた作家や画家に焦点を当て、その多彩で表現豊かな作品の数々を紹介します。この機会に、スペイン語の子どもの本の魅力を感じてみてください。 注) 作家・画家名の日本語よみは、翻訳家の宇野和美氏にご協力をいただきました。書籍の表記とは異なる場合があります。 海を渡るスペイン語 15 世紀末、スペインの支援を受けた探検家コロンブスが大西洋を渡ってカリブ海の島に到達しました。その後、スペイン人が次々と中南米に上陸し、独自の文明を築いていたアステカ王国やインカ帝国を征服します。スペインによる植民地支配は19 世紀頃まで続き、中南米にスペイン語が定着しました。 スペイン語を公用語とする国  世界地図上に、スペイン語を公用語とする国に青く色をつけています。 国名に下線が引かれた国を本展示会の作家・画家紹介で取り上げます。 スペイン語を公用語とする国は、展示会で取り上げているスペイン、アルゼンチン、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルーのほか、ベネズエラ、エクアドル、ボリビア、ウルグアイ、パラグアイ、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマ、キューバ、ドミニカ共和国、赤道ギニアの20か国 本展示会の作家・画家紹介で取り上げる国はスペイン、アルゼンチン、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルーの6か国 (2ページ) スペイン出身の作家・画家 スペインの子どもの本をめぐる状況 スペインでは、1930年代の内戦後、フランコ総統による独裁政権下で検閲が行われ、出版が制限されていました。1970年代のフランコ政権の終焉とともに民主化が進み、検閲などの制約が廃止されると、子どもの本の刊行も盛んになりました。児童文学の分野では、1980年代以降、歴史ものやファンタジーなど様々なジャンルの作品が生まれました。社会の現実をとらえた作品や、思春期の子どもたちの内面を描いた作品も数多く見られます。絵本の分野でも、近年は、中小の出版社が競って個性的な絵本を手がけています。 (スペイン国旗)スペイン 【ホセ・マリア・サンチェス-シルバ】 スペインの現代児童文学において先駆的役割を果たした作家の一人です。孤児院を転々とするなど、厳しい子ども時代を過ごしました。人生のすばらしさを描いた作品を数多く手がけ、1968年に、スペインの作家として初めて国際アンデルセン賞作家賞を受賞しました。 『さよならホセフィーナ』(書影)ホセマリア・サンチェスシルバ 作 江崎桂子 訳 ロレンソ・ゴニ 絵 学研 1967 【アスン・バルソラ】 長きにわたって児童書の絵を手がけ、スペイン国内外で数々の賞を受賞し、国際アンデルセン賞画家賞の候補にも2度選ばれた画家です。初期の作品は淡い水彩が特徴的ですが、1990年代半ばからは、はっきりとした主線と鮮やかな色遣いの作品が見られます。 『かちんこちんのムニア』(書影)アスン・バルソラ 作・絵 宇野和美 訳 徳間書店 1996 (3ページ) 【ジョルディ・シエラ・イ・ファブラ】 音楽雑誌を創刊して編集長を務めるなど、音楽業界で活躍するなか、作家になる夢もかなえ、1972年に最初の作品を出版しました。自身の名を冠した財団を設立し、児童文学の発展のためにも活動しています。国際アンデルセン賞作家賞の候補に何度も選出されています。 『ビクトルの新聞記者大作戦』(書影)ジョルディ・シエラ・イ・ファブラ 作 宇野和美 訳 ヒロナガシンイチ 絵 国土社 1998 【アルフレッド・ゴメス=セルダ】 2018年の国際アンデルセン賞作家賞の候補に選ばれた児童文学作家です。デビュー以来150点以上の作品を発表し、扱うジャンル、描くテーマ、対象とする読者層は多岐にわたります。コロンビアの都市メデジンに暮らす少年たちを描いた『雨あがりのメデジン』はスペイン国民児童文学賞を受賞しました。 『雨あがりのメデジン』(書影)アルフレッド・ゴメス=セルダ 作 宇野和美 訳 鈴木出版 2011 【エリアセル・カンシーノ】 人間の内面に起こる問題を理解するために哲学を学び、高校で哲学を教えながら、1980年から詩や小説などを発表し始めました。『フォスターさんの郵便配達』は、独裁政権下のスペインの漁村を舞台に、イギリス人のフォスターさんとの出会いを機に成長していく少年の姿を描いた物語です。 『フォスターさんの郵便配達』(書影)エリアセル・カンシーノ 作 宇野和美 訳 偕成社 2010 (4ページ) 【エルビラ・リンド】 ラジオの脚本を手がける中で生み出した男の子のキャラクター「マノリート」が人気を博しました。1994年に、マノリートを主人公にした物語『めがねっこマノリート』を刊行し、1998年にスペイン国民児童文学賞を受賞しました。映画の脚本家としても高い評価を得ています。 『めがねっこマノリート』(書影)エルビラ・リンド 作 エミリオ・ウルベルアーガ 絵 とどろきしずか 訳 清水憲男 監修 小学館 2005 【エレナ・オドリオソラ】 画家の祖父と父を持ち、広告業界での勤務を経て絵本画家になりました。繊細でなめらかなタッチとやわらかな色遣いが特徴です。2021年にブラチスラバ世界絵本原画展でグランプリを受賞し、国際アンデルセン賞画家賞の候補にも複数回選ばれています。 『あくびばかりしていたおひめさま』(書影)カルメン・ヒル 文 エレナ・オドリオゾーラ 絵 宇野和美 訳 光村教育図書 2009 【マヌエル・マルソル】 大学と大学院で広告、映画、児童文学など幅広い分野を学び、絵本作家になりました。特に画家としての独創的な表現力と高い技術力が評価され、国内外で数々の賞を受賞しています。『エイハブ船長と白いクジラ』は、ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』をもとにした作品です。 『エイハブ船長と白いクジラ』(書影)マヌエル・マルソル 作・絵 美馬しょうこ 訳 ワールドライブラリー 2016 (5ページ) 中南米出身の作家・画家 中南米の子どもの本をめぐる状況 中南米で子どもを読者として意識した本を手がける出版社が登場し始めたのは1980年頃でした。それ以降、中南米の子どもたちが生きる社会をありのままに描いた作品が数多く出版されてきました。 大半の国でスペイン語が話されている中南米では、国境を越えて活動する作家や画家が少なくありません。子どもの本の作り手たちは、スペイン語を介して連携し、互いに刺激し合って作品を生み出しているのです。 (アルゼンチン国旗)アルゼンチン 【リリアナ・ボドック】 アルゼンチン文学とスペイン文学の教師を務めたのち、児童文学の執筆を始めました。デビュー作で、三部作の長編ファンタジーである〈最果てのサーガ〉シリーズは数々の賞を受賞しました。その後も作品を発表し続け、2010年の国際アンデルセン賞作家賞の候補に選ばれました。 『最果てのサーガ 1』(書影)リリアナ・ボドック 作 中川紀子 訳 PHP研究所 2011 【グスティ】 スペイン語圏で広く活躍する画家で、約20か国で作品が翻訳出版されています。多様な表現スタイルを持ち、1989年のブラチスラバ世界絵本原画展での金のりんご賞など、数々の受賞歴があります。2022年の国際アンデルセン賞画家賞の候補にも選ばれました。 『マルコとパパ : ダウン症のあるむすことぼくのスケッチブック』(書影)グスティ 作・絵 宇野和美 訳 偕成社 2018 (6ページ) (チリ国旗)チリ 【マリア・ホセ・フェラーダ】 ジャーナリストとして活動するかたわら、チリの軍事独裁政権下で亡くなった子どもたちに詩集を捧げるなど、作家としても活躍しています。『いっぽんのせんとマヌエル』は、線にこだわりを示す自閉症の少年マヌエルとの出会いを機に生まれた絵本です。 『いっぽんのせんとマヌエル』(書影)マリア・ホセ・フェラーダ 文 パトリシオ・メナ 絵 星野由美 訳 偕成社 2017 (コロンビア国旗)コロンビア 【クラウディア・ルエダ】 コロンビアで法律と美術を学びながら新聞の風刺漫画を手がけ、その後アメリカで子どもの本に携わるようになりました。色鉛筆、木炭、コンピューター・グラフィックスなどを用いて絵を描いています。2016年の国際アンデルセン賞画家賞とリンドグレーン賞の候補に選ばれました。 『やだよ』(書影)クラウディア・ルエダ さく うのかずみ やく 西村書店 2013 (メキシコ国旗)メキシコ 【ガブリエル・パチェコ】 美術学校で舞台美術やデザインを学びました。シュルレアリスムを思わせる、不思議な印象を与える画風が特徴的です。『水おとこのいるところ』では、蛇口から生まれた心優しい水おとこの物語が、青を基調とする幻想的な色彩で表現されています。 『水おとこのいるところ』(書影)イーヴォ・ロザーティ 作 ガブリエル・パチェコ 絵 田中桂子 訳 岩崎書店 2009 (7ページ) (ペルー国旗)ペルー 【イッサ・ワタナベ】 ペルーの現代詩人で児童文学作家でもあったホセ・ワタナベと、画家である妻との間に生まれました。大学で美術を学んだのち、スペインのマヨルカ島に移住し、イラストレーターとして活動しました。その後ペルーに戻り、美術館で子ども向けの絵のワークショップも開催しています。 『いいこにして、マストドン!』(書影)ミカエラ・チリフ 文 イッサ・ワタナベ 絵 星野由美 訳 ワールドライブラリー 2015 特別コーナー 子どもたちを取り巻く社会 スペイン語圏の子どもたちを取り巻いている状況は明るい話題ばかりではありません。次の時代を担う子どもたちに向けて、貧困、暴力、内戦、クーデターなど、厳しい現実を伝える作品が意識的に作られています。軍事独裁政権や移民を題材にした作品もあります。 『ペドロの作文』(書影)アントニオ・スカルメタ 文 アルフォンソ・ルアーノ 絵 宇野和美 訳 アリス館 2004 学校で、夜の過ごし方についての作文を書くことになったペドロは、チリの軍事独裁政権に反対する両親をかばって嘘の話を書く。 『道はみんなのもの』(書影)クルーサ 文 モニカ・ドペルト 絵 岡野富茂子, 岡野恭介 共訳 さ・え・ら書房 2013 人口増加により自由に遊べる場所がなくなった子どもたちは、公園を作るよう、役所に訴える。ベネズエラの首都カラカスでの実話をもとにした作品。 発行 国立国会図書館 2022年10月4日 編集 国立国会図書館国際子ども図書館 〒110-0007 東京都台東区上野公園12-49 TEL  03-3827-2053(代表)   URL  https://www.kodomo.go.jp/ ISBN:978-4-87582-900-3 (国立国会図書館ロゴマーク) (リサイクル適性マーク)