「国際アンデルセン賞 受賞作家・画家展」小冊子 (表紙) 「国際アンデルセン賞 受賞作家・画家展」 The Hans Christian Andersen Awards 左上に「ミニガイド」と書かれていて、その下に上記展示会タイトルがあり、タイトルの周りには書影が5点と受賞メダルの写真が配置されています。 上段左から、『ふしぎなえ』(書影)安野光雅 著 福音館書店 1971年、『魔女の宅急便』(書影)角野栄子 作, 林明子 画  福音館書店 1985年、『精霊の守り人』(書影)上橋菜穂子 作, 二木真希子 絵 偕成社 1996年、下段左から『スーホの白い馬』(書影)大塚勇三 再話, 赤羽末吉 絵 福音館書店 1967年、『やぎさんゆうびん』(書影)まど・みちお さくし, 渡辺有一 え チャイルド本社 2010年 主催 (国際子ども図書館シンボルマーク) 国立国会図書館国際子ども図書館 International Library of Children's Literature JBBYロゴマーク (1ページ) この展示会は、今年11月に創立50周年を迎える日本国際児童図書評議会(JBBY)と国際子ども図書館が共催し、国際アンデルセン賞の歴代受賞者65名とその作品を紹介します。 国際アンデルセン賞とは 国際アンデルセン賞は、児童文学への永続的な寄与に対する表彰として、国際児童図書評議会(IBBY)から隔年で贈られる国際的な賞で、「小さなノーベル賞」とも言われています。IBBYの創設者であるイェラ・レップマン(1891年~1970年)は、第二次世界大戦直後の廃墟となったドイツで、子どもたちが本を通して国際理解を深め、平和な世界を築くことを目指しました。 最初の3回(1956年~1960年)は作品に対して賞が贈られていましたが、第4回(1962年)からは作家の全業績に対して贈られる賞となりました。第6回(1966年)には画家賞が創設されました。 受賞者には、賞状とアンデルセンの横顔が刻まれたメダルが贈られます。日本からは、赤羽末吉、安野光雅、まど・みちお、上橋菜穂子及び角野栄子の5名が受賞しています。 1956年 名誉賞 イェラ・レップマン スイス(Jella Lepman 1891年~1970年)(肖像写真) ユダヤ系ドイツ人のジャーナリストで、第二次世界大戦後のドイツの子どもたちの心の糧にしてもらおうと、各国から児童書を送ってもらう活動を始めました。集まった本で1946年に児童図書展を開催した後、世界で初めての国際児童図書館を1949年ミュンヘンに創設し、また、子どもの本に関わる世界的なネットワークである国際児童図書評議会(IBBY)を創設しました。 作家賞 エリナー・ファージョン イギリス(Eleanor Farjeon 1881年~1965年)(肖像写真) 『本の小べや』 本を読まずにいることが食事をせずにいることと同じくらい不自然であるという家庭環境で育ったというファージョンは、詩や音楽の才能にも恵まれ、アンデルセン童話とも同質の、幻想と現実とを自由に行き来するような作品を多数生み出しました。第二次世界大戦後のヨーロッパで最も必要とされていた、質の高い児童文学の作者として、最初の受賞者となりました。 『ムギと王さま』(書影)エリナー・ファージョン 作、石井桃子 訳、エドワード・アーディゾーニ 絵 岩波書店 1971年 (2ページ) 1958年 作家賞 アストリッド・ リンドグレーン スウェーデン(Astrid Lindgren 1907年~2002年)(肖像写真) 『さすらいの孤児ラスムス』 当初、自身の娘のために作り始めた作品は、スウェーデンの豊かな自然に囲まれた子どもたちの姿を描いたものから、推理もの、ファンタジーまで多岐に渡ります。いずれも、子どもには愛と安心と自由を得る権利があるという確信に貫かれています。 1960年 作家賞 エーリヒ・ケストナー ドイツ(Erich Kästner 1899年~1974年)(肖像写真) 『わたしが子どもだったころ』 古都ドレスデンに生まれ、ナチス統治時代をドイツで生き延びたケストナーは、子どもを責任感のある市民として育成するのに早すぎることはないとの信念をもち、他人を助け、不正に立ち向かう子どもを作品に描きました。これにはジャーナリストと詩人としての活動が大きく影響しています。児童文学は、一般の文学からは独立したジャンルであると主張し、国際児童図書館の設立に尽力したレップマン(1956年名誉賞)を支援しました。 1962年 作家賞 マインダート・ディヤング アメリカ(Meindert De Jong 1906年~1991年)(肖像写真) オランダで生まれ、8歳のときにアメリカに移住。大学卒業後は様々な職業を経て農場を経営するに至り、そのかたわら小説を執筆していました。飼育している家禽を題材にした『大きなガチョウと小さな白いアヒル』(未邦訳)で児童文学作家としてデビューしました。子どもや身近な動物を通して人々の素朴な生活を描いています。 1964年 作家賞 ルネ・ギヨ フランス(René Guillot 1900年~1969年)(肖像写真) 第二次世界大戦の前後、教師として旧フランス領西アフリカ、主にダカール(現在のセネガル)に通算20余年滞在。現地ではジャングルの動物を観察し、土地の人々からアフリカの伝説や物語を収集しました。フランスに帰国した後は、野生の動物が登場する作品を数多く著すようになりました。作品には、人間と動物の友情が共通して描かれています。 (3ページ) 1966年 作家賞 トーベ・ヤンソン フィンランド(Tove Jansson 1914年~2001年)(肖像写真) 芸術家の両親の元に生まれ、1929年にはわずか15歳で児童雑誌に絵入り物語の連載を手がけました。画家として活躍し、雑誌に風刺画を掲載したりもしました。個性的なキャラクターたちが登場する〈ムーミン〉シリーズには、著者の子ども時代の幸せな思い出や北欧の風土の美しさとともに、孤独や自然の脅威が描かれています。 画家賞 アロイス・カリジェ スイス(Alois Carigiet 1902年~1985年)(肖像写真) 最初の絵本『ウルスリのすず 』は、詩人ゼリーナ・ヘンツ(1910年~2000年)が作った物語に絵を付けたもので、スイスの村の風習を描いています。絵本以外にも、スイスの教科書やおとぎ話の挿絵、壁画の制作も手がけました。 『ウルスリのすず』(書影)ゼリーナ・ヘンツ 文, アロイス・カリジェ 絵, 大塚勇三 訳 岩波書店 2018年 1968年 作家賞 ジェームズ・クリュス 旧西ドイツ(James Krüss  1926年~1997年)(肖像写真) 北海に浮かぶヘルゴラント島出身で、第二次世界大戦では兵役を経験しました。生まれ育った島は、軍事基地を抱えていたため、戦後、連合国軍に接収され、跡形もなく破壊されてしまいました。作品には、島への思いと平和の希求が反映されています。 ホセ・マリア・サンチェスシルバ スペイン(José Maria Sánchez-Silva 1911年~2002年)(肖像写真) タイピングや速記を学び、タイピストとして自立した後、新聞学を修め、新聞記者となりました。作品の多くは家族、人間関係、動物、そして空想と現実の融合を主なテーマとしています。 画家賞 イジー・トゥルンカ 旧チェコスロバキア(Jiří Trnka 1912年~1969年)(肖像写真) 11歳の時、チェコスロバキア現代人形劇の創始者の一人ヨゼフ・スクパ(1892年~1957年)から絵の才能と人形好きを見込まれ、その指導を受けました。美術大学卒業後は人形劇やアニメーションなどを手掛け、イラストレーションにも注力しました。1940年代には「ヨーロッパ人唯一のディズニーのライバル」とも言われました。 (4ページ) 1970年 作家賞 ジャンニ・ロダーリ イタリア(Gianni Rodari 1920年~1980年)(肖像写真) 貧しいパン職人の子として生まれ育ち、小学校教師をしながら大学を出て、ファシズム政権下での抵抗運動に参加しました。ジャーナリストに転じ、新聞の子ども欄を担当したことをきっかけに子どもの本を書きはじめます。その経験から、貧しい人々と子どもに対する共感と親しみ、不正やファシズムに対する抵抗に貫かれた作品に加え、子どもが喜ぶ言葉遊びを中心とした作品などユーモアのあるナンセンス作品も残しました。 画家賞 モーリス・センダック アメリカ(Maurice Sendak 1928年~2012年)(肖像写真) アメリカ人として初の画家賞を受賞したセンダックは、アニメーターのウォルト・ディズニー(1901年~1966年)を敬愛し、新しい文化に馴染む一方、ポーランド系ユダヤ人の移民の子という出自からヨーロッパの古典芸術の影響も深く受けました。ファンタジーと現実を見事に融合させたその作品は、子どもたちを大いに魅了します。 『かいじゅうたちのいるところ』(書影)モーリス・センダック さく, じんぐうてるお やく 冨山房 1975年 1972年 作家賞 スコット・オデール アメリカ(Scott O'Dell 1898年~1989年)(肖像写真) 映画会社、空軍、新聞社、雑誌社での勤務等、様々な職業を経て、1950年代から大人向けの評論や小説を執筆します。1960年に、実話に基づく『青いイルカの島』を出版すると、児童文学作家としての評価が高まりました。南北アメリカの歴史に題材を得て、力強く人間の生を描く作品が多く、その中には先住民への共感も伺えます。 画家賞 イブ・スパング・オルセン デンマーク(Ib Spang Olsen 1921年~2012年)(肖像写真) コペンハーゲン王立美術学校でグラフィック・アートを学び、教職を経て、画家になりました。特に、作家ハルフダン・ラスムッセン(1915年~2002年)との共作による絵本で知られています。線による描写を持ち味とし、デンマークの風物、伝承をモチーフに、ユーモアと躍動感に溢れた多くの作品を生み出しました。絵本のほか、漫画、新聞、雑誌、テレビ、児童劇、舞台装置、ポスター等、様々な分野で活躍しました。 『つきのぼうや』(書影)イブ・スパング・オルセン さく・え, やまのうちきよこ やく 福音館書店 1975年 (5ページ) 1974年 作家賞 マリア・グリーペ スウェーデン(Maria Gripe 1923年~2007年)(肖像写真) 社会の厳しい現実に目を向けた作品もファンタジー作品も著していますが、いずれも深い人間洞察に基づき、リアルに人物の心情や考えを描写しています。夫のハラルド・グリーペ(1921年~1992年)は芸術家で、妻の作品の多くに挿絵を描き、大きな影響を与えました。 画家賞 ファルシード・メスガーリ イラン(Farshid Mesghali 1943年~)(肖像写真) テヘランの青少年知的開発センター(カーヌーン)では、ポスター、子どもの本の挿絵、アニメーション制作等で活躍し、その後、パリ、アメリカ、イランと拠点を移しながら多彩に活動します。イランの伝統文化と、グラフィック・デザインの要素を融合させた作品は高い評価を得ています。 1976年 作家賞 セシル・ボトカー デンマーク(Cecil Bødker 1927年~2020年)(肖像写真) 自由を求める少年を主人公にした冒険物語『シーラスと黒い馬』を機に児童文学作家として活動するようになりました。シーラスが青年になるまでの成長を描いたシリーズは14作で完結しています。 画家賞 タチヤーナ・マーヴリナ 旧ソ連(Tatjana Mawrina 1902年~1996年)(肖像写真) ロシア・アヴァンギャルドと呼ばれる前衛芸術運動が盛んだった1920年代の美術学校で絵画を学びました。ロシアの民話や詩の挿絵を数多く描いています。ロシアの自然や、木彫りやおもちゃなどの民芸品の要素を取り入れた、力強い筆致と大胆な色調が特徴です。 1978年 作家賞 ポーラ・フォックス アメリカ(Paula Fox 1923年~2017年)(肖像写真) 初期は脚本や大人向け小説を書いていました。黒人奴隷貿易をテーマにした児童文学作品『どれい船にのって』を始め、登場人物が現実の問題に直面して思い悩む作品を数多く著しています。子ども向けの作品であっても、大人に向けて書く場合と同様、真実を語ることを重要視しています。 (6ページ) 画家賞 スベン・オットー デンマーク(Svend Otto S. 1916年~1996年)(肖像写真) 美術学校や工業専門学校で絵を学びました。グリム童話やアンデルセン童話、民話の挿絵を多く描いています。神秘的なおとぎ話の世界であっても、現地の風土や人々を入念に調査し、物語の背景や時代を忠実に映し出しています。精密で高いデッサン力に支えられた、落ち着いた画風が特徴です。 1980年 作家賞 ボフミル・ジーハ 旧チェコスロバキア(Bohumil Ríha 1907年~1987年)(肖像写真) 子どもたちの日常をユーモアと愛情をもって描く作品、詩的で隠喩に富んだ寓話的作品など、ヒューマニズムに貫かれた幅広い作品を残しました。チェコ作家同盟の書記を経て、1956年、プラハの国立児童図書出版所(後のアルバトロス社)の所長に就任し、チェコの児童文学で活躍する作家や画家を育て、国内外で出版する機会を与えました。1964年には、IBBYチェコスロバキア支部を設立し、初代会長になりました。 画家賞 赤羽末吉 日本(Suekichi Akaba 1910年~1990年)(肖像写真) 18歳の頃に短期間、日本画を学んだ後は、独学で絵画を習得しました。昭和前期、様々な仕事のかたわら絵を描き続け、満洲国国展で特選賞を受けます。終戦後、初めての絵本『かさじぞう』を刊行し、以後、日本の子どもたちのために、壮大なスケールの物語の絵本を数多く作りました。 『スーホの白い馬』(書影)大塚勇三 再話, 赤羽末吉 絵 福音館書店 1967年 1982年 作家賞 リジア・ボジュンガ・ヌーネス ブラジル(Lygia Bojunga Nunes 1932年~)(肖像写真) 農場で幼少期を過ごし、19歳から女優として舞台やテレビで活躍します。1971年から子ども向けの物語を書き始め、第1作『仲間たち』(未邦訳)が1972年に刊行されました。作品中の動物や自然との関わりには幼少期の農場経験の影響が見られます。現実と空想との融合から生まれる象徴的なイメージを通して、貧困・抑圧等の社会問題と、自由への希求、夢や希望を描きました。 (7ページ) 画家賞 ズビグニェフ・リフリツキ ポーランド(Zbigniew Rychlicki 1922年~1989年)(肖像写真) 工場労働者として働きながら、クラクフの美術学校でグラフィック・デザインを学び、ワルシャワのナシャ・クシェンガルニア出版社でアート・ディレクターを務めました。作家チェスワフ・ヤンチャルスキ(1911年~1971年)と共に、人気のクマのキャラクターを生み出し、ポーランドのアニメーション界、イラストレーション界を牽引しました。 1984年 作家賞 クリスティーネ・ネストリンガー オーストリア(Christine Nöstlinger 1936年~2018年)(肖像写真) 子どもや女性、老人といった弱者の味方に立ち、権威への鋭い批判の目を持つ作家として評価されています。生み出される物語はユーモラスで奔放であり、子どもは読書を楽しみながら社会的なメッセージを受け取ることができます。多くの作品が色あせず読み継がれ、近年も映画や舞台の題材として取り上げられています。 画家賞 安野光雅 日本(Mitsumasa Anno 1926年~2020年)(肖像写真) 小学校の美術教員として働いたのち、画家として独立し、『ふしぎなえ』で絵本作家デビューしました。芸術の分野に留まらず、文学や科学、数学への造詣も深く、独創性に富んだ作品を生み出しました。絵に散りばめられたユーモアや遊び心が、大人から子どもまで、読者の想像力を刺激します。 『ふしぎなえ』(書影)安野光雅 著 福音館書店 1971年 1986年 作家賞 パトリシア・ライトソン オーストラリア(Patricia Wrightson  1921年~2010年)(肖像写真) リアリズム小説『ぼくはレース場の持ち主だ!』で国際的な評価を得ますが、その後一転してオーストラリアを舞台にしたファンタジーの書き手として才能を発揮しました。荒々しく広大な自然の中に根付くアボリジニの伝承を採集し、そこから着想を得た物語を紡ぎました。自然、動物、人間に対する深い愛情が現れる描写が特徴です。 (8ページ) 画家賞 ロバート・イングペン オーストラリア(Robert Ingpen 1936年~)(肖像写真) 歴史や科学に基づいた精密な描写を得意とする一方、目に見えないものを類まれな想像力で描いた傑作も生みだしています。環境問題に積極的に関わり、オーストラリアの自然を描くことに特別の思いを持っています。 1988年 作家賞 アニー・M・G・シュミット オランダ(Annie M. G. Schmidt 1911年~1995年)(肖像写真) 子どもの本の作家としてだけではなく、詩人、劇作家、脚本家としても活躍し、「オランダのほんとうの女王」と讃えられた国民的作家です。児童図書館員として勤務した経験から、子どもたちがどのようなものを好んで読むのかということを熟知し、一流のユーモアと巧みな描写力を発揮して子どもたちの心をとらえました。 画家賞 ドゥシャン・カーライ 旧チェコスロバキア(Dusan Kállay 1948年~)(肖像写真) 絵本の挿絵のほか、キャンバス画、切手デザイン、風刺画など多彩な分野で活躍しました。新奇性と芸術性が国際的に高く評価されています。現在は母校の教授を務め、教え子は、降矢なな(1961年~)ほか多数が絵本作家として活躍しています。 1990年 作家賞 トールモー・ハウゲン ノルウェー(Tormod Haugen 1945年~2008年)(肖像写真) ドイツ文学・美学を学び、美術館に務めたのち、文筆に専念しました。森林地帯で生まれ育った影響か、自然の描写や詩的な表現に優れています。登場人物の心理描写を得意とし、子どもと大人のそれぞれの立場から描いています。また、ファンタジーの要素も採り入れ、幻想と現実を見事に調和させています。 画家賞 リスベス・ツヴェルガー オーストリア(Lisbeth Zwerger 1954年~)(肖像写真) メルヘンや古典文学の作品に多く挿絵を描いた画家です。繊細な線と静かな美しい色で描かれる絵は優雅な雰囲気をもち、そのクラシックな味わいが、メルヘンの挿絵によく活かされています。森などの背景の描写をぼかしたり、なくしたりして、登場人物のみをくっきりと描く手法は、メルヘンをより夢幻の世界に近づけることとなり、幅広い年齢層のファンを獲得しました。 (9ページ) 1992年 作家賞 ヴァジニア・ハミルトン アメリカ(Virginia Hamilton 1934年~2002年)(肖像写真) オハイオ州生まれ。アフリカ系アメリカ人の血を引く自身の生い立ちに基づき、子どもを取り巻く社会的・歴史的・人種的問題を描き、児童文学の領域に新たな視座を拓きました。登場人物たちの複雑な心理状態を写し出し、友情や共感といった人間のつながりを作品の主要テーマとして扱いました。 画家賞 クヴィエタ・パツォウスカー 旧チェコスロバキア(Květa Pacovská 1928年~2023年)(肖像写真) グリム童話やアンデルセン童話などの絵本を手がけ、さらに創作絵本にも取り組みます。自由な発想と赤や緑など鮮やかな色彩感覚で読者を魅了し、「色彩の魔術師」と言われています。子どもの本の絵の伝統と、ピカソなど古典派現代画家の視覚に訴える作風を併せ持ち、楽しい実験場のような絵の世界を作り出します。 『ふしぎなかず』(書影)クヴィエタ・パツォウスカー 作, ほるぷ出版編集部 訳 ほるぷ出版 1991年 1994年 作家賞 まど・みちお 日本(Michio Mado 1909年~2014年)(肖像写真 撮影:鷹尾茂) 19歳の頃に詩を書き始め、1934年に当時最も高名な詩人であった北原白秋(1885年~1942年)に認められ、それを契機に子どもの詩や童謡の創作に力を注ぐようになります。わかりやすく短い詩は、小さな生き物や身の回りのものを何気なく詩にうたいながらも、哲学的な深い意味が含まれています。 『やぎさんゆうびん』(書影)まど・みちお さくし, 渡辺有一 え チャイルド本社 2010年 画家賞 イェルク・ミュラー スイス(Jörg Müller 1942年~)(肖像写真) グラフィック・デザイナーとして働いていたミュラーは、写真に似た、精密で静謐な絵が特徴です。詩的かつ現実的で、使う色は幅広く、力強いアートを展開し、一冊一冊に独自の統一性が見られます。本能やアイデンティティの喪失、自由、人生の意味や価値といった根本的な問題を扱っています。 『ぼくはくまのままでいたかったのに…』(書影)イエルク・シュタイナー ぶん, イエルク・ミュラー え, おおしまかおり やく ほるぷ出版 1978年 (10ページ) 1996年 作家賞 ウーリー・オルレブ イスラエル(Uri Orlev 1931年~2022年)(肖像写真) ユダヤ人医師の長男としてポーランドに生まれ、第二次世界大戦中にホロコーストを経験します。連合軍にベルゲン=ベルゼン強制収容所から救出され、イスラエルへ移住しました。自身の子ども時代の経験が投影された、子どもの目を通してホロコーストを描いた作品で知られています。 画家賞 クラウス・エンジカート ドイツ(Klaus Ensikat 1937年~)(肖像写真) グリム童話や「ファウスト」など多くの古典作品を描き、個性を確立しました。カリグラフィの手法を取りいれた細密な筆致と水彩によるイラストは、表情や衣服などわずかな動きもとらえ、現実感のあるものとして物語を伝えます。 1998年 作家賞 キャサリン・パターソン アメリカ(Katherine Paterson 1932年~)(肖像写真) 宣教師として日本に4年間滞在。10代の若者たちの愛と憎しみ、生への幻滅などを通して自己確立の姿を追うヤングアダルト小説で知られています。代表作『テラビシアにかける橋』では当時児童書で扱うことをタブー視されていた「死」を扱い、注目を浴びました。 画家賞 トミー・ウンゲラー フランス(Tomi Ungerer 1931年~2019年)(肖像写真) へび、どろぼう、タコ、人くい鬼など、嫌われがちな人物や生き物が主人公の、風刺と毒気のきいたストーリー展開に、独特の異様な雰囲気のイラストが特徴です。児童向け作品以外に風刺画や広告美術でも活躍しました。 『月おとこ』(書影)トミー・ウンゲラー 著, たむらりゅういち, あそうくみ やく 評論社 1978年 2000年 作家賞 アナ・マリア・マシャド ブラジル(Ana Maria Machado 1941年~)(肖像写真) 社会風刺とファンタジーを巧みに融合させる作風が評価されています。また、『不思議の国のアリス』など、海外の児童文学を多数ポルトガル語に翻訳しました。ブラジルで初めての児童文学専門書店を開いた人物でもあります。 (11ページ) 画家賞 アンソニー・ブラウン イギリス(Anthony Browne 1946年~)(肖像写真) 医学教材とグリーティングカードという異なる領域で画家として活動したのち、絵本作家になりました。写実的かつシュルレアリスムの様式を取り入れた作風で、視覚的な仕掛けを散りばめて、読者の想像力を刺激する作品を生み出しています。擬人化したゴリラやチンパンジーを多くの絵本に登場させています。 2002年 作家賞 エイダン・チェンバーズ イギリス(Aidan Chambers 1934年~)(肖像写真) 若者のアイデンティティや性など、繊細な問題に切り込んだヤングアダルト小説を発表しています。子どもの本の評論家としても積極的に活動しており、夫婦で出版社を立ち上げ、優れた児童書をイギリスに紹介するなど、子どもの読書活動の推進に取り組んでいます。 画家賞 クェンティン・ブレイク イギリス(Quentin Blake 1932年~)(肖像写真) 16歳でイギリスの風刺漫画雑誌『パンチ』に絵が掲載され、複数の雑誌を舞台に活躍しました。自作の絵本のほか、数々の児童文学作家に挿絵を提供し、特にロアルド・ダール(1916年~1990年)のキャラクターたちに息を吹き込んだことで知られています。単純明快で軽やか、おかしみのある絵のスタイルが特徴です。 『ピエロくん』(書影)クェンティン・ブレイク 作 あかね書房 1996年 2004年 作家賞 マーティン・ワッデル アイルランド(Martin Waddell 1941年~)(肖像写真) スリラー小説の人気作家でしたが、長いスランプに陥り子育てに専念した経験を経て、児童向け読み物、そして絵本へと創作活動の軸足を移しました。擬人化したクマやフクロウなどの動物を主人公とする作品で特に知られています。年齢に応じたテーマ設定からは、読者である子どもたちを意識して、敬意をもって書く姿勢がうかがわれます。 画家賞 マックス・ベルジュイス オランダ(Max Velthuijs 1923年~2005年)(肖像写真) 豊かな色彩と大胆な輪郭線に特徴があります。代表作の〈かえるくん〉シリーズは、偏見、恋、仲間、死などの人生の根本的なテーマを扱いながら、ほどよいユーモアに包んで教訓を伝えています。 (12ページ) 2006年 作家賞 マーガレット・マーヒー ニュージーランド(Margaret Mahy 1936年~2012年)(肖像写真) 奇抜な発想や熟練した言葉遊びのセンスを発揮して、小説、絵本、詩から映画やテレビドラマの脚本におよぶ幅広い作品を手がけました。その多くは、現実と想像の世界の境界があいまいで、登場人物がその境界を無意識に行き来する物語である点が共通しています。 画家賞 ヴォルフ・エァルブルッフ ドイツ(Wolf Erlbruch 1948年~2022年)(肖像写真) はっきりした線と精緻な図を特徴とし、コラージュ、鉛筆・チョーク画、水彩画など異なる技法の組み合わせを多用しました。実存的な問いをあらゆる年齢層の読者にとって身近なものにした点が、高く評価されています。 2008年 作家賞 ユルク・シュービガー スイス(Jürg Schubiger 1936年~2014年)(肖像写真) 庭師、きこり、コピーライター、出版業など多くの職業を経験しています。1960年代後半に文学、心理学、哲学を学び、1980年からは自身の診療所で心理セラピストとして働きつつ、執筆活動を続けました。その作品には、幅広い経験と、それぞれの分野で出会った人々の様々な見解が表れています。 画家賞 ロベルト・インノチェンティ イタリア(Roberto Innocenti 1940年~)(肖像写真) 子どもの頃から図画が得意で、生活のため機械工として働いた後、イラストレーションに応用の効くあらゆる制作に励み、独学で絵の世界へ進みました。文章の解釈を重視し、1作ごとに画風や見せ方、技法を変えつつ、一貫して具象性を堅持しています。 『ピノキオの冒険』(書影)カルロ・コッローディ 原作, ロベルト・インノチェンティ 絵, 金原瑞人 訳 西村書店東京出版編集部 2013年 2010年 作家賞 デイヴィッド・アーモンド イギリス(David Almond 1951年~)(肖像写真) ヤングアダルト向けの作品で人気作家となりましたが、後に年少向けの作品も出版しています。見慣れた現実を舞台にしながら、独特な語り口で、不可解な感覚、自然界に潜む霊や天啓に満ちた世界を描きます。深みのある文章と知的な題材は、大人の読者からも支持されています。 (13ページ) 画家賞 ユッタ・バウアー ドイツ(Jutta Bauer 1955年~)(肖像写真 撮影:Karen Seggelk) ハンブルク造形大学を卒業後、教科書や子どもの本のイラストを手がけました。漫画家、アニメーターでもあります。特徴的なペン画とその色使いは、単純な文章をユーモアあふれるものにしており、その根底には人生そのものに対する深遠なメッセージが込められています。 2012年 作家賞 マリア・テレサ・アンドルエット アルゼンチン(María Teresa Andruetto 1954年~)(肖像写真) イタリア系移民の家庭に生まれ、軍事独裁政権の崩壊を経験した後に作家活動を始めました。移住、貧困、政治問題、内的世界、愛など多岐にわたる深遠なテーマと、詩的な作品性に定評があります。クロスオーバー文学とされる一部の作品は、大人にとっても魅力的です。 画家賞 ピーター・シス チェコ(Peter Sís 1949年~)(肖像写真) チェコスロバキアの芸術一家で西側文化に触れながら育ち、映像作家として活躍した後に米国へ亡命しました。モーリス・センダック(1970年画家賞)の誘いで児童書に関わり始め、子どもの広がる空想を描く絵本や、歴史的な人物・出来事に自身の人生や夢を重ねて表現する絵本などを多数出版しています。精緻な点描画の芸術性が際だっています。 2014年 作家賞 上橋菜穂子 日本(Nahoko Uehashi 1962年~)(肖像写真 撮影:小池博) 文化人類学の研究者としての道を歩む一方で、自ら出版社に持ち込んだ作品で作家デビューしました。フィールドワークで培った文化人類学の知見を生かし、アジアを思わせる異世界を舞台とする独自のファンタジー小説を多く手がけています。これらの作品は、自然とあらゆる生き物への思いやりや畏敬の念に満ちています。 『精霊の守り人』(書影)上橋菜穂子 作, 二木真希子 絵 偕成社 1996年 (14ページ) 画家賞 ホジェル・メロ ブラジル(Roger Mello 1965年~)(肖像写真) 著名な漫画家のアトリエで経験を積んだのちに絵本を作り始めました。鮮烈な色や様々な素材を自在に駆使した絵に、ブラジルの伝統的な物語や詩、自作の哲学的な文章を組み合わせた深遠な作品を発表しています。文章に頼るよりも、若い読者の想像力を刺激して物語の余白を埋めるように誘うスタイルで知られています。 2016年 作家賞 曹文軒 中国(Wenxuan Cao 1954年~)(肖像写真) 中国江蘇省の貧しい農村部で育った自らの経験から、豊かな自然の中で貧しさを乗り越えて困難に立ち向かっていく子どもたちの複雑な姿を描いた児童文学作品が多くあります。子ども向けの作品であっても、生きることにまつわる深遠な問いを投げかけます。 画家賞 ロートラウト・ズザンネ・ベルナー ドイツ(Rotraut Susanne Berner 1948年~)(肖像写真) 代表作〈ものがたり探し絵本〉シリーズは、裏表紙のヒントを用いて自分だけの物話を作って楽しむ、文字のない絵本です。登場人物の持ち物や背景のインテリアなど、彼女のイラストにはテキストには書かれない「仕掛け」が多く、読み手の想像をふくらませます。 2018年 作家賞 角野栄子 日本(Eiko Kadono 1935年~)(肖像写真) ブラジルに2年間滞在した体験をもとに描いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で、1970年に作家デビューします。代表作『魔女の宅急便』は舞台化、アニメーション及び実写映画化されました。その他、〈アッチ、コッチ、ソッチのちいさなおばけ〉シリーズや自伝的作品など数多くの子ども向けの本をリズミカルな文体で著しています。 『魔女の宅急便』(書影)角野栄子 作, 林明子 画 福音館書店 1985年 画家賞 イーゴリ・オレイニコフ ロシア(Igor Oleynikov 1953年~)(肖像写真) 映画のように大胆に場面を切り取り、重厚な不透明水彩絵具を用いてユニークな物語を描いています。古典作品のイラストを好んで手がけ、斬新な解釈が評価されています。 (裏表紙) 2020年 作家賞 ジャクリーン・ウッドソン アメリカ(Jacqueline Woodson 1963年~)(肖像写真 撮影:Tiffany A.Bloomfield) ブラック・ライブズ・マターや性的マイノリティといった社会的な視点から多くの作品を描いています。人を外面的な違いでひとくくりにするのではなく、一人一人の内面を見ることが重要だと、登場人物たちを通じて訴えます。詩的で抒情的な文体を特徴とします。 画家賞 アルベルティーヌ スイス(Albertine 1967年~)(肖像写真) 作品が読者の疑問と思考の出発点となることを期待して創作に取り組み、「ますます分断される世界に生きる一人一人が、考えることを止めないことによって、暴力を抑止することができる」という確信をもっています。 2022年 作家賞 マリー=オード・ミュライユ フランス(Marie-Aude Murail 1954年~)(肖像写真) 1987年以降、30年以上にわたり児童やヤングアダルト向けの作品を多数出版し、フランスで子どもの本のパイオニア的な存在となりました。子どもや若者の立場でこの世界を真摯に観察しつつも、ユーモアと温かい楽観主義を提示しています。 画家賞 スージー・リー 韓国(Suzy Lee 1974年~)(肖像写真) 韓国人として初の授賞者となったリーは、自らを「視覚言語を使用する画家」と考え、言葉を使わない絵のみの絵本を多数作っています。とりわけ子どもの一瞬の動きをとらえた躍動感あふれる絵が、弾むようなエネルギーで物語を語っていきます。子どものもつ潜在的な力に深い信頼を寄せていることが見て取れます。 『かげ』(書影)スージー・リー 作 講談社 2010年 ISBN:978-4-87582-934-8 発行:国立国会図書館 2024年10月1日 編集:国立国会図書館国際子ども図書館    〒110-0007 東京都台東区上野公園12-49 TEL:03-3827-2053(代表) URL https://www.kodomo.go.jp/ (国立国会図書館ロゴマーク) (リサイクル適性マーク)