米国図書館界の現状報告書

【2019-054】

2019年4月7日から13日までの全米図書館週間(National Library Week)にあわせて、4月7日、米国図書館協会(American Library Association: ALA)が、2019年の米国図書館界の現状報告書 “The State of America’s Libraries Report 2019” を刊行した。

報告書によれば、米国の図書館は教育と生涯学習を通じて地域を支え、これまでにないほど重要な役割を果たしている。図書館は社会の中の小さな宇宙のような存在として、すべての人が尊重され受けいれられる環境を提供する。図書館はもはや単なる「本がある場所」ではなく、社会的に脆弱な地域にとってはライフラインでもある。図書館員は、キャリア相談員、ソーシャルワーカー、テクノロジーの指導員、教員の役割も担い、社会的弱者を支援し、利用者の知的欲求に応えるプログラムやサービスを提供しようと心を配っている。

以下、報告書にある「公立図書館」「学術図書館」「学校図書館」「問題と傾向」の4章のうち、「学校図書館」の概要及び「問題と傾向」の中の「知的自由」「児童・ヤングアダルトへの図書館サービス」「図書館プログラム」に関する部分の概要を紹介する。

学校図書館

  • 米国には90,400の小中高等学校及び幼稚園があり、このうち、91%が学校図書館を設置しているが、フルタイムの図書館員がいるのは61%である。
  • 学校図書館員は、授業・学習に関する新しい情報や資料を教員に手渡している。多様な要求に応える資料を提供し、生徒の学びを深める機会を与えている。
  • 学校図書館プログラムは、考えを分析してまとめ、説得力をもって伝えられる批判的思考力を培う。
  • 学校図書館は、テクノロジーを使って必要な情報・資料を得られる学習の拠点であり、宿題の支援を受けられる場である。効果的な学校図書館プログラムは、学習、楽しみ、内面的成長の基本となる読書への自信を育む。
  • 貧困率の高い学校に資格を有する学校図書館員がいる場合、卒業する生徒の割合は、図書館員がいない場合の二倍である。
  • 低所得家庭の生徒は、夏休み等で学校の授業がない間、数学や読書の力が落ちやすいが、このような生徒間の学力の差は、公立図書館の夏の学習プログラムによって縮めることができる。

問題と傾向

知的自由

  • 2018年は、性的少数者の問題を扱った本の撤去や、パフォーマンスとして派手な女装をするドラァグクイーンによる読み聞かせイベントの取りやめを求める要望が多かった。

児童・ヤングアダルトへの図書館サービス

  • 親や養育者が子どものリテラシーを育成し、教育的・経済的効果の高い早期学習を促進する上で、図書館は資料や専門的な情報を提供している。
  • 移民や英語話者でない子どもの支援、学校準備キットの作成、科学の展示やリテラシーのプログラムを行う学習センターの設置、ぬいぐるみのおとまり会など、各地の図書館は様々な取り組みを実施している。

図書館プログラム

  • イリノイ州オークパーク図書館では、人形を使って米国の歴史や社会正義について学ぶプログラムが行われた。
  • ALAはW.K. ケロッグ財団(W. K. Kellogg Foundation)の支援の下、人種、アイデンティティ、歴史、社会正義に関する本を通して、犯罪、薬物、成績不振、貧困、ホームレスといった問題を抱える若者と図書館をつなげる取り組みを行っている。図書館は学校や司法施設と連携し、若者が本を読み個人的な経験をわかちあう場を用意する。

Ref:

(2019.05.28 update)