コラム「子どもの心に寄り添って」坂口美佳子講師

坂口美佳子講師プロフィール

「科学の本と体験のキャッチボールを」をモットーに、年間200回以上活動。科学読物研究会、仮説実験授業研究会「開楽クラブ」、子どもと科学をつなぐ会会員。おもな著書に『科学のふしぎ 1』(フレーベル館 1998)など。国際子ども図書館では平成22(2010)年、23(2011)年に科学あそびの講師をお願いしました。

坂口美佳子講師の写真

科学あそびをはじめるきっかけ

東京都練馬区の石神井公園の近くに「わかば科学クラブ」がありました。故名倉弘さん主宰の「仮説実験授業」という方法(1963年に板倉聖宣氏が提唱した科学教育法で、授業書に基づいて問題・予想・討論・実験を行いながら真理をさぐるもの)による、子ども向けの科学クラブです。そこに2人の息子と12年ほど通いました。あるとき、名倉さんが体調を崩して、代わりに私が子どもたちと仮説実験授業を行ったのです。それが科学あそびをはじめたきっかけです。

「ものにはすべて重さがある」ということを確かめる実験をしてみました。1㎏のジュースを飲んで——これはかなり大変なのですが——体重を計りました。もちろん1㎏体重は増えましたが、原子でできているものには、すべて重さがあるということを、身をもって知ることが大切なのです。そうしているうちに、科学の楽しさ、知らないことを知る楽しさ、わからないことがわかる楽しさのとりこになっていったのです。

それから四半世紀、今では、科学あそびを年に200回以上行っています。科学あそびの対象で、もっとも多いのは小学生で、図書館・公民館・児童館の事業として行っているほか、小学校の授業や行事として行うこともあります。さらに、公立中学校の選択理科の授業として行うこともあります。また、大学で、いかに科学を伝えるかという授業をしたり、科学あそびのリーダーを養成する講座を持つこともあります。一般の大人の方を対象とすることもありますが、大人の方にとっても楽しんでもらえるようです。

知ることの前に感じること

私は必ずしも科学が得意ではなかったので、自分の子育ての中で、子どもの質問に科学的にこたえられない不安をいつも抱えていました。

しかし、レイチェル・カーソンの著書『センス・オブ・ワンダー』(新潮社 1996)の中にあった「知ることは、感じることの半分も重要ではない」という言葉に出会ったのです。「そうだ! 私が科学あそびをする意味があるとすれば、子どもの気持ちに共感することだ」と強く思うようになりました。

金属がなぜ電気をよく通すのか説明することより、まず一緒に「ワ~、お砂糖のアラザンも電気を通すんだ!」と共感することのほうが、大切なのです。大人が子どもに寄り添って共感することが、子どもの励みになり、自信を育てるのです。

共感すること

私が科学あそびでいちばん大切にしていることは、「共感すること」です。宇宙の科学あそびでも、「宇宙ってどんなとこ?」という私の問いに、子どもたちは思いつく限りのことをつぎつぎに声に出してくれます。「宇宙人がいる」などという的外れの発言でも、「う~ん、なるほど、わたしたちも宇宙人!」と、子どもの言葉を大切にします。「親でも学校の先生でもない大人が共感してくれた」という体験をしてもらうために、子どもの声を引き取る間口の広さ、ある意味でのいい加減さが必要なのかもしれません。

すると、それまで慎重に模様眺めをしていた子どもたちも、次々に意見を出してくれるのです。実験する前に、子どもたちに予想をたててもらい、なぜそう予想したかを聞きます。子どもたちは、実にさまざまな意見を言ってくれます。そのときも、たとえ見当違いな意見でも、「なるほど、おもしろい意見、初めて聞いた!」と引き取ります。

実験して、予想が当たった子どもたちは「やった~」と大騒ぎですが、正解すればいいということではありません。大事にしたいのは、自由に自分の意見が言えること、他の人の意見を聞けること、自分や他の人のすばらしさに気づくこと、実際に実験してみることです。その中で、子どもたちに「予想すること」「どうしてだろうと思うこと」「実際にやってみること」の楽しさを味わってほしいと思っています。

科学あそび当日の実験の様子

科学の本と科学あそびは車の両輪

以前に読んだ科学の本が、ある日、今日の体験につながることがあります。逆に、以前体験したことが、今日読んだ本につながることもあります。本と実体験は、車の両輪のようにどちらも必要です。私は、科学あそびをすることで、その両輪をつなげたいと思っています。

科学あそびの導入や途中の説明などで、実際に本の読み聞かせをし、いくつかのページを見せることもあります。また、子どもたちが自分でもっと調べ、詳しく知ろうとしたときに役立つよう、当日配るプリントの最後のページに複数の参考文献をのせ、家庭でも利用できるよう配慮しています。

こうして、本と実体験の間をキャッチボールのように自由に行き来することによって、科学の本での間接体験と、直接体験がつながって、相乗効果で本の魅力も直接体験の楽しさも、何倍にもふくらみます。「体験は育ての親」。「昔、図書館でやった科学あそびはこのことか」という体験のポケットをふやすことが、自ら学ぶ楽しさに結びつくと思っています。

これからも、体験と本を結びつけながら、子どもたちに寄り添って、共に、科学と本を楽しんでいきたいと願っています。

※この文章は『国立国会図書館月報』610号(2012年1月)にも掲載しています。