国際子ども図書館基本計画2021-2025

令和3年3月30日

目次

1. 経緯

国立国会図書館国際子ども図書館(以下「国際子ども図書館」という。)は、国立の児童書専門図書館として平成12年に開館した。平成17年の「国際子ども図書館の図書館奉仕の拡充に関する調査会答申」を受け、平成23年に国際子ども図書館の使命と役割を明確にするとともに、増築・改修により施設的な制約が解消する平成27年度に実現を目指すサービスの基本方針を明らかにすることを目的として、「国際子ども図書館第2次基本計画」(平成23年国図子1103242号。以下「第2次基本計画」という。)を定めた。リニューアル開館時には、この計画の下に増築・改修後の5年間で達成すべきサービスの詳細について実施計画を策定し、サービスの改善・拡充に取り組んできた。リニューアル開館から5年が経過し、施設の増築・改修に伴って拡充したサービスは定着してきている。
一方、「子どもの読書活動の推進に関する法律」(平成13年法律第154号。以下「法」という。)に基づく「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」の理念を踏まえ、国際子ども図書館では、子どもの読書活動推進のための取組をまとめた計画を順次策定してきた。現在は、「国立国会図書館国際子ども図書館 子どもの読書活動推進支援計画 2015(2019改訂版)」(平成27年国図子1503191号 改訂令和元年国図子1905054号。以下「読推計画2015」という。)により、子どもの読書に関する情報発信、人材育成及びネットワーク構築、国際子ども図書館における実践及び所蔵資料等を活用した情報提供に取り組んでおり、令和2年度に期限を迎える。

2. 目的

「国際子ども図書館基本計画2021-2025」は、第2次基本計画で掲げた国際子ども図書館の使命と基本的な役割を継承しつつ、第2次基本計画と読推計画2015という二つの計画に基づき実施してきた内容を一体的に推進することを目的として策定するものである。この計画では、政府の第四次「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」(平成30年4月20日閣議決定)及び「国立国会図書館ビジョン2021-2025 -国立国会図書館のデジタルシフト-」(令和3年国図企2101133号)が掲げる方針を受けて、これまでの成果を踏まえつつ、令和7年度までに重点的に取り組む事項を示す。

3. 国際子ども図書館の使命と役割

全ての子どもにとって、読書活動は、「言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないもの」(法第2条)である。
国際子ども図書館は、「子どもの本は世界をつなぎ、未来を拓く!」という理念の実現を引き続きその使命とする。また、使命を果たすために、第2次基本計画で定めた三つの基本的な役割について、デジタル化が進展する社会に呼応した形で継承する。

「児童書専門図書館としての役割」

国内外の児童書及び関連資料を収集・保存・提供するとともに、児童書に関する専門的な情報を広く発信することにより、児童書や子どもの読書に関わる多様な活動を支援する。

「子どもと本のふれあいの場としての役割」

国際子ども図書館だけでなく、インターネットや身近な図書館を通して、全ての子どもが本とふれあい、図書館や読書に親しむきっかけを提供する。

「子どもの本のミュージアムとしての役割」

本のミュージアムに加え、上野に立地する歴史的建造物という特色やインターネットで提供する電子展示会をいかし、総合的に文化に親しむ場としての図書館の姿を実現する。

4. 取組事項

第2次基本計画及び読推計画2015に基づいた取組の達成状況を確認し、今後、デジタル化が進展する社会における子どもや図書館を取り巻く環境の変化に対応するために、三つの役割において、以下の事項に重点的に取り組む。

4.1. 児童書専門図書館としての役割

国際子ども図書館は、国立国会図書館の一翼を担う児童書専門図書館として、納本制度に基づいて収集した国内刊行の児童書や教科書等を所蔵し、また、約160の国と地域の児童書や関連資料を収集している。これらの約70万点の豊富な蔵書を基盤として各種のサービスを提供している。
施設の増築・改修による書庫の増床、児童書研究資料室の情報環境の整備、東京本館・関西館と共通のシステムやサービスの導入により、資料・情報センター機能の高度化が達成された。また、子どもの読書活動推進支援としては、子どもの読書に関する情報発信や児童サービス関係者を対象とした人材育成に取り組んだ。また、海外の著名な作家や画家による講演会を国際子ども図書館で開催するだけでなく、地方の公共図書館でも共催による講演会を実施し、世界的な児童文学作品を広く紹介する機会とした。各国の在日大使館等と連携して開催した子どもを対象とした催物によっても、世界各国の児童書の魅力を伝え多文化理解の向上に努めてきた。
今後は、資料のデジタル化の促進や児童書に関する専門情報の提供により、児童書へのアクセス向上を図る。また、児童サービス関係者を対象とした研修や関連機関との連携事業において、オンラインサービスの活用や情報発信の強化に重点的に取り組む。

4.1.1. 蔵書の充実

  • 開館以来、児童書専門図書館として行ってきた国内外の児童書及び関連資料の収集・整理・保存を継続する。また、児童サービスに必要な資料についても引き続き収集する。
  • 読書活動や調査研究を支援するため、所蔵資料のデジタル化を促進し、デジタル化資料の利用環境を充実させる。

4.1.2. 児童書に関する情報提供

  • 児童書を所蔵する主要類縁機関の所蔵資料を一元的に検索する「児童書総合目録」の国立国会図書館サーチへの統合を進め、データ投入方法を見直した上で情報を更新する。また、国立国会図書館サーチにおける児童書検索機能の活用を促進する。
  • あらすじ情報や海外で外国語に翻訳刊行された日本の児童書に関する情報等、書誌データへの付加情報の拡充に努める。
  • 児童書等に関するレファレンスの経験に基づいた専門的な知見をいかし、情報発信型レファレンスを拡充する。

4.1.3. 児童サービス関係者に対する支援

  • 国内外の児童文学賞等児童書に関する情報発信を継続するとともに、児童書や児童サービスに関する調査研究を定常的に実施し、その成果を児童サービス関係者に広く活用してもらえるよう公開する。
  • 児童サービス関係者を対象とした研修及び交流会を継続して開催し、専門性の向上に資するとともに交流・情報交換の場を提供する。社会状況やニーズの変化に留意し、広く全国の児童サービス関係者が受講できるよう、オンラインサービスを利用した研修を実施する。
  • 国立国会図書館が実施する派遣研修の枠組みによる、児童書や児童サービスに関する基礎的な研修への講師派遣を継続する。
  • 国内外の関連機関と連携し、研修員等の受入れによる人材育成支援を引き続き実施する。

4.1.4. 関連機関との連携及び広報

  • 海外の関連機関、国際会議等に積極的に参加し、情報収集や人的交流の活性化に努める。海外の関連機関の有識者や著名な作家や画家との交流により得られる専門知識を、ホームページ等で共有できるように取り組む。
  • 社会状況やニーズの変化に留意し、先進技術を取り入れたサービスの提供や支援に向けて、より多様な国内関連機関との連携を視野に入れた取組を検討する。
  • 関連機関と連携して、児童書や読書の魅力を広く伝える催物を開催する。
  • 各国の在日大使館等と連携し、児童書を通じた国際交流の推進に資する催物を開催する。
  • 上野地区及び周辺の文化機関等と連携し、その繋がりをいかした効果的な広報を推進する。
  • デジタル環境の変化に応じて、適切なメディアやツールを用いた広報を行う。

4.1.5. 専門性の向上

  • 児童書や児童サービスについての専門知識を養うため、職員を対象として内部研修を計画的に実施することに加え、外部研修に参加する機会を設ける等、職員の専門性向上に取り組む。

4.2. 子どもと本のふれあいの場としての役割

国際子ども図書館は、全ての子どもに図書館や読書に親しむきっかけを提供するために、来館サービスだけでなく、情報発信や身近な図書館での読書活動を支援することにも取り組んでいる。
施設の増築・改修により、乳幼児・小学生向けの資料を提供する「子どものへや」「世界を知るへや」に加え、中高生の調べものに役立つ資料や情報を提供する「調べものの部屋」を開室し、年齢層別のサービス提供体制を整えた。また、わらべうたと絵本の会、おはなし会、調べもの体験プログラム及び講演会等の催物もそれぞれの年齢層を対象として実施し、子どもの発達段階に応じた児童サービスを充実させてきた。来館者は、リニューアル前の年間約10万人 から約14万人 に増加した。
今後は、新型コロナウイルス感染症の感染防止等の社会的要請に十分に対応しつつ、社会基盤としての図書館の役割を継続的に果たすため、「国際子ども図書館」という場以外に、インターネットや身近な図書館という場でも、子どもが本とふれあうことができるようなサービスを提供することがこれまで以上に重要である。そのため、来館サービスによって得られる知見をいかし、時間と場所に縛られないデジタルコンテンツの提供や身近な図書館における各年齢層の読書活動を支援する取組を拡充する。また、様々な要因により特別な支援を必要とする子どもが本と出合う機会を提供することにも積極的に取り組む。

4.2.1. 子どもを読書に誘うための情報発信

  • 「国立国会図書館キッズページ」を小学校低学年から中高生の各年齢層に応じたコンテンツを提供する場としてリニューアルし、子どもを読書や学習へ誘い、情報リテラシーの向上につなげる窓口とする。
  • インターネットで利用できる、読書や学習に役立つデジタルコンテンツを作成する。
  • 子どもが自分自身で検索するための国際子ども図書館子どもOPACを継続して提供する。
  • おはなし会や子ども向け見学等で提供した資料をホームページで紹介する。

4.2.2. 身近な図書館における読書活動への支援

  • 国際子ども図書館の各室で行っている季節やテーマに応じた小展示の資料リストについて、児童サービス関係者が参考としやすいように、ホームページのナビゲーションをより分かりやすいものに改善し、機会を捉えた広報を行う。
  • 情報リテラシーや多文化サービス等、ニーズを踏まえた児童サービスに役立つ情報を発信する。
  • 調べもの体験プログラムの実施から得られた知見を基に、図書館オリエンテーション等で活用されることを意図して、実際に使用した問題や調べ方の解説等の公開を、動画の形式も含めて検討する。
  • 様々な言語の児童書を所蔵する国際子ども図書館の強みをいかし、公共図書館等での多文化サービスに活用できるように、外国の絵本や児童書の情報を提供する。また、この情報を基にして多言語の読み聞かせセットを構築する等、多文化サービスを行う図書館への支援に向けて取り組む。
  • 学校図書館セット貸出しを継続し、セット内容やセット数を見直すとともに、貸出先での利用を促進するための活用事例を紹介する。貸出対象機関について拡大を検討する。
  • 日本を含むアジア・オセアニア地域の図書館等に対し、国際図書館連盟児童ヤングアダルト図書館分科会の「絵本で世界を知ろうプロジェクト」により集められた世界の様々な国の絵本で構成された展示会セット「絵本で知る世界の国々―IFLAからのおくりもの」の貸出しを継続する。

4.2.3. 国際子ども図書館における実践

  • 子どもがデジタルコンテンツにもふれあうことができるよう、調べものの部屋の端末でデジタルコンテンツを閲覧できるようにする。
  • 小学校高学年向けに、図書館の使い方や情報リテラシーの初歩を学べる新プログラムを企画する。
  • 中高生向けの調べもの体験プログラムは、図書館で調べることへの関心を喚起する現在のコースの実施を続けながら、情報リテラシーのかん養に重点を置いたプログラムの実施に向けて取り組む。
  • 中高生向けに、専門家との交流等を内容とする参加型ワークショップや時事的なテーマを取り入れた催物を実施する。実施に当たっては、オンラインサービスを活用して、広く参加できるようにすることも検討する。
  • 特別な支援や配慮を必要とする子どもへのサービスを継続し、障害者用資料及び障害を理解するための資料を展示するスペースの設置に向けて取り組む。

4.3. 子どもの本のミュージアムとしての役割

国際子ども図書館では、本の魅力に触れ、本に親しむ契機となる場として、様々な展示や催物を開催している。また、東京都の歴史的建造物に選定された建物の見学を目的に訪れる利用者も多い。
本のミュージアムで年に4回の展示会を様々なテーマで開催しつつ、施設の増築・改修により新設された児童書ギャラリーでは、実際に資料を手に取って明治以降の日本の児童書の歴史を概観できる常設展示を実現した。また、企画展示「日本の子どもの文学−国際子ども図書館所蔵資料で見る歩み」を再構成した電子展示会を公開した。外国の児童書の魅力を伝える様々な国の児童書を紹介する企画展示を開催した。世界各国から集められた、国際アンデルセン賞等の受賞作家・画家の作品や世界のバリアフリー児童図書を紹介する展示会も、日本国際児童図書評議会から借用した資料を用いて継続して行っている。
今後は、本のミュージアムを中心とした「子どもの本」のミュージアムという機能に加え、歴史的建造物という空間やインターネット上の電子展示会をより一層活用し、新たな切り口から児童書や図書館そのものへの関心に結び付ける。

4.3.1. 展示会

  • 企画展示では多角的で魅力的な展示を行う。豊富に所蔵する外国の児童書を活用した展示も継続して行う。
  • 児童書の持つ魅力を発信する展示や日本の児童書を海外に向けて紹介する展示等を、誰もがアクセスできる電子展示会として作成する。
  • 電子展示会のアクセシビリティを順次改善する。

4.3.2. 文化に親しむ場としての図書館

  • 歴史的建造物としての建物の魅力や上野地区及び周辺の文化機関との連携をいかし、子どもの本と共に音楽や美術等の文化に親しむ場として活用する。
  • 国際子ども図書館への理解を深めるために、国際子ども図書館の建築や歴史に関する企画展示を開催し、歴史を共有する場として活用する。
  • デジタル技術等の活用により、バーチャル見学等、来館せずに国際子ども図書館を体感してもらう方法を検討する。

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