2020年リンドグレーン記念文学賞受賞者決定

【2020-056】

2020年3月31日、スウェーデン・アーツ・カウンシル(Swedish Arts Council)は、第18回リンドグレーン記念文学賞(The Astrid Lindgren Memorial Award)の受賞者が、韓国を代表する絵本作家ペク・ヒナ(백희나)(Baek Heena)に決定したと発表した。

授賞理由として、「素材や表情や動きへの優れた感性から生まれた映画のような絵本が、孤独と連帯の物語を映し出す。雲のパン、月のシャーベット、銭湯の天女や動物や人が、心に響く小さな世界に集う。ペクの絵本は、不思議かつ感覚的で鋭くまぶしい場所にむかって開かれた扉だ」と評価された。

ペクは1971年ソウルに生まれ、韓国国内で教育工学、米国でアニメーションを学んだ。現在はソウル市内のスタジオで、時間も労も惜しまず照明にもこだわりながら手作りの人形や模型を撮影して制作している。伝統的な仕掛け絵本にもつながる技法をユニークに、また芸術的に新たな形に広げ、絵本という二次元のメディアにおける制約も創作上の挑戦としている。

雲のパンで空を飛べるようになった子猫の物語 “Cloud Bread”(邦訳『ふわふわくもパン』)はペクのデビュー作であり、「もしも」の世界に読者をいざなう。同作では平面的な紙の登場人物と立体的な空間のコントラストが、不思議でダイナミックな世界を作り出した。その遠近法はのぞきからくりやジオラマを思わせるものであり、映画監督アルフレッド・ヒッチコックの作品『裏窓』に着想を得たという。

“Bath Fairy”(邦訳『天女銭湯』)ではクローズアップとロングショットをリズミカルに切り替えつつ、ドタバタ喜劇から全身で味わう体験までが捉えられている。このように個人の視点に焦点を当てつつ、ペクの作品は登場人物の心の世界に読者を引き込む。“Magic Candies” (邦訳『あめだま』)には、物や動物や死者の声が聞こえるようになる飴を見つけた少年が自分と他者を理解し、孤独な日々を抜け出す過程が描かれている。主人公の少年の独白は、気持ちの変化と不思議な出来事とのつながりを際立たせる。

ペクは最新作の “I Am a Dog”(邦訳『ぼくは犬や』)で、自身が子どもの頃に飼っていた犬を描いた。同作のために、表情やポーズが異なる粘土の犬が約50体制作された。喜びや悲しみや寂しさを抱く犬の繊細な描写は、動物の感情や求めていることへの敬意にあふれている。

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(2020.04.21 update)