子どもの読書のプライバシーに関する問題

【2016-073】

フロリダ州コリアー郡の公立学校(Collier County Public Schools: CCSP)では、2015年8月から、子どもが学校のメディアセンターで読んだ本を親に公開している。

2015年6月に実施された一連の読書チャレンジの後、Parents ROCK (Rights of Choice for Kids)とよばれる親たちの団体が、”The Bluest Eye”(トニ・モリスン著、邦訳『青い眼がほしい』)、”Beloved”(トニ・モリスン著、邦訳『ビラヴド』)、”Dreaming in Cuban”(Cristina Garcia著)、”Killing Mr. Griffin”(Lois Duncan著)の4冊に懸念を示し、”age-appropriate children with a parents (sic) permission” と呼ばれるこれらの本の利用に、制限を求める声明を発表した。このことがきっかけとなり、CCSPは、2015年8月、郡で使用しているリテラシー資源を管理するソフトウェアプログラムをポータルサイトにつなげ、親が、子どもが学校のメディアセンターでアクセスしたものをオンライン上で確認できるようにした。コリアー郡にある公立学校には、各学校にメディアセンターが設置され、図書館メディアを専門とする職員が常駐しているが、約50校でメディアセンターを利用する、K-12(幼稚園から高校まで)の生徒約45,000人が対象となっている。

子どもが読んでいる本を親が把握することで、子どもの読書に対する意気込みは少し減ってしまう。図書館員の間には、親に生徒が読むものを決める権利はない、という長年の信念がある。しかし、その一方で、親や保護者の持つ、自分の子どもにとって最善と思うものを決める権利もまた尊重しており、「親は教育上の真のパートナーであるから、親が本に関するあらゆる情報を見て、子どもに借りる本について助言することは容認し得る。」と、フロリダ州ネイプルズのCCPSの最高責任者補佐であるPeggy Auneはいう。また、ケンタッキー州パデューカのMcCracken County 高校の学校図書館員であり、アメリカ学校図書館協議会(American Association of School Librarians : AASL)前会長のTerri Griefは、「ハリー・ポッター」シリーズ登場当時、牧師が禁じたために母親が読むことを許可しなかったという女の子について、「その頃は誰もが「ハリー・ポッター」を読んでいたので、非常に残念なことだったが、親が最終的な決定権をもっていることは理解する。」と言うが、本は、家族や友達には聞きにくいことを自分で安心して知り得る場であり、「親と話し合いたいと思えないような繊細なテーマについて、本を読んで知りたいと思っているのではないか。子どもたちはフィクションを読むことで人生について学ぶのであって、本に書いてあるようなことを実際にやりたい訳ではない。知識は力だ。」とも語る。

CCSPが親による子どもの図書館活動へのアクセスを許可したことで、親側の意識は高まり、今のところ親たちからの異議はでていない。関係者は「ニュースがないのは良いニュース」と語り、毎月ある各校メディアセンターの担当者会議でもさほど問題となっていないというが、子どものプライバシーに関する問題であるだけに、肯定的な意見ばかりが出ているわけではない。

Ref:

(2016.07.22 update)