児童文学連続講座 平成18年度
総合テーマ「絵本の愉しみ−イギリス絵本の伝統に学ぶ−」
『不思議の国のアリス』は、子どもたちに、純粋な読書のよろこびを提供する最初のフィクションでした。それとちょうど同じ1865年に、同じくイギリスで、ウォルター・クレーンが最初のトイブックを出版して<現代絵本>の歩みも始まりました。そのときから、<ことばと絵の協調と調和>による<語り>によって、子どもたちに、<絵本のよろこび>を与えることが絵本の役割となりました。すなわち、<語りの系譜>(The Telling Line)こそが、<絵本のよろこび>の中心をなしてきたのでした。わけても<物語るイラストレーションの系譜>は、イギリスの現代絵本の本流といってよいでしょう。
本連続講座では、その流れを追って、イギリス絵本の諸相を具体的に探ってみようと思います。前半では、ランドルフ・コールデコットを源流とする系譜を跡付けてみます。そして、後半では、第二次大戦後における、新発展(New Development)、イギリス性(Englishness)、新胎動(New Trend)を代表的な3作家によって検討してみることにしました。これらによってイギリスの絵本の魅力が多角的に展望できて、<絵本とは何か>についての認識を深める一助ともなれば、望外のよろこびです。
吉田 新一(よしだ しんいち)
1931年生まれ。立教大学大学院文学研究科英米文学専攻修士課程終了。立教大学、日本女子大学勤務を経て、立教大学名誉教授。日本イギリス児童文学学会会長、絵本学会初代会長を務める。著書:『イギリス児童文学論』、『絵本の愉しみ』、『絵本の魅力』、『ピーターラビットの世界』、『絵本・物語るイラストレーション』等。訳書:『ランドルフ・コールデコットの生涯と作品』、『宝さがしの子どもたち』等。
平成18年度 児童文学連続講座−国際子ども図書館所蔵資料を使って
テーマ | 「絵本の愉しみ—イギリス絵本の伝統に学ぶ—」 総合監修 吉田 新一(国立国会図書館客員調査員) |
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開催日時 | 平成18年10月16日(月)~18日(水) |
会場 | 国際子ども図書館 3階 ホール |
対象 | ・現在、図書館等において児童サービスに従事する方 ・1機関1名 ・定員60名 ・3日間連続して受講できる方を優先 *応募多数の場合は調整させていただきます。 |
備考 | ○連続講座の全課程を修了した方に対し、国際子ども図書館長名の修了証書を授与します。 ○受講に要する経費 受講料は無料ですが、旅費等は、受講者側の負担とします。 |
講義内容・時間割
総合テーマ 「絵本の愉しみ−イギリス絵本の伝統に学ぶ−」
1日目 10月16日(月)
時間 | 講義名 | 講師・講義紹介 |
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9:30-10:30 | 開会の挨拶・諸連絡及び受講者自己紹介 | 国際子ども図書館職員 |
10:45-12:45 | 「ランドルフ・コールデコット」 | 吉田 新一 ページを順にめくることで<ことばと絵による語り>を楽しませてくれるのを、現代絵本の基本と考えるならば、それを十全に、理想的に具体化して、その後の絵本発展の原動力となったのが、ランドルフ・コールデコットの絵本でした。その絵本作りの妙技を愉しみながら、絵本の基本について考えてみます。 |
14:15-16:15 | 「ビアトリクス・ポター」 | 吉田 新一 私家版だった『ピーターラビットのおはなし』を、商業版として出版するようにウォーン社に強く勧めたのは、レズリー・ブルックでした。彼はコールデコットの絵本作りの忠実な継承者でしたが、ビアトリクス・ポターはコールデコットの妙技を自家薬籠中の物とし、さらに絵本の可能性を大きく広げました。 |
16:30-17:30 | 「国際子ども図書館所蔵の絵本および絵本論について」(仮題) | 国際子ども図書館職員 |
2日目 10月17日(火)
時間 | 講義名 | 講師・講義紹介 |
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10:00-12:00 | 「エドワード・アーディゾーニ」 | 吉田 新一 1900年生まれのエドワード・アーディゾーニは、1865年から1920年代までと、第二次世界大戦後と、二つの<絵本・挿絵の黄金期>をつなぎ、ユーモアに富む風刺精神と、ドローイングを基本とする挿絵を、19世紀前半のジョージ・クルックシャンクから受け継ぎ、イギリス絵本の発展に大きな貢献をしました。 |
13:00-14:00 | (1)国際子ども図書館館内見学 (2)講義紹介資料の自由閲覧等 ((1)(2)は選択とする) |
国際子ども図書館職員 |
14:00-16:00 | 「チャールズ・キーピング—自己表現としての絵本—」 | 三宅 興子(梅花女子大学大学院教授) チャールズ・キーピングの絵本は、イギリスにおいて厳しい批判にさらされ、きちんとした評価をうけてきませんでした。それは、絵本とは「絵が物語る」ものであるとする狭い絵本観からきています。あらためてキーピングが挑発し続けた作品群を見直してみましょう。 |
16:15-17:00 | 「絵本ギャラリーの紹介」(仮題) | 国際子ども図書館職員 |
3日目 10月18日(水)
時間 | 講義名 | 講師・講義紹介 |
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10:00-12:00 | 「シャーリー・ヒューズ— 英国で最も敬愛される絵本 画家—」 |
灰島 かり(翻訳家) シャーリー・ヒューズは、日本ではあまり知られていませんが、英国では最も尊敬され、愛されている絵本作家のひとりです。日本の漫画界における手塚治虫のような存在といえば、いいでしょうか。彼女の作品の優れた点を味わいましょう。またなぜ日本では人気がないのかを考えることで、日英の文化比較も試みたいと思います。 |
13:00-15:00 | 「アンソニー・ブラウンの画像分析—イギリス絵本の伝統と革新—」 | 藤本 朝巳(フェリス女学院大学教授)
国際アンデルセン画家賞受賞のブラウン氏は、イギリス絵本の伝統を踏まえ、独特の絵本創りをしています。講座では、彼の生い立ち、画家になったいきさつなどを、さらに絵本のコードから見た絵の解説などをいたします。また講演者とブラウン氏との親交から知り得た作品の背景(未発表)や最新情報も紹介するつもりです。 |
15:00-15:40 | 休憩、修了証書授与 | 国際子ども図書館職員 |
15:40-17:00 | 研修生意見交換会 | 吉田新一、国際子ども図書館職員 |
平成18年度児童文学連続講座講義録「絵本の愉しみ-イギリス絵本の伝統に学ぶ-」

※本講義録「絵本の愉しみ-イギリス絵本の伝統に学ぶ-」の印刷版は、社団法人日本図書館協会から発売されましたが、販売は終了いたしました。
社団法人日本図書館協会
〒104−0033 中央区新川1−11−14
TEL:03−3523−0812(販売直通)
※フルバージョンとライトバージョンの違い
テキスト内容は同じです。掲載写真などがライトバージョンでは圧縮され画質が落ちています。
国立国会図書館国際子ども図書館 企画協力課協力係
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