2020年版米国図書館界の現状報告書―米国における児童ヤングアダルトサービスの現在
【2020-095】
2020年4月19日から25日までの全米図書館週間(National Library Week)にあわせて、4月20日、米国図書館協会(American Library Association: ALA)が、2020年の米国図書館界の現状報告書 “The State of America’s Libraries Report 2020” を刊行した。
編集者注記では、実質的に2019年の米国図書館界の状況をまとめたこの報告書について、新型コロナウイルスによるパンデミックのために時代に合わなくなった側面もあるかもしれない一方で、図書館が地域社会にサービスを提供する責任を負い、重要な役割を果たすという信念は、パンデミック後も変わらないと述べられている。
以下、報告書にある「公立図書館」「大学図書館」「学校図書館」「問題と傾向」の章のうち、「公立図書館」「学校図書館」の概要及び「問題と傾向」の中の「図書館における知的自由」「21世紀に求められるスキル」「ヤングアダルトへの図書館サービス」に関する部分の概要を紹介する。
公立図書館
- 米国ギャラップ社の世論調査によれば、図書館を訪れることは「米国で最も身近な文化活動」であり、2019年に米国の大人は平均10.5回来館した。本だけでなくマットレス、人形、自転車、双眼鏡、アコーディオンなど、地域が必要とするものを貸し出している図書館もある。
- 無料で利用できる資料やプログラムは、どのような所得状況の家庭にも公平な機会を提供する。図書館のプログラムを通じて親子は共に学び、絆を深める。また図書館は、親が社会的に孤立したり精神的に追い詰められたりしないよう支援する中で、虐待や子どもの問題行動を減らすことができる。
- 米国The Harry and Jeanette Weinberg基金の調査によれば、資格を有する常勤の学校図書館司書の有無と、生徒・児童の読解力との間には相関関係がある。学校図書館は、生徒がデータに基づいて判断できる情報活用能力を育てていく必要がある。
- 昨今、学校図書館司書は多くの州でリストラの対象となっているが、ニューヨーク州立図書館の調査は、教育や雇用が変化するなかで「学校図書館司書は生徒や教師だけでなく地域社会に対しても、将来の学びへの直接的・間接的な肯定的価値を与えている」と結論づけている。
- 子どもやその家族向けに書かれたものであっても不適切であるとして、LGBT等のセクシュアルマイノリティの本の撤去要望が数多く寄せられている。こうした動きに対して図書館は、コミュニティ内の多様性を反映し肯定する資料やサービスを守り発展させることで、差別を排し、図書館における知的自由を保障している。
- ALAとGoogle社との協力事業 “ Libraries Ready to Code” などに見られるように、デジタル・リテラシーの育成において図書館は最前線で健闘している。図書館は、DVDやタブレットで言語を学習できるバイリンガルセットを提供し、様々な年齢、経済状況、能力の家族を支援するなど、学習の習熟度に影響を与える情報格差をなくす取り組みを行っている。
- 米国図書館協会の一部門であるヤングアダルト図書館サービス協会(Young Adult Library Services Association: YALSA)は、IMLS(博物館・図書館サービス機構)の資金援助を得て、若者が仕事に就いたときに求められる技術の習得を図書館員が支援するための二つのプロジェクトを実施している。「ヤングアダルト図書館サービスを変える:図書館員への研修」(Transforming Teen Services: A Train the Trainer Approach)というプロジェクトでは、若者が興味の対象を見つけ、将来の仕事に必要とされる「計算論的思考力」(computational-thinking literacies)を獲得できるよう、サポートすることができる図書館員の育成を試みている。既に500名以上の図書館員が受講を終えており、プロジェクトが終了する2021年6月末までには合計7,000名が研修を受けることになる。また、「図書館で将来に備える」(Future Ready with the Library)というプロジェクトは、中学生が興味の対象を見つけて仲間や大人とともに学ぶというものである。その一環として、複数の州の公共図書館ではeスポーツプログラムが行われた。これは、ゲームを好む若者が批判的思考力、問題解決力、チームワークを身につけるとともに、将来の仕事の可能性について知ることを目的としている。
- 米国図書館協会(ALA)> News & Press Center > State of America's Libraries Report 2020(American Library Association. The State of America’s Libraries 2020: Report from the American Library Association. Steve Zalusky, ed. 2020.)
http://www.ala.org/news/state-americas-libraries-report-2020 - 米国図書館協会(ALA)> News & Press Center > ALA releases 2020 State of America’s Libraries report
http://www.ala.org/news/press-releases/2020/04/ala-releases-2020-state-america-s-libraries-report - (昨年の報告書)米国図書館界の現状報告書(子どもと本に関するニュース【2019-054】)
https://www.kodomo.go.jp/info/child/2019/2019-054.html
学校図書館
図書館における知的自由
21世紀に求められるスキル
ヤングアダルトへの図書館サービス
Ref:
(2020.06.26 update)