2021年リンドグレーン記念文学賞の受賞者決定

【2021-048】

2021年3月30日(火)、スウェーデン・アーツ・カウンシル(Swedish Arts Council)は、第19回リンドグレーン記念文学賞(The Astrid Lindgren Memorial Awardの受賞者が、フランスの児童・YA文学作家ジャン=クロード・ムルルヴァ(Jean-Claude Mourlevat)に決定したと発表した。

受賞者の概要および受賞理由

ムルルヴァは、1952年、6人兄弟の5番目の子どもとして農家に生まれた。子ども時代、家に本がなかったというムルルヴァの作品に通底するのは、本や文学への愛情である。厳しい寄宿学校で8年を過ごした間も文学に救われたと、ムルルヴァは語っている。その後、ドイツ語教師、俳優、道化師、舞台監督等を経て作家となった。著作には社会批判の小説もあるが、おとぎ話や寓話、ファンタジーを特に好んでいる。物語を現代につなげる工夫として、古典への言及や隠喩・直喩などを用いて書いている。

語りが呼応しあうような演劇的な手法で7人兄弟の旅を描いた“L’Enfant ocean”は、国内外で広く読まれている。“Le chagrin du roi mort”では王の死後、平和が脅かされた島で、人々は悪や暴虐や戦争と対峙し、その勇気と自己犠牲と連帯が試される。最新作“Jefferson”の主人公は、殺しの嫌疑をかけられて逃亡するハリネズミであり、読書が好きなことが物語の鍵となっている。

そのほかの作品には、抑圧的な寄宿学校で暮らす孤児たちの物語“Le combat d’hiver”(邦訳『抵抗のディーバ』)、文学や芸術を独裁政治や戦争と対比して描いた絵本“Le petit royaume”、引っ越し先で不思議な出来事を体験する少年を主人公に、ドイツ占領下における密告者、人種差別主義、ユダヤ人の迫害、レジスタンス等のテーマを扱ったヤングアダルト小説“La Balafre”、生命が失われた世界に連れ去られた姉を妹が探すSF “Terrienne”、華麗な言葉やおどけ、悲しみや哀愁を切り替えながらヤギの旅をつづった“La ballade de Cornebique”(邦訳『旅するヤギはバラードを歌う』)などがある。

授賞理由としてスウェーデン・アーツ・カウンシルは、「おとぎ話の伝統を見事な手法で新たに作り変え、その作品は美と困難のどちらにも向いている。時間と場所が無効化された物語の中で、愛や望み、弱さや戦争といった永遠のテーマが、的確でありながら夢のような散文で語られる。古の叙事詩と今の現実を結んだ作品は、どれも読者を驚かせる」「人生を肯定する深いヒューマニズムが、登場人物の行動で示される。類いない善の希求により、真に心を打つ作品になっている」と評価している。

日本からの候補者

2021年は、68か国から262名の候補者名が挙がっており、日本の候補者は以下の4名であった。

  • きたむらさとし(絵本作家、イラストレーター)
  • 松岡享子(翻訳家、児童文学作家、東京子ども図書館名誉理事長)
  • 髙橋留美子(漫画家)
  • 田島征三(絵本作家)

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所蔵リスト

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(2021.04.19 update)