2021年版米国図書館界の現状報告書特別版―COVID-19

【2021-051】

2021年4月5日(月)、米国図書館協会(American Library Association: ALA)は、4月4日(日)から10日(土)までの全米図書館週間(National Library Week)にあわせて、2021年版米国図書館界の現状報告書 “State of America's Libraries Special Report: COVID-19” を刊行した。

2021年版報告書は、新型コロナウイルス感染症が図書館に与えた影響に焦点を当て、以下のように述べている。

  • ほとんどの図書館が閉館した一方、電子図書館カードや配送サービスの提供が進み、電子書籍の貸出は2019年から40%も増加した。
  • オンラインによるコミュニケーションが推進されたために、貧困層などの疎外された階層や僻地の家庭・学校が情報格差に苦しむ中、図書館はパソコンやWi-Fiの貸出、インターネット接続ポイントの提供等を行うことにより、重要な役割を果たしたといえる。
  • 新型コロナウイルス感染症に関する誤った情報が、外国、特に中国に対する嫌悪感とともに広がったが、図書館員はデマをなくすために活動した。ワクチン、国勢調査、ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)、大統領選などをめぐる誤情報にも立ち向かった。

以下、報告書の中から、学校や児童・ヤングアダルトへの図書館サービスに関する部分の概要を紹介する。

学校図書館

  • 学校図書館は、読み聞かせや読書会、ゲームやメイカースペース(IT機器等を利用した創作活動の場)の学習プログラムをオンラインで提供した。
  • 2020年に米国学校図書館員協会(American Association of School Librarians)が実施した調査によれば、多くの学校図書館がオンライン資料のアクセスを拡大し、本の貸出期間を延ばしたほか、オンラインでの支援を行った。
  • ルイジアナ州バトンルージュの学校図書館は、休校中にWeb会議システムを用いたオーサー・ビジットを開催し、生徒たちはオンラインで作家の創作過程や新しく出る本について話を聞き交流することができた。
  • ニュージャージー州ホルムデル・タウンシップの中学校の図書館司書は、英語と社会科の教科横断的な学習として、生徒がコロナ禍における自身の体験を日記に書く活動を行った。

児童図書館サービス

  • モンタナ州ヘレナにある図書館は、子どもたちが介護施設のお年寄りにカードや葉書、絵などを送るプログラムを実施した。
  • ALAの一部門である児童図書館サービス部会(Association for Library Service to Children: ALSC)は、「メディアの案内人」(media mentor)としての児童図書館員の役割に焦点を当て、「図書館に聞こう」キャンペーン(#LookToLibraries campaign)を立ち上げた。ALSCはブックリストのほか、長年国民的な子ども番組 “Mister Rogers' Neighborhood” の司会者として活躍した故フレッド・ロジャーズの対応を参考にまとめた「難しいテーマについて子どもと話すときのヒント」といった資料を提供している。

図書館における知的自由

2020年に図書館に撤去要望が寄せられた本としては、これまでにも多くあったLGBTQIA+の本のほか、人種差別や平等に関するものや、黒人、先住民族、白人以外の人々の物語が増えた。これについて、ALAの知的自由部(Office for Intellectual Freedom)部長 Deborah Caldwell-Stone 氏は、「人種に基づく不平等が根強くあることについて、今、多くの人が問題だと感じ、社会の中で論じているからではないか」とガーディアン紙の記事の中で述べている。

Ref:

(2021.05.09 update)