2025年カーネギー作家賞、カーネギー画家賞受賞作品決定

【2025-071】

2025年6月19日(木)、英国図書館情報専門家協会(The Chartered Institute of Library and Information Professionals: CILIP)は、2025年のカーネギー作家賞(Carnegie Medal for Writing)とカーネギー画家賞(Carnegie Medal for Illustration)の受賞作品を発表した。

カーネギー作家賞は英国またはアイルランドで出版された英語の優れた児童書、カーネギー画家賞は児童書の挿絵を顕彰する。

今回のカーネギー作家賞は、旧カーネギー賞(Carnegie Medal)を含めた約90年の歴史の中で史上最年少となる27歳の Margaret McDonaldが受賞した。

受賞作品(一覧)

カーネギー作家賞

Glasgow Boys
Margaret McDonald

里親制度の下で育った2人の少年の友情を通して、メンタルヘルス、トラウマ、不平等、アイデンティティの問題が描かれている。審査委員長からは、「読み終えたあとも長く読者の心に残る」と評された。

McDonald は英国の国民保健サービスで働いた経験があり、学生時代に “Glasgow Boys” を書きはじめた。クローン病を患い、手術後は鎮痛剤に依存したことや、労働者階級の家庭に生まれ、家族の中で初めて大学に進学したことなどが同作に織り込まれており、自身のルーツのあるスコットランドの方言が使われている。

McDonald は受賞にあたり、「労働者階級であることや障がいがあること、家族の中で初めて大学に進学するということ、何よりも、本質的に自分のためにつくられていない世界で道を拓く難しさに、光を当てたいと思った」と語った。

カーネギー画家賞

Clever Crow
Olivia Lomenech Gill(オリヴィア・ロメネク・ギル)絵
Chris Butterworth(クリス・バターワース)文

水彩、木炭、グワッシュ、コラージュ等の技法を使ったノンフィクションの絵本である。カラスの優れた記憶力や問題解決能力、環境への適応性が描かれるとともに、遊び好きで子どものような性質が、はねたインクや水の染み、破れたノートによって表されている。審査委員長からは、「驚くほど美しく、何度でも読みたくなるような作品」だと評された。

ギルは科学者である父親の影響や、子どものころにオックスフォード大学自然史博物館で動物学の所蔵品を見た経験から、鳥や自然に関心をもつようになった。

ギルは受賞にあたり、「今回、創作の過程で、カラスは非常に賢く社交的だとわかった。この本の読者が、昔話やホラー映画、ヒッチコックの作品で描かれているようなネガティブなイメージではなく、べつの視点からカラスを見てくれたらうれしい」と語った。

Shadowers' Choice Award

最終候補作の中から子どもたちが選ぶ Shadowers' Choice Award として、カーネギー作家賞のショートリストからは Nathanael Lessore のヤングアダルト作品 “King of Nothing”、カーネギー画家賞のショートリストからは、Theo Paris のグラフィックノベル “Homebody” が選ばれた。

King of Nothing” は、新しい友人との関係性の中で変わっていく、いじめっ子の姿を通して、男らしさの問題が描かれ、「ユーモアのある、リアルであたたかな作品」だと評された。作者の Lessore はフランスとマダガスカル出身の両親をもち、ロンドン南東部で生まれた。英国のほかフランス、シンガポールなどでも暮らした経験がある。自身が子どものころポジティブに描かれなかったロンドン南東部を、“King of Nothing” では冒険に満ちた楽しく温かな場所として描いている。

Homebody” は作者の体験にもとづく、デビュー作のグラフィックノベルである。ジェンダーの役割のゆるやかな家で育ったノンバイナリーの作者は、成長に伴い、社会の求める規範にはまらなければならないという重圧を感じるようになるが、美術学校とコミコン(漫画を中心としたポップカルチャーの交流イベント)での出会いと、スーパーヒーローやロールプレイングゲームから新たな気づきを得る。アイデンティティ、自己発見、自分らしく生きることの意味が描かれており、「読者を勇気づける」と評された。

Ref:

(2025.09.21 update)