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- > 第2章 チャップブックとフェアリーテール
はるか昔を舞台に、現実世界では起こりえない出来事を描くフェアリーテール(妖精物語)は、イギリスでは子どもたちにとって宗教的観点からふさわしくないものとされてきました。しかし、18世紀後半にはチャップブック(行商人により安価で流布された通俗的な内容の印刷刊行物)の形式でさまざまな物語が子どもたちに人気を博するようになります。
その背景には、日曜学校の普及などにより、幅広い階層にわたって「本を読む」という行為が普及する中で、これまでに口伝えで継承されてきた「自分たちの物語」への欲求がありました。しかし、フェアリーテールを「無知な迷信」であるとして、宗教的・道徳的・教育的な観点からこれを排斥する動きも高まり、逆に教訓物語の流行にもつながります。
そのような中、1768年頃には、フランスで高い評価を得ていたシャルル・ペロー Charles Perrault(1628~1703)の作品の英語版がニューベリーの手により刊行され、次第にフェアリーテールが普及しはじめます。1823年には、グリム兄弟Jacob Ludwig Karl Grimm(1785~1863)、Wilhelm Karl Grimm(1786~1859)の作品集が、また1840年代に入るとハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen(1805~1875)の童話の英訳も始まり、また世界各地の童話・民話が英語圏の子どもたちのために翻訳されます。フェアリーテールの復興の動きは、より自由な発想による空想文学の新しい潮流を呼ぶこととなります。
2-2
ペンタメローネ(五日物語)(The Pentamerone, or, The story of stories)
ジャンバティスタ・バジーレ/作、ジョージ・クルックシャンク/挿絵
出版地 New York
出版者 Cassell
出版年 1893
2-4
妖精の輪‐昔話と伝説集(グリムの昔話)(The fairy ring : a collection of tales and traditions)
グリム兄弟/作、リチャード・ドイル/絵
出版地 London
出版者 J. Murray
出版年 1857