2021年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品決定

【2021-083】

2021年6月16日(水)、英国図書館情報専門家協会(The Chartered Institute of Library and Information Professionals: CILIP)は、2021年のカーネギー賞(Carnegie Medal)とケイト・グリーナウェイ賞(Kate Greenaway Medal)の受賞作品を発表した。カーネギー賞は英国またはアイルランドで出版された英語の優れた児童書、ケイト・グリーナウェイ賞は児童書の挿絵を顕彰する。

受賞作品一覧

カーネギー賞

Look Both Ways
Jason Reynolds(ジェイソン・レノルズ)

大人の目の届かない15分間の帰り道を描いた短編集であり、10の物語がからみ合いながらつながっていく。審査員からは、「ユーモア、共感、ヒューマニティーにあふれている。巧みな人物造形と子どもらしくリアルな語り口によって、一編一編が息づき、子どもも大人も共感できる物語になっている。子どもたちの無邪気な姿を描きつつ、その奥にはいじめ、同性愛嫌悪、死別などの難しいテーマが透けて見える。魅力的かつ新鮮な手法で、新たな物の見方を教えてくれる」と評された。

レノルズは受賞にあたり、「同じ教室にいた生徒も、終業の鐘が鳴った後は別々の道を歩み、その人生の通り道で、明日の自分を変えてしまうような何かに出会う。そういう可能性やヒューマニティーを信じて人に接すれば、どんな人でもつながりあえるし、そうとなると憎み合うのは難しい」「この作品の背景にあるのは、わたしたちは別の道をたどったとしても、同じ人間として、人類としてつながっているということだ」と語った。

レノルズはラップからインスピレーションを受け、9歳の時に詩を書きはじめた。“Ghost”(邦訳『ゴースト』)は2016年の全米図書賞児童文学部門最終候補、“The Boy in the Black Suit” とブレンダン・カイリー(Brendan Kiely)との共著である “All American Boys”(邦訳『オール・アメリカン・ボーイズ』)は2016年、アフリカ系米国人作家・画家の児童文学・ヤングアダルト作品を対象とするコレッタ・スコット・キング賞の最終候補に選ばれた。“Long Way Down”(邦訳『エレベーター』)は2018年のエドガー賞(ヤングアダルト小説部門)を受賞した。現在、米国の第7代目児童文学大使を務めている。

ケイト・グリーナウェイ賞

Small in the City(邦訳『このまちのどこかに』)
Sydney Smith(シドニー・スミス)

シドニー・スミスは、ジョアン・シュウォーツ(Joanne Schwartz)が文章を書いた “Town Is by the Sea”(邦訳『うみべのまちで』)で2018年にもケイト・グリーナウェイ賞を受賞しており、今回が2度目の受賞となる。

審査員からは、「驚くようなすばらしい手法で、日常の物語が展開していく。読み手の感情を呼び起こしながら、その作品世界に引き込み、また大都市に置かれた小さきものの気持ちを伝える。抑制しつつ感動的な結末に向かう中で、ひとりさまよい、目にとまらない存在であるのがどんなことかというテーマはより広く響く。絵で物語るその技法は映画にも似て、場の雰囲気を伝え心に残る」と評された。

スミスは受賞にあたり、「互いに安全な距離をとり、愛する人や友人に会えない中、こうした物語はこれまで以上に求められている。わたしたちの物語は世代を越えて届き、人と人とをつなぐ。ひとりじゃない、大丈夫なのだと感じさせてくれる」「甘く安易な結末の話ではないが、主人公は困難でも意味のある道をたどり、最後は抱きしめられる」と語った。

カナダの絵本作家であるスミスは2015年、文字のない絵本 “Sidewalk Flowers”(邦訳『おはなをあげる』)でカナダ総督文学賞、詩人ジョーダン・スコット(Jordan Scott)が文章を書いた“I Talk Like a River”(邦訳『ぼくは川のように話す』)で2021年にボストングローブ・ホーンブック賞絵本部門を受賞している。今回の受賞作である “Small in the City” はスミスが絵と文章の両方を手がけた初めての作品であり、2020年のエズラ・ジャック・キーツ賞を受賞している。これらの作品は、全てニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞を受賞している。

2021年の受賞作品はどちらも独立系出版社から刊行されており、また都市の景色が子どもの目でとらえられている。審査委員長からは「子どもの視点で語られる物語が読者を惹きつけ、胸を打つ」と評された。

Shadowers’ Choice Award

ショートリストの中から子どもたちが選ぶ Shadowers’ Choice Award として、カーネギー賞のショートリストからは Manjeet Mann の “Run, Rebel”、 ケイト・グリーナウェイ賞のショートリストからは Sharon King-Chai の “Starbird” が選ばれた。詩のかたちで書かれた “Run, Rebel” では、主人公の少女は見合い結婚を逃れるための静かな抵抗として走り、授業で革命について学ぶ中、家庭で虐げられている母や姉を解放する力を得る。 Mann は俳優として活躍した後、スポーツと演劇を通して女性の自己実現を支援する団体 “Run The World” を設立した。 “Starbird” は神話のような物語であり、王に捕らわれた鳥が銀箔を用いて表されている。同作を手がけた画家 King-Chai は中国とマレーシアにルーツをもち、オーストラリアで生まれた。2003年に英国に渡り、その後はロンドンを拠点に活動している。

Ref:

(2021.07.17 update)