2022年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品決定

【2022-074】

2022年6月16日(木)、英国図書館情報専門家協会(The Chartered Institute of Library and Information Professionals: CILIP)は、2022年のカーネギー賞(Yoto Carnegie Medal)とケイト・グリーナウェイ賞(Yoto Kate Greenaway Medal)の受賞作品を発表した。カーネギー賞は英国またはアイルランドで出版された英語の優れた児童書、ケイト・グリーナウェイ賞は児童書の挿絵を顕彰する。

2022年の受賞作品はどちらも、独立系出版社から刊行されている。また、大きな出来事を体験した主人公の心の動きがリアルに描かれ、読者もその立場に身をおけるような作品だと、受賞記事は紹介している。

受賞作品(一覧)

カーネギー賞

October, October
Katya Balen

Balen の二作目にあたり、11歳まで森の中で育った少女が、都会で暮らすという変化をへて、自分の翼を広げる過程が描かれている。Balen のアウトドアやマッドラーキング(川底の泥に埋まった遺物を探すこと)に対する関心と、義理の父親が公共のライフラインに頼らず生活していることが、同作の執筆につながった。

審査委員長からは、「自然界の様子や、また深まったり修復されたりする人間関係が見事にとらえられている。不思議と好奇心に満ちた、詩的な作品である」、審査員からは「真に生きるということや、人間らしい在り方を描いているのが印象的であり、主人公の語りにリアリティがある」と評された。

Balen は受賞スピーチで、「主人公が読む物語は、社会から隔絶した森の暮らしの中で、世界を広げてくれる。また生活環境が大きく変わっても、周囲の人々や以前の暮らしとのつながりを感じさせる」「以前、障がいのある生徒とともに過ごしていたとき、物語は、だれもが楽しめるものだと感じた」「予算削減のため、この10年の間に800近くの図書館が閉館しているが、物語を読むことは特権ではなく権利である」と語った。

Balen は特別支援学校に勤めたのち、現在は、ニューロダイバーシティ(神経多様性)のある人々にワークショップを行う Mainspring Arts の共同代表を務めている。

ケイト・グリーナウェイ賞

Long Way Down
Danica Novgorodoff

兄を銃で殺され、喪失感から復讐に向かう少年の姿が、何色もの水彩で表現されている。原作はジェイソン・レナルズ(Jason Reynolds)による同名の小説(邦訳『エレベーター』)であり、詩の形で書かれている。グラフィックノベルがカーネギー賞を受賞するのは、1973年の “Father Christmas”(邦訳『サンタのクリスマス』)以来のことである。

審査委員長からは、「銃犯罪の悲劇と、それが若い人たちの心に及ぼす影響が、力強く描かれている」、審査員からは、「読者を引き込む絵の力に圧倒された。苛酷な現実と、繊細な水彩画の芸術性が合わさって、読み終えた後も心にのこる」と評された。

Novgorodoff は受賞スピーチで、「グラフィックノベルは、言葉だけではとらえられない感情や考えを伝えることができる」「人種差別や環境レイシズム、銃の問題などを解決するには、他者への共感が求められている」「この世界を理解するために、若い人たちには様々な本を読んでほしい。そして、他者を尊重する上で、自分に何ができるのかを考えてほしい」と語った。

Novgorodoff は、米国でグラフィックノベルを手がけている。画家・作家・グラフィックデザイナーであり、馬の訓練士でもある。

Shadowers’ Choice Award

ショートリストの中から子どもたちが選ぶ Shadowers’ Choice Award として、カーネギー賞のショートリストからは “October, October”、 ケイト・グリーナウェイ賞のショートリストからは、Mariachiara Di Giorgio の “The Midnight Fair”(Gideon Sterer 作)が選ばれた。“The Midnight Fair”は文字のない絵本であり、夜、移動遊園地にやって来た動物たちが、五感に訴える絵で表されている。動物たちは、人間のいない遊園地で、読者が思いもよらないような姿を見せて楽しむ。Di Giorgio は、イタリアのローマ出身である。物語を考えた Sterer は、ニューヨーク州の森の中、両親が経営する小さな動物園で、自然に親しみながら育った。

Ref:

(2022.08.24 update)