2024年カーネギー作家賞、カーネギー画家賞受賞作品決定

【2024-082】

2024年6月20日(木)、英国図書館情報専門家協会(The Chartered Institute of Library and Information Professionals: CILIP)は、2024年のカーネギー作家賞(Yoto Carnegie Medal for Writing)とカーネギー画家賞(Yoto Carnegie Medal for Illustration)の受賞作品を発表した。

カーネギー作家賞は英国またはアイルランドで出版された英語の優れた児童書、カーネギー画家賞は児童書の挿絵を顕彰する。

2024年の受賞作品はどちらも「若い読者の想像力に働きかけ、力を与える意欲作である」と、審査委員長は述べている。

受賞作品(一覧)

カーネギー作家賞

The Boy Lost in the Maze
Joseph Coelho(ジョセフ・コエロー)文
Kate Milner(ケイト・ミルナー)絵

少年が大人になっていく過程を、ミノタウロスの神話と重ねた物語である。古代ギリシャの少年テセウスはラビリンスの中でミノタウロスに出会う。一方、現代の少年テオは疑い、困難や危険を経験し、迷路のような旅路の果てに自身を見つける。審査委員長からは、「父親をさがす二人の少年の姿が、詩の形で語られる。重層的な物語は読者を引き込み、言葉に遊びがあり、まるで迷路のように構成されている」と評された。

コエローは考古学を学び、大学卒業後、詩のパフォーマンスや学校向けの創作ワークショップを行ったり、脚本を書いたりしたのち、創作の世界に入った。2022年から2024年まで英国の「子どものためのローリエット」を務めたコエローは、国内の図書館を訪れ、図書館の重要性を訴える活動なども行っている。

カーネギー画家賞

The Tree and the River
Aaron Becker(アーロン・ベッカー)

ぽつんと立った木と、常にそこにある川のすがたをとおして、人類の発展が自然にあたえる影響が描かれている。文字のない絵本の中には、様々な文化や建築様式の建物が描きこまれ、新たな風景を作り上げている。ベッカーはスペインのグラナダに着想を得て、その後、実際に模型を作り、絵の進行に合わせてそれを作り変えながら制作したという。審査委員長からは、「細かい描写、色づかいや光の表現によって、生き生きとした場面が広がる」、審査員からは、「時と場所を越える普遍性」があり、読者が自分の物語をつくることができると評された。

ベッカーは受賞にあたり、「絵は、わたしが世界を理解するための方法だ。字のない絵本では、読者は好きなだけ時間をかけて味わうことができる。考えることやペースに関して語り手から指示されず、登場人物に自分を重ね、自ら意味を見出し、様々な発見をする。本は、みんなのためのものであり、言葉よりも絵のほうが心に響く、読書が苦手な子どものためのものでもあるということが、この本の受賞によって伝わればいい」と語った。

ベッカーは日本、東アフリカ、ヨーロッパ、アメリカに旅した経験からインスピレーションを得て、字のない絵本の三部作を描いた。その一冊目にあたる “Journey”(邦訳『ジャーニー : 女の子とまほうのマーカー』)は、2014年にコルデコット賞オナーブックに選ばれた。

Shadowers’ Choice Award

ショートリストの中から子どもたちが選ぶ Shadowers’ Choice Award として、カーネギー作家賞のショートリストからは Tia Fisher の “Crossing the Line”、カーネギー画家賞のショートリストからは、受賞作品と同じくAaron Becker(アーロン・ベッカー)の “The Tree and the River” が選ばれた。

Crossing the Line” はFisherのデビュー作であり、詩の形で描かれている。ギャングのドラッグビジネスに引きこまれてしまった少年の実話に、着想を得た物語である。主人公の父親は新型コロナウイルスの感染によって亡くなり、母親は二人の小さな赤ん坊を抱えて苦労している。「若い人たちを惹きつけ、心を躍らせつつ、困難な真実をも伝える詩の力を感じさせる」と評された。

Ref:

(2024.09.24 update)