2019年カーネギー賞及びケイト・グリーナウェイ賞受賞作品発表

【2019-087】

2019年6月18日、英国図書館情報専門家協会(The Chartered Institute of Library and Information Professionals: CILIP)は、2019年のカーネギー賞(Carnegie Medal)受賞作品が、Elizabeth Acevedo [ⅰ] の "The Poet X"、ケイト・グリーナウェイ賞(Kate Greenaway Medal)受賞作品が、ジャッキー・モリス(Jackie Morris)[ⅱ] の "The Lost Words"(Robert Macfarlane 文)に決定したと発表した。どちらの作品においても、詩の文体が、忘れられ疎外された声や言葉のための場所を生みだしている。

"The Poet X" は、アイデンティティ、自由、初恋、自らの考えを見出すことをテーマに、ハーレムに住むドミニカ系の少女が、ポエトリースラム(話し言葉で書かれた詩を口演するパフォーマンス)によって、母親の宗教や、自分と世界のつながりを理解する姿が描かれている。

Acevedo は受賞スピーチで、有色人種の少女を称える詩を読み、「児童文学は鏡であり、窓であるべきだ」という Rudine Sims Bishop 博士の言葉を紹介した。

審査員長は、「文化、家族、信仰の問題と向き合い、ユニークな詩の形で表した作品である。読者は、主人公の Xiomara が怒り、泣き、笑い、愛し、祈り、詩を書いて読み、希望を与えるまでの心の旅路を共にたどる。Xiomara の姿は、少女や女性が自らの肌の色をどのように受けいれるかを示し、ページから飛び出してくるようだ。ハーレムの街、挑戦、失望、母親がときに誤って向ける愛、少女の内面生活が率直に描かれ、あらゆる点で力強い。言葉を創造的に用い、生きることとドミニカの文化を称えている」と評価した。

ケイト・グリーナウェイ賞を受賞した "The Lost Words" は、失われつつある自然の美、不思議、魔法を呼び起こす詩集である。‘acorn’(ドングリ)、 ‘bluebell’(ブルーベル)、 ‘kingfisher’ (カワセミ)や ‘wren’(ミソサザイ)といった身近な自然の言葉が使われなくなってきているとして子ども向けの辞書から削られたことから生まれた本であり、自然保護運動に使われるなど文化現象になった。

受賞にあたり、モリスは「児童書の作家や画家は、本を読んで未来について考える人間を育てる」と述べ、政治家に対し温暖化対策の責任を追及する若者とともに、大人も行動を起こすべきだと語った。

審査員長は、「自然界のライフサイクルがいきいきと細やかに描かれている。ちょっとした動きから微妙な色合いまで巧みにとらえた挿絵が、詩に命を吹き込んでいる。読者の感性を試しつつ、色や大きさ、失われたもの、欠けたものについてより深く考えさせる。言葉も自然も貧弱になり、取り返しのつかない喪失へと向かう世界に、思いをはせるよう働きかける」と評価した。

2019年から、カーネギー賞及びケイト・グリーナウェイ賞ショートリストの中から子どもが選ぶ Shadowers’ Choice Awards が開始されたが、ここでもやはり"The Poet X" と "The Lost Words" の2冊が選ばれた。なお、人権や自由への理解を深める本に与えられるアムネスティCILIPオナー賞(Amnesty CILIP Honour)は、2018年に終了した。

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所蔵リスト

[ⅰ] Elizabeth Acevedo

Acevedo は、ニューヨークのドミニカ系移民の家に生まれた。詩人として活躍し、小説家としてのデビュー作である"The Poet X"で、2018年にボストングローブ・ホーンブック賞(フィクションと詩部門)全米図書賞児童文学部門、2019年にプリンツ賞を受賞した。

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(2019.07.23 update)