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国際子ども図書館主催の展示会のお知らせです。

国際子ども図書館開館記念国際シンポジウム 抄録

ソンブン・シンカマナン

ソンブン・シンカマナン

私自身の40年にわたる、本と子どもの出会いをもたらすための旅路について話したいと思います。まず私の子ども時代の経験について話します。私は地方で、農民の子として生まれ育ちました。我々は貧しくはないが、質素な生活をしており、子どもの本というのは稀な物でした。小学校においては教科書のみが使われ、娯楽用の本、大衆的な物語、ラーマーヤナのような古典文学というのは子どものためのものとはみなされなかったのです。子どもたちが本を読むことを許されなかったのです。幸い、私の両親は本を読み、母は字が読めない女性たちのために音読をしていました。私自身は母とともに寺院の僧侶が語る仏教の説話をよく聞き、そして自宅では母が友人のために読んだ本、あるいは私の道徳教育のために読んでくれた話を聞いていました。このように幼少の時から読書習慣の下地が形成されたわけです。やがて、娯楽用の本を子どもに届けるということが私の夢になり、教員養成校へ行き、1960年に中等学校の教員になりました。副業として学校の図書館の司書になり、そして図書館にできるだけ多くの娯楽用の読み物を追加するようにし、また多くの読書活動をするようにしたのです。その後働きながら図書館学の修士号を取得し、1973年、大学に就職して、図書館学の講師になりました。そして定年の1999年まで、大学においても子どもの本と読書への関わりを継続して、児童文学の講義をしてきたのです。

次にタイの児童文学の現状について話します。子どもの大半は地方に住み、その両親は多くが出稼ぎに出て、祖父母と暮らしています。すべての子どもは小学校が義務教育で7歳から入学しなくてはなりませんが、幼稚園、保育所、あるいは中等学校にはすべての子どもが行くわけではありません。しかしながら、子どもを学校に入れたいという親の最終的な目的はより高い水準の教育の準備をしたいということであり、受験が激化している現状であります。

そのような状況ですが、一般的にタイの子どもは郊外や地方においては就学前に読書をする機会はほとんどありません。そして就学してからも読み物としては、唯一、教科書だとか、補助用の教材しかないのです。小学校卒業後は、中学へ進学する子を除けば、本を読む機会はかなり低くなり、しかも村に届くような割安の本は質が悪く、内容も形態も子どもには適しません。対照的に良質の本は大変高価でわずかな子どもしか買えない状況であり、その買い与えることができる親でさえ多くは、どういった本をどこで買えばいいかという知識を持っていないのです。また子どもに読書をさせる時の問題は、親あるいは大人が、子どもは教科書や補助教材しか必要としないと思い込んでいるような状況があるということです。そして現実的にも学童には余暇の時間がほとんどなく、あったとしても読書以外のことをしたがり、あるいは読書をするとしても漫画を好み、あるいはテレビ番組に関係したような本しか読みたがらないという状況です。

児童書の制作については、私がこの分野で働き始めた当時、子ども用の本の制作はまだ初期の段階にあり、そして今日ではかなり状況は改善していますが、文章にしてもイラストにしても質の高い本は高価で、その値段は中間所得者層にさえもやや高いのが現状です。

児童図書館サービスについては、タイの図書館におけるさまざまな活動を見れば子どもの読書を奨励しようという努力がわかっていただけると思います。最も良い質を持っている図書館は総合大学の図書館であり、そしてさまざまな短大、中等学校の図書館が挙げられます。一方小学校の図書館の質は良くないといわざるをえません。公共図書館は都市部や街中にあるわけですが、子どものための良質な本はそろえていません。国立図書館は子どもの部門を持っていないのです。

児童文学専門の施設としては、児童文学講座は多くの初等教育教員養成講座あるいは図書館学のカリキュラムに設けられており、私のスリナカリンウィロート大学においてさまざまなプロジェクト・プログラムを立ち上げました。これらは子どもの本と読書を促進するためのプロジェクトで、たとえば子どもの読書プロジェクト、そして伝統に基づく作文プロジェクト、子どもの本の評価プログラム、そして児童文学ショーケースプログラム、巡回文庫プログラム(1989年IBBY朝日賞を受賞)などです。それ以外にもタイ−ラオス若者の本のためのプログラムという共同プログラムがありますし、ワークショップとしてはストーリーテリング、読書アニマシオン、創作作文などが行われています。これらのプロジェクト、プログラムは互いに補完し合うものであり、また大学の目的である教育、研究、そして社会奉仕の目的をかなえるのに役に立ちます。児童文学プログラムは独立した学部として学校の中で発足し、児童文学の専門家を育成してきました。そして彼らは今さまざまなすばらしい活動をしているのです。

すでにお話しした活動というのは、子どもの本や読書を解決するのに役立てたと私は思っています。私はタイにおいてはさまざまな読書普及活動をしていますが、この国際子ども図書館にもたくさんの子ども達がやってきて、本を好きになってくれることを願っています。大人達は、世界中で手をつなぎ、赤ちゃん達に子守唄を歌うべきであります。子どもに本を読んで聞かせ、そして物語を聞かせてあげましょう。そして読書をいっしょに楽しみましょう。子ども達がさまざまな活動を通して、読書により心の喜びを得られるように願っています。