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書誌

ーすべての子どもたちへ
六つの構成による二つの正方形についてのシュプレマティズムのお話ー
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エル・リシツキー(1890–1941)作\
リシツキーは、ロシア・アヴァンギャルドの画家、建築家、デザイナーで、本名はラーザリ・マールコヴィチ・リシツキー。ロシア西部のスモレンスク州ポチノクでユダヤ人の家庭に生まれる。1909年からダルムシュタット(現ドイツ連邦共和国)の高等技術学校で建築を専攻し、その後リガ(現ラトヴィア共和国)の工科大学で学ぶ。1916年から本のデザインを始め、1919年には絵本『山羊くん』などのイラストレーションを手がけている。同年、画家のエルモラーエワとシャガールの招きでヴィテプスク(現ベラルーシ共和国)へ赴き、応用美術大学で建築学などを指導する。やはりこの地に招聘された抽象絵画シュプレマティズム(絶対主義)の創始者であるマレーヴィチを崇拝していたリシツキーは、彼が結成したグループ「ウノヴィス」(新しい芸術の主張者)の創立メンバーとなった。
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マレーヴィチとの出会いは、リシツキーの芸術活動に大きな影響をもたらした。1921年に帰国すると、モスクワの「ヴフテマス」(高等美術工芸工房)で教鞭をとったが、まもなくドイツに渡り、1922年にベルリンで絵本『二つの正方形について』を出版した。その後、本国やヨーロッパで、ブックデザイン、国際展示会場のデザイン、雑誌『建設のソ連邦』などの装丁や写真、その他多くの分野でデザインのパイオニアとして活躍し、1941年に結核でこの世を去る直前まで、多彩で、独自なシュプレマティズムの世界を繰り広げた。
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絵本の代表作である『二つの正方形について』には、「六つの構成による二つの正方形についてのシュプレマティズムのお話」という副題がつけられている。この絵本の構想は、1920年にヴィテプスクで生まれたものだったが、その2年後にライプチヒの当時最高の技術を備えた印刷所で、作者本人が見守るなかで印刷されたという。6場面から成るこの絵本には、赤と黒の正方形が登場するが、最終的には赤が勝利をおさめる。赤は秩序あるもの、あるいは革命を、黒は無秩序で、不安定な存在を意味すると思われる。文字の大きさを変えたり、線を使って空間をイメージさせるなど、テキストの文字とイラストレーションが一体化され、非常に抽象的だが、しかし明確に思想を表現する作品になっている。“すべての子どもたちへ”と銘打たれているが、当時の子どもたちは、ロシア・アヴァンギャルドの画家が革命の思想を解き明かそうとしたこの斬新な絵本をどのように受け止めたのだろうか。巻末には、赤い正方形の下にシュプレマティストのグループの「ウノヴィス」という名称が大きく明記されており、リシツキーの主張を物語っている。