はじめに

ごあいさつ

国立国会図書館国際子ども図書館は、児童書の納本図書館として、日本国内で出版された児童書を網羅的に収集、保存、提供することを使命としています。

この電子展示会は、国際子ども図書館「本のミュージアム」で開催している展示会「日本の子どもの文学-国際子ども図書館所蔵資料で見る歩み」をもとに、いつでもどなたでもどこからでもお楽しみいただける「電子展示会」として再構成したものです。

この電子展示会では、明治から現代までの各時代を彩った様々な日本の子どもの本を国際子ども図書館の所蔵資料から概観します。

「第1章 子どもの文学のはじまり」では、明治の子どもの本や雑誌、そして戦前までの絵本を中心に取り上げます。「第2章 『赤い鳥』創刊から戦前まで―「童話」の時代」、「第3章 戦後から1970年代まで―「現代児童文学」の出発」、「第4章 1980年代から1999年まで―児童文学の現在」では、日本の子どもの文学の広がりと変化を、「第5章 現代の絵本―戦後から1999年まで」では、戦後の絵本の多様なテーマと表現を、「第6章 21世紀の子どもの本」では、2000年以降に出版された絵本と児童文学を紹介します。そのほか、童謡、国語教科書に掲載された作品と原作なども展示しています。

子どもの文学はそれぞれの時代の社会状況、児童観や価値観を映し出す鏡でもあります。明治から現代まで、日本でどのような本が生みだされ、子どもたちに届けられていったのか、当時の子どもたちに思いを馳せながら楽しんでいただければ幸いです。

最後に、展示会全体の監修者として御尽力をいただいた宮川健郎氏および「第6章 21世紀の子どもの本 その1 絵本」の監修者として御尽力をいただいた広松由希子氏に、電子展示会の作成についてもご協力をいただきました。深く感謝申し上げます。

国立国会図書館国際子ども図書館

はじめに(この展示会について)

日本の子どもの文学の源流をたずねていけば、中世の御伽草子や奈良絵本、近世の赤本までさかのぼることができますが、日本に本格的な子どもの文学が生まれたのは、いつでしょうか。1891(明治24)年に博文館が『少年文学』叢書第一編として刊行した、巌谷小波の『こがね丸』の「凡例」(まえがき)には、「此書題して「少年文学」と云へるは、少年用文学との意味にて」とあります。このとき、すでに日本でも、大人とは違う独自な存在としての「子ども」が見出されていたことがわかります。この時期の「少年」ということばは、「青年」や「壮年」に対する「少年」で、つまり、子どもということ。「少年用文学」は、まさに、子どもの文学にほかなりませんでした。

明治期、「子ども」は、富国強兵のための人材のように考えられていましたが、大正デモクラシーという新しい思潮のなかで、「子ども」は、純粋で無垢なものとして再発見されます。1918(大正7)年には、鈴木三重吉の主宰する児童雑誌『赤い鳥』が創刊され、「童心」の文学が花開いていきます。

この展示会は、このようにして出発した日本の子どもの文学の歩みを、国際子ども図書館の所蔵する書籍や雑誌によって跡付けます。文学をとおして、子どもたちに何がとどけられていったのか、資料を見ながらたどっていきましょう。