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第3章 「現代児童文学」の出発―戦後から1970年代まで

1 新しい子どもの文学の模索

長い戦争がおわったあとには、『赤とんぼ』(1946年~)、『銀河』(1946年~)など、良心的な児童雑誌がつぎつぎに創刊されました。

そういうかたちで発表の舞台は用意されたものの、作家たちは、戦後の新しい現実にふさわしいテーマを描き出す方法をすぐには見出すことができず、創刊された雑誌も、それぞれ終刊に追い込まれていきます。

現代児童文学の時代を準備したのは、1950年代の議論でした。童話の時代の作家たち、特に小川未明や浜田広介の仕事を批判的に検討するなかで、新しい子どもの文学が模索されました。このころの議論をまとめた評論に、古田足日の『現代児童文学論』(1959年)や、石井桃子他『子どもと文学』(1960年)があります。

1950(昭和25)年には、『岩波少年文庫』の刊行がはじまります。海外の古典的な作品だけでなく、同時代の作品の翻訳も積極的に取り入れた、このシリーズは、創作児童文学にも大いに刺激を与えました。

「銀河」のサムネイル

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3-1銀河
新潮社 1946-1949(昭和21-24)
当館請求記号 Z32-B250
戦後の子どもたちへ宇宙を見渡すような大きな目をもつように呼びかけた、山本有三の責任編集で創刊された。画像は1巻1号。

「ノンちゃん雲に乗る」のサムネイル

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3-2ノンちゃん雲に乗る
石井桃子 著 桂ユキ子 絵
光文社 1951(昭和26)
当館請求記号 児913.6-I583n
初版は大地書房1947(昭和22)年刊。
健全な愛に満ちた家族像が、敗戦後の日本に新鮮な理想的な姿としてうけいれられた。画像は標題紙。

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3-3ビルマの竪琴
竹山道雄 〔著〕 猪熊弦一郎 さしえ
『赤とんぼ』2巻3号
実業之日本社 1947(昭和22)
当館請求記号 Z32-61
『赤とんぼ』2巻3号~3巻2号連載。戦争や敗戦をどう受け止めるのかという作者の思想が流れ、敗戦直後の日本の人々に深い感銘を与えた作品。

「ラクダイ横丁」のサムネイル

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3-4ラクダイ横丁
オカモト・ヨシオ 〔著〕 ナカニシ・トシオ 絵
『銀河』3巻2号
新潮社 1948(昭和23)
当館請求記号 Z32-B250
少年の新しい発見や未来への希望を描きながら、現実社会の矛盾をさりげなく指摘している短編小説。

「少年少女」のサムネイル

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3-5少年少女
中央公論社 1948-1951(昭和23-26)
当館請求記号 Z32-B252
『赤とんぼ』、『子供の広場』、『銀河』などが次々と廃刊されるなか、戦後の文芸復興期の最後を飾ったともいえる“良心的児童雑誌”。画像は2巻1号。

「宝島」のサムネイル

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3-6宝島
スティーブンソン 著 佐々木直次郎 訳
岩波書店 1950(昭和25)
(岩波少年文庫;1)
当館請求記号 児933-cS84tS
「岩波少年文庫」刊行開始。
海外の古典的な作品だけでなく、同時代の作品の翻訳も積極的にとりいれたこのシリーズは、創作児童文学にも大いに刺激をあたえた。画像は標題紙。

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3-7二十四の瞳
壺井栄 著 森田元子 絵
光文社 1952(昭和27)
当館請求記号 児913.6-Tu643n
児童文学として書かれたものではないが、作品に流れる人々のやさしさや反戦の思いは世代をこえて感動を与えた。

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3-8童苑
早大童話会 [編]
早大童話会(20週年記念号の出版者:びわの実会) 1935-1953(昭和10-昭和28)
当館請求記号 Z32-379
早稲田大学の学生サークル早大童話会の機関誌。岡本良雄、水藤春夫らによって1935(昭和10)年に創刊され、多くの人材を輩出した。画像は20週年記念号。

2 散文的な文章による長編

日本の現代児童文学が成立したのは、1959(昭和34)年だと考えられます。この年には、佐藤暁(のち、さとると表記)の『だれも知らない小さな国』、いぬいとみこの『木かげの家の小人たち』が刊行されています。どちらも、小人の登場する長編ファンタジーで、戦争体験が下じきになってもいます。これらは、それまでの童話の時代の作品とはまったく違うものでした。

童話が詩的で象徴的なことばで心象風景(心の中の景色)を描いたのに対して、現代児童文学は、散文的なことばで子どもをめぐる状況(社会といってもよい)を描こうとしました。現代児童文学は、かつて経験した戦争も、戦争を引き起こす社会についても書かなければならなかったのです。

先に発表された、いぬいとみこ『ながいながいペンギンの話』(1957年)は、散文的な文章による幼年童話の試みです。散文性の獲得は、子どもをめぐる事件を順序立てて語ることになり、児童文学の長編化をまねくことになりました。

「鉄の町の少年」のサムネイル

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3-9鉄の町の少年
国分一太郎 著 市川禎男 絵
新潮社 1954(昭和29)
当館請求記号 児913.6-Ko547t
作者の戦中、戦後の労働現場での経験も元になった、民主主義の主張が現われている作品。

3-10ながいながいペンギンの話
いぬいとみこ 著 横田昭次 絵
宝文館 1957(昭和32)
(ペンギンどうわぶんこ)
当館請求記号 児913.8-I483n
散文的なことばで書かれた、タイトルの通り長編の物語。現代児童文学の成立を先どりしているといわれている。

「だれも知らない小さな国」のサムネイル

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3-11だれも知らない小さな国
佐藤暁 著 若菜珪 絵
講談社 1959(昭和34)
当館請求記号 児913.8-Sa867d
「童話」とはちがう小説的な結構をもった、我が国初の本格的な長編ファンタジー。作品の根底には戦争体験がある。

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3-12木かげの家の小人たち
いぬいとみこ 著 吉井忠 絵
中央公論社 1959(昭和34)
当館請求記号 児913.8-I483k
『だれも知らない小さな国』とともに、現代児童文学の新しい出発点とも言われている作品。画像は標題紙。

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3-13赤毛のポチ
山中恒 著 しらいみのる 絵
理論社 1960(昭和35)
(少年少女長篇小説)
当館請求記号 児913.6-Y386a
初出は同人誌『小さな仲間』に連載。社会の矛盾とその変革を描いた、安保闘争時代のリアリズム児童文学の記念碑的長編。

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3-14龍の子太郎 : 長篇童話
松谷みよ子 著 久米宏一 絵
講談社 1960(昭和35)
当館請求記号 児913.6-M415t
信州の小泉小太郎伝説などをもとにした民話風創作だが、その根底には社会変革への意志も見てとれる。

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3-15山のむこうは青い海だった
今江祥智 著 長新太 絵
理論社 1969(昭和44)
(ゆうもあ三部作;第1話)
当館請求記号 Y7-1422
1960(昭和35)年初版の定本版。初出は『岐阜日日新聞』連載で、挿絵は当時から長新太が手掛けた。作者の処女作で、主人公の自己変革を明るく描きだした旅の物語。

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3-16ぼくは王さま
寺村輝夫 著 和田誠 絵
理論社 1961(昭和36)
(日本の創作童話)
当館請求記号 児913.8-Te174b
王様を主人公とする四つの物語がおさめられている。その後続く著者の「王さま」シリーズの第1作。

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3-17ちびっこカムのぼうけん
神沢利子 著 山田三郎 絵
理論社 1961(昭和36)
(日本の創作童話)
当館請求記号 児913.8-Ka483t
『母の友』に連載されたものに加筆して刊行された、神沢利子最初の単行本であり、ファンタジーの傑作。

【コラム】幼年童話の現代

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3-18ぬすまれた町
古田足日 著 久米宏一 絵
理論社 1961(昭和36)
(少年少女長篇小説)
当館請求記号 児913.6-H862n
「日常」と「非日常」が交代する前衛的ともいえる手法で、戦後社会の問題を描き出した、著者の最初の創作児童文学。画像は標題紙。

3-19いやいやえん
中川李枝子 著 大村百合子 絵
福音館書店 1962(昭和37)
当館請求記号 児913.8-N299i
保育士であった著者が保育園での子どもの生活を元に書いた創作。挿絵を描いた大村百合子は実妹である。

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3-20ぴぃちゃあしゃん
乙骨淑子 著 滝平二郎 絵
理論社 1964(昭和39)
当館請求記号 Y7-13
戦争体験を語り伝えるのではなく、虚構のなかで戦争を書こうとする、新しい戦争児童文学の先駆的作品。画像は標題紙。

「ちいさいモモちゃん」のサムネイル

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3-21ちいさいモモちゃん
松谷みよ子 著
講談社 1964(昭和39)
当館請求記号 Y7-69
著者が長女のために作ったと言われる、私小説的な幼年童話。のちにシリーズ化された。

【コラム】戦争と児童文学

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3-22あほうの星
長崎源之助 著 福田庄助 絵
理論社 1964(昭和39)
(ジュニア・ロマンブック)
当館請求記号 Y7-117
自身の兵隊生活を元に創作した3篇の短編から成る。戦争児童文学を書き続けた著者の代表的な作品。

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3-23チョコレート戦争
大石真 著 北田卓史 絵
理論社 1965(昭和40)
(理論社・童話プレゼント)
当館請求記号 Y7-174
子どもたちの目と心で事件を描き、子どもを楽しませる要素を随所に盛り込んだエンターテインメント的作品。

「目をさませトラゴロウ」のサムネイル

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3-24目をさませトラゴロウ
小沢正 著 井上洋介 絵
理論社 1965(昭和40)
(理論社・童話プレゼント)
当館請求記号 Y7-308
独創的な発想、リズミカルな文体、ユーモア、ストーリーのおもしろさで現代幼年文学を代表する作品の一つ。

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3-25肥後の石工
今西祐行 著 井口文秀 絵
実業之日本社 1965(昭和40)
当館請求記号 Y7-383
戦後日本児童文学界で歴史小説の分野を切り拓いていった著者の、長編歴史小説第1作。

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3-26天使で大地はいっぱいだ
後藤竜二 著 市川禎男 絵
講談社 1967(昭和42)
当館請求記号 Y7-669
作者が卒論のつもりで書いたという作品。子どもの話し言葉で、自然や人間の素晴らしさが謳われている。

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3-27ヤン
前川康男 著 久米宏一 絵
実業之日本社 1967(昭和42)
(創作少年少女小説)
当館請求記号 Y7-854
学徒出陣で出征した戦地で構想したという。作者の「戦争」や「国家」へのアプローチが結実した作品。

「ベロ出しチョンマ」のサムネイル

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3-28ベロ出しチョンマ
斎藤隆介 著 滝平二郎 絵
理論社 1967(昭和42)
(理論社の愛蔵版わたしのほん)
当館請求記号 Y7-933
短編をまとめた童話集。いずれも人と人は心のやさしさによって結ばれるという作者の主題が貫かれている。

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3-29車のいろは空のいろ
あまんきみこ 作 北田卓史 絵
ポプラ社 1968(昭和43)
(ポプラ社の創作童話;3)
当館請求記号 Y8-N03-H1000
タクシー運転手の松井さんと様々な乗客との出会いを、あたたかく描いた作品。八つの短編からなる。

「ほろびた国の旅」のサムネイル

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3-30ほろびた国の旅
三木卓 著 赤羽末吉 絵
盛光社 1969(昭和44)
(長編創作シリーズ)
当館請求記号 Y7-1940
タイムスリップという手法で、現代の子どもたちを戦争に出会わせ、考えさせようと試みた作品の一つ。

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3-31教室二〇五号
大石真 著 斎藤博之 絵
実業之日本社 1969(昭和44)
(創作少年少女小説)
当館請求記号 Y7-1473
困難な現実から逃れて立てこもった少年たちがやがて未来へ踏み出す姿に、児童文学の「理想主義」がよく現われている作品。初出は『びわの実学校.第1期』13~30号での連載。

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3-32くまの子ウーフ
神沢利子 作 井上洋介 絵
ポプラ社 1969(昭和44)
(ポプラ社の創作童話 ; 11)
当館請求記号 Y7-1711
作者が「ストーリー性によりかからず、端的にものの本質に迫る仕事」として試みた空想冒険物語。

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3-33ボクちゃんの戦場
奥田継夫 作 しらいみのる 絵
理論社 1969(昭和44)
(理論社のジュニア・ライブラリー)
当館請求記号 Y7-1903
戦後20年を過ぎて発表された反戦平和文学。疎開児童のむきだしの人間性を描く。

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3-34グリックの冒険
斎藤惇夫 作 藪内正幸 画
牧書店 1970(昭和45)
(新少年少女教養文庫 ; 27)
当館請求記号 Y7-1992
擬人化されたペットのシマリスが、森という自分の原点をめざす雄大な冒険物語。

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3-35さらばハイウェイ
砂田弘 著 小野田俊 絵
偕成社 1970(昭和45)
(少年少女創作文学)
当館請求記号 Y7-2320
自動車事故と誘拐事件をめぐる現代的な社会問題に取り組んだピカレスク(悪漢)小説。前年『日本児童文学』に連載。

【コラム】子どもの現実と児童文学

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3-36トンカチと花将軍
舟崎克彦, 舟崎靖子 作
福音館書店 1971(昭和46)
当館請求記号 Y7-2445
作者夫妻のデビュー作で、ナンセンステールの先駆的存在。挿絵は舟崎克彦による。

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3-37うみのしろうま
山下明生 作 長新太 絵
実業之日本社 1972(昭和47)
(幼年絵童話)
当館請求記号 Y7-3335
自身の幼年時代に回帰するように、漁師の祖父と少年の心の交流を描いた作品。

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3-38地べたっこさま
さねとうあきら 作 井上洋介 絵
理論社 1972(昭和47)
(理論社名作の愛蔵版わたしのほん)
当館請求記号 Y7-2983
民話の語り口で人間の残酷な一面を叙情的に描きだした短編集。

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3-39風と木の歌
安房直子 著 司修 絵
実業之日本社 1972(昭和47)
(少年少女短編名作選)
当館請求記号 Y7-3119
「きつねの窓」「さんしょっ子」など、日常と異世界を結ぶ不思議な情景を民話的に表現した短編集。

【コラム】民話と児童文学

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3-40でんでんむしの競馬
安藤美紀夫 著 福田庄助 絵
偕成社 1972(昭和47)
(少年少女創作文学)
当館請求記号 Y7-3315
戦時下の路地裏の子どもたちの日常にある貧困と差別を浮き彫りにした表題作を含む短編集。

「ことばあそびうた」のサムネイル

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3-41ことばあそびうた
谷川俊太郎 詩 瀬川康男 絵
福音館書店 1973(昭和48)
(日本傑作絵本シリーズ)
当館請求記号 Y17-4075
繰り返されることばの音と視覚を楽しむナンセンス詩集。80年代以降、教科書に採用されるようになった。

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3-42光車よ、まわれ!
天沢退二郎 著
筑摩書房 1973(昭和48)
(ちくま少年文学館 ; 4)
当館請求記号 Y8-N11-J279
詩人、作家であり宮沢賢治の研究者である作者の、善悪の二元論におさまらない構成の長編ファンタジー。装幀・さしえは司修。

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3-43ぽっぺん先生と帰らずの沼
舟崎克彦 文・絵
筑摩書房 1974(昭和49)
当館請求記号 Y7-4113
自然科学に博学な作者による人気のナンセンス長編シリーズ2作目。食物連鎖と輪廻転生を描く。

3-44おとうさんがいっぱい
三田村信行 作 佐々木マキ 絵
理論社 1975(昭和50)
(理論社のroman book)
当館請求記号 Y7-4718
日常からはぐれた不気味な世界を描いた全5編。

【コラム】ナンセンス児童文学

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1960年代の幼年童話には、問題提起的な作品がいくつもあります。トラのキャラクターを借りて、自分とは何かという問題を考えさせる『目をさませトラゴロウ』(小沢正)や、ありえないナンセンスを描くことによって、逆に何がありうるのかと問うてくる『ぼくは王さま』(寺村輝夫)などをすぐに思い出すことができます。『くまの子ウーフ』(神沢利子)には「さかなには なぜ したがない」「ウーフは おしっこでできてるか??」といったタイトルの話がつづき、やはり、問いかける幼年童話になっています。

1990年代の『おさるのまいにち』(いとうひろし)は、現代児童文学が好んで描いた成長していく子どもとはちがう、きのうもきょうも同じ日常を生きる主人公を描きました。そこには、いそいで大きくならないで、ゆっくり生きようというメッセージを読み取ることもできます。

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子どもにむかって、戦争も、戦争を引き起こす社会のことも語るのが現代児童文学です。戦争体験をもとに創作した作品が数多く書かれましたが、敗戦から時間がたつにしたがって、過去の体験を伝えようとする児童文学が子ども読者には読みにくいことも見えてきました。

やがて、架空世界を構築して、そこへ子どもを招きこみ、ときにはファンタジーやSFの手法も使いながら、物語のなかで、現代の子どもたちに戦争を体験させるような試みも行われるようになりました。『ぴぃちゃあしゃん』(乙骨淑子)、『ほろびた国の旅』(三木卓)、『ふたりのイーダ』(松谷みよ子)などが、その試みのはじめです。

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子どもたちがかかえこんだ困難な現実を描く『教室二〇五号』(大石真)、『ぼくらは海へ』(那須正幹)、『海のメダカ』(皿海達哉)、欠陥車の問題をタクシー運転手の青年と少年主人公の関係を軸に描き出す『さらばハイウェイ』(砂田弘)、小学六年生の語りによって北海道の農村に生きる子どもたちを描いた『天使で大地はいっぱいだ』(後藤竜二)、父も母も家を出てしまって、置き去りにされた兄弟の一か月を書いた『おかしな金曜日』(国松俊英)……。

現代児童文学は、子どもの現実を取り込み、描こうとしてきました。そこで、いつも試されているのは、作中の子どもたちの現実を理想的な方向にむけることができるかどうかということでしょう。

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子どもの文学と関係が深いのが、人びとのあいだに口伝えで語りつがれてきた民話(昔話や伝説)です。明治期には巌谷小波が、昭和期には坪田譲治が、まとまった量の民話を再話しています。再話とは、子ども読者を意識した書き直しのことです。

現代においては、信州の小泉小太郎伝説などを踏まえながら、長編児童文学として再創造した『龍の子太郎』など松谷みよ子の仕事が大きいでしょう。斎藤隆介『ベロ出しチョンマ』や、さねとうあきら『地べたっこさま』といった作品集は、特にもとになる民話があるわけではないのですが、民話の語り口で民衆の思想を語ろうとする試みです。これらは、「創作民話」とも「民話風創作」とも呼ばれます。

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「いるかいるか/いないかいるか/いないいないいるか」―谷川俊太郎の詩「いるか」のはじめです。ひらがなの「いるか」は、動物のイルカか、そこに居るかとたずねているのかと考えても、わかりません。つまり、これは、ナンセンスな詩なのです。

トンカチと花将軍』(舟崎克彦・舟崎靖子、1971年)、『おとうさんがいっぱい』(三田村信行、1975年)など、70年代以降はナンセンス児童文学が書かれ、よく読まれるようになりました。ことばを連ねても意味が積みあがらないのがナンセンスの世界です。これは、ことばによって律儀に意味を積み上げ、その結果、主人公が成長するというような枠組みのなかで書かれてきた現代児童文学からの「自由」の獲得ともいえるでしょう。