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第5章 現代の絵本―戦後から1999年まで

太平洋戦争後の1953(昭和28)年、石井桃子や光吉夏弥の企画・編集による『岩波の子どもの本』の刊行がはじまります。シリーズには、欧米の絵本の翻訳のほか、日本の童話や昔話の再話もありました。

1956(昭和31)年には、福音館書店から月刊絵本『こどものとも』が創刊されます。これは、日本の書き手による創作や再話が中心になりました。

『岩波の子どもの本』や『こどものとも』によって、日本にも、物語絵本(1冊の絵本で一つの物語を語るもの)が定着することになります。

絵本は、見開きの絵がいろいろなことを語り、ページをめくっていくことによって展開する独自の子どもの本です。現代の日本の絵本は、多様なテーマと表現の可能性をひらき、海外からも注目される分野になっています。

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5-1家なき子
エクトル・マロー 原作 林芙美子 著 須田寿 絵
新潮社 1949(昭和24)
(世界の絵本 中型版 ; 1)
当館請求記号 児94-H-1
戦後最も早い時期の絵本叢書。著名な文学者を起用し、海外名作の再話絵本が中心であった。

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5-2日本一ずくし
関屋五十二 著 大貫松三 等絵
新潮社 1949(昭和24)
(世界の絵本 大型版 ; 1)
当館請求記号 Y17-1614
戦前の「講談社の絵本」の影響が伺える学習絵本。

5-3はなのすきなうし
マンロー・リーフ 文 ロバート・ローソン 絵 岩波書店 訳編
岩波書店 1954(昭和29)
(岩波のこどもの本 幼・1・2年向 ; 11)
当館請求記号 児726.7-cL43hI
石井桃子を中心に創刊され、欧米の優れた物語絵本を紹介した先駆的なシリーズ。

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5-4ビップとちょうちょう
与田凖一 作 堀文子 画
『こどものとも』1号
福音館書店 1956(昭和31)
当館請求記号 Z32-210
『こどものとも』は、1冊1話の月刊絵本のはじまり。絵本の普及に貢献し、優れた絵本作家を輩出した。編集は松居直。

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5-5セロひきのゴーシュ
宮沢賢治 原作 佐藤義美 案 茂田井武 画
『こどものとも』2号
福音館書店 1956(昭和31)
当館請求記号 Z32-210
宮沢賢治の原作を佐藤義美が再話したためテキストが異なる。戦後を代表する童画家茂田井武の最後の作品となった。

5-6ぐりとぐら
なかがわりえこ 作 おおむらゆりこ 作
『こどものとも』93号
福音館書店 1963(昭和38)
当館請求記号 Z32-210
リズムのある文と大きな卵で作るカステラが子ども達を魅了する。月刊絵本の黄金期を代表する1冊。

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5-7ぐるんぱのようちえん
西内みなみ さく 堀内誠一 え
福音館書店 1966(昭和41)
(<こどものとも>傑作集 ; 32)
当館請求記号 Y17-M98-800
新鋭の芸術家を画家に積極的に起用し、優れた絵本が生み出されたのも、『こどものとも』の特徴である。

5-8いないいないばあ
松谷みよ子 文 瀬川康男 絵
童心社 1967(昭和42)
(松谷みよ子あかちゃんの本)
当館請求記号 Y17-267
「赤ちゃん絵本」や「ファーストブック」と言われる絵本の先駆けである。瀬川康男は1967(昭和42)年に第1回ブラティスラヴァ世界絵本原画展でグランプリを受賞。

【コラム】『こどものとも』が開いたもの

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5-9だいくとおにろく
松居直 再話 赤羽末吉 画
福音館書店 1967(昭和42)
(<こどものとも>傑作集 ; 36)
当館請求記号 Y17-M98-801
昔話絵本。赤羽末吉は日本の風土や文化を描くことに優れ、1980(昭和55)年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞。

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5-10わたしのワンピース
西巻茅子 著
こぐま社 1969(昭和44)
当館請求記号 Y17-609
うさぎの作ったワンピースが、次々と風景の模様に変わる。文も絵も手掛ける絵本作家が登場する。

5-11ふしぎなえ
安野光雅 著
福音館書店 1971(昭和46)
(<こどものとも>傑作集)
当館請求記号 Y17-3472
だまし絵を精緻な表現で絵本化。安野光雅は、1984(昭和59)年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞。

5-12ふきまんぶく
田島征三 文と絵
偕成社 1973(昭和48)
(創作大型えほん)
当館請求記号 Y17-3993
田島征三は農耕を営みながら絵本を創作していることでも知られる。力強い画風で自然と子どもを描いている。

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5-13あめのひのおるすばん
岩崎ちひろ 絵・文 武市八十雄 案
至光社 1974(昭和49)
当館請求記号 Y17-8334
淡い色調の水彩画で、子どもを多く描いたいわさきちひろが、初めて文を書いた絵本。初版は1968(昭和43)年。

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5-14ねずみくんのチョッキ
なかえよしを 作 上野紀子 絵
ポプラ社 1974(昭和49)
(絵本のひろば ; 5)
当館請求記号 Y17-4254
ねずみくんのチョッキを、動物たちが次々と借りていく。余白が効果的に使われ、動物の大小を強調している。

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5-15おしいれのぼうけん
ふるたたるひ さく たばたせいいち え
童心社 1974(昭和49)
(絵本・ぼくたちこどもだ ; 1)
当館請求記号 Y17-4289
保育園を取材し、白黒とカラーの場面を効果的に展開しながら子どもの行動を描いた。

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5-16かさ
太田大八 作・絵
文研出版 1975(昭和50)
(ジョイフルえほん傑作集 ; 10)
当館請求記号 Y17-4545
文字なし絵本。主人公の傘のみ赤で着色されており、物語を容易に追うことができる。

5-17はじめてのおつかい
筒井頼子 さく 林明子 え
福音館書店 1977(昭和52)
(<こどものとも>傑作集)
当館請求記号 Y17-5153
初出は1976(昭和51)年。「あかちゃんの ぎゅうにゅうが ほしいんだけれど まま ちょっと いそがしいの。」―5歳のみいちゃんの、はじめてのおつかいのはじまりだ。林明子の絵の細部には、いろいろな物語が呼び込まれている。

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5-18わたし
谷川俊太郎 文 長新太 絵
『かがくのとも』91号
福音館書店 1976(昭和51)
当館請求記号 Z32-26
『かがくのとも』は1969(昭和44)年に発行された『こどものとも』の姉妹誌の科学絵本である。自己を客観的に見つめた絵本。

5-19さる・るるる
五味太郎 作・画
絵本館 1980(昭和55)
当館請求記号 Y17-7383
単純な線と配色を用いて、「さる・くる」など、さると「る」で終わる2文字の動詞を組み合わせたことば遊び絵本。初版は1979(昭和54)年。

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5-20ひろしまのピカ
丸木俊 え・文
小峰書店 1980(昭和55)
(記録のえほん)
当館請求記号 Y17-7130
70年代から戦争をテーマにした絵本が登場する。本作は原爆をテーマとし、戦争の悲惨さを絵本で表現した。

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5-21キャベツくん
長新太 文・絵
文研出版 1980(昭和55)
(みるみる絵本)
当館請求記号 Y17-7209
長新太はナンセンス絵本で知られる。キャベツくんを食べた動物がどうなるかを、ユーモラスに描く。

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5-22はなのあなのはなし
やぎゅうげんいちろう さく
福音館書店 1982(昭和57)
(かがくのとも傑作集)
当館請求記号 Y17-8999
鼻の穴というからだの仕組みについて、取り上げた科学絵本。

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5-23はせがわくんきらいや
長谷川集平 さく
すばる書房 1984(昭和59)
当館請求記号 Y18-1297
作者自身が体験した社会問題(ヒ素ミルク中毒事件)を、子どもの視点で描いた絵本。初版は1976(昭和51)年。

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5-24おやすみなさいコッコさん
片山健 さく・え
福音館書店 1988(昭和63)
(幼児絵本シリーズ)
当館請求記号 Y18-3025
幼い子を安心させ眠りに導く「おやすみなさいの本」。自分から遠いものから近いものが眠っていく様子をリズミカルな文で描く。

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5-25まがればまがりみち
井上洋介 さく
『こどものとも』417号
福音館書店 1990(平成2)
当館請求記号 Z32-210
ひぐれの町の曲がり道に、次々とありえないものが現れるさまを描く。

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5-26ゴリラにっき
あべ弘士 作
小学館 1998(平成10)
当館請求記号 Y17-M99-131
動物園の飼育係を経験した著者により、ゴリラの表情が魅力的に描かれている。

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5-27森の絵本
長田弘 作 荒井良二 絵
講談社 1999(平成11)
当館請求記号 Y17-M99-1105
荒井良二はリンドグレーン記念文学賞を受賞するなど、海外でも高く評価されている。画風は色彩豊かで、音楽にも例えられる。

【コラム】絵本の現在

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松居直が編集し、1956(昭和31)年4月、『ビップとちょうちょう』(与田凖一作・堀文子画)によって刊行がはじまった、福音館書店の月刊絵本『こどものとも』は、日本に物語絵本の形式を定着させました。64号の『とらっく とらっく とらっく』(渡辺茂男作・山本忠敬画)からは、横長のかたちになっています。初期のテキストの書き手としては、まず、瀬田貞二がおり、与田凖一、野上彰、小林純一らの童謡詩人も執筆しています。やがて、『ぐりとぐら』(中川李枝子作・大村百合子画)のシリーズなども生まれます。

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1960年代、70年代にロングセラーとなる作品を生み出したあと、絵本の表現は、より多様化していきます。製版や印刷の新しい技術も取り込みながら、絵本は、「アート」に近づいていきます。読者層が大人たちに広がっていることは、本来は子どもの読み物だった児童文学と変わりませんが、子どもにとって絵本を読む(読んでもらう)体験とはどういうものなのかを考え直すことをとおして、絵本とはいったい何なのか、もう一度考える必要があるのかもしれません。