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第4章 児童文学の現在―1980年代から1999年まで

1960年に刊行された、山中恒の社会主義的なリアリズム『赤毛のポチ』、松谷みよ子の民話の再創造『龍の子太郎』、今江祥智の少年主人公の成長物語『山のむこうは青い海だった』は、それぞれ独自の作品でありながら、共通項を引き出すことができます。それは、人間は成長すべきもの、世の中は変革されるべきものといった考えです。

出発期の現代児童文学は、子どもをめぐる問題は子どもの力によって必ず乗り越えられ、状況は変革できるという理想主義で書かれていました。ところが、その後、問題は必ず乗り越えられるかどうかわからないと考え直されるようになります。理想主義を見直すきっかけになったのが那須正幹の『ぼくらは海へ』(1980年)でした。困難な現実をのがれて、ちっぽけないかだで海へ出て行ってしまう少年たちを描いた長編です。

その後の児童文学は、理想主義という「決まりきった物語」をのがれて、多様に展開し、2000年代へとつづいていきます。

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4-1兎の眼
灰谷健次郎 作 長谷川知子 絵
理論社 1974(昭和49)
(理論社の大長編シリーズ)
当館請求記号 Y7-4211
被差別者や障害者をめぐる教育問題に触れた作者のデビュー作。中国、韓国でも翻訳刊行されている。

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4-2霧のむこうのふしぎな町
柏葉幸子 文 竹川功三郎 絵
講談社 1975(昭和50)
(児童文学創作シリーズ)
当館請求記号 Y7-4885
それまでのファンタジーにユーモアを加えることにより、新風を吹き込んだ話題作。映画「千と千尋の神隠し」のベースになった。

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4-3それいけズッコケ三人組
那須正幹 作 前川かずお 絵
ポプラ社 1978(昭和53)
(こども文学館)
当館請求記号 Y7-6567
初出は1976(昭和51)年『6年の学習』連載の「ズッコケ三銃士」。エンターテイメント性に優れた人気シリーズ全50作の1作目。

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4-4おかしな金曜日
国松俊英 作 大古尅己 絵
偕成社 1978(昭和53)
(子どもの文学)
当館請求記号 Y7-6889
児童のおきざり事件を描き、児童文学の変質を予見させた作品。

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4-5ぼくらは海へ
那須正幹 作 安徳瑛 絵
偕成社 1980(昭和55)
(偕成社の創作文学)
当館請求記号 Y7-7905
子どもたちが困難な現実を逃れて海へ出ていってしまう物語。80年代児童文学の幕開けともいえる作品。

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4-6はれときどきぶた
矢玉四郎 作・絵
岩崎書店 1980(昭和55)
(あたらしい創作童話)
当館請求記号 Y7-8281
日記に書いたでたらめが現実におきてしまうナンセンス作品。中国、タイ、オランダ等でも翻訳刊行されている。

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4-7ズボン船長さんの話
角野栄子 作 鴨沢祐仁 画
福音館書店 1981(昭和56)
(福音館土曜日文庫)
当館請求記号 Y7-9044
少年と見知らぬ老人の交流を描く。『魔女の宅急便』作者による初期の傑作。画像は標題紙。

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4-8てつがくのライオン : 工藤直子少年詩集
工藤直子 著 佐野洋子 絵
理論社 1982(昭和57)
(詩の散歩道)
当館請求記号 Y7-9484
擬人化された動物たちの心をアイロニカルに描いた詩集。20年に渡り創作された作品を収録。

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4-9電話がなっている
川島誠 作 長谷川集平 絵
国土社 1985(昭和60)
当館請求記号 Y8-2581
子どもの性の問題に触れた短編集。標題作では近未来の異常社会を舞台に、結末を読み手に委ねる手法が用いられた。ブックデザインは宇野亜喜良。画像は標題紙。

【コラム】エンターテインメントの時代

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4-10少年時代の画集
森忠明 著 藤川秀之 絵
講談社 1985(昭和60)
(児童文学創作シリーズ)
当館請求記号 Y8-2978
身近な人の死など、子ども時代にもある「影」を描き、光と影という子ども時代の全体像を書いた作品集。

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4-11きいろいばけつ
もりやまみやこ 作 つちだよしはる 絵
あかね書房 1985(昭和60)
(あかね幼年どうわ)
当館請求記号 Y8-2517
きつねの子が丸木橋のたもとで見つけた黄色いバケツ。バケツを自分のものにしたくて、でも、できなくて、バケツを見つめつづけた1週間の物語には静かな時間が流れる。森山京の幼年童話の代表作。

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4-12火の王誕生
浜たかや 著 建石修志 絵
偕成社 1986(昭和61)
(偕成社の創作文学)
当館請求記号 Y8-3223
架空の神話的世界を描いた長編、全5部作。

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4-13学校ウサギをつかまえろ
岡田淳 さく・え
偕成社 1986(昭和61)
(創作こどもクラブ)
当館請求記号 Y8-3825
逃げだしたウサギの捕獲を通して、浮彫りになる少年たちの個性をリアルに描く。

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4-14ぼくのお姉さん
丘修三 著 かみやしん 絵
偕成社 1986(昭和61)
(偕成社の創作)
当館請求記号 Y8-3821
障害者と子どもの人間性を等距離から描いた全6編。著者は養護学校教諭だった。

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4-15ルドルフとイッパイアッテナ
斉藤洋 作 杉浦範茂 絵
講談社 1987(昭和62)
(児童文学創作シリーズ)
当館請求記号 Y8-4348
たくましい野良猫たちの生活と友情をユーモラスに、ドラマチックに描いた冒険物語。

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4-16海のメダカ
皿海達哉 著 長新太 絵
偕成社 1987(昭和62)
当館請求記号 Y8-4686
学校社会と決別した不登校の少年を主人公に、小さなアパートの住人たちの多様な生き方を描く。

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4-17空色勾玉
荻原規子 作
徳間書店 1996(平成8)
当館請求記号 Y9-2910(初版 Y8-5599)
福武書店1988(昭和63)年刊の改訂版。日本の上代文学をベースにした3部作の1作目。本格的な神話ファンタジーの誕生とされる。

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4-18つめたいよるに
江国香織 作 柳生まち子 絵
理論社 1989(平成元)
(理論社のあたらしい童話)
当館請求記号 Y8-6589
童話と大人の文学を越境した短編集。「デューク」など、80年代の都市感覚をさわやかに表現している。

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4-19お引越し
ひこ・田中 作
福武書店 1990(平成2)
(Best choice)
当館請求記号 Y8-7577
京都弁で語る小学6年生の少女を主人公に、両親の離婚や母娘の生活の変化を描く。画像は標題紙。

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4-20クヌギ林のザワザワ荘
富安陽子 作 安永麻紀 絵
あかね書房 1990(平成2)
当館請求記号 Y8-7419
日本の美しい自然と妖怪を描きながら、文明批評もまじえたファンタジー。

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4-21おさるのまいにち
いとうひろし 作・絵
講談社 1991(平成3)
(どうわがいっぱい ; 20)
当館請求記号 Y8-8299
おさるのごく平凡な日常を描き、生きることを急がされている子どもたちを癒す。装丁は田名網敬一。

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4-22夏の庭 : The friends
湯本香樹実 作
徳間書店 2001(平成13)
当館請求記号 Y8-N01-315(初版 Y8-9223)
福武書店1992年刊の改訂版。スイスをはじめ約10か国で翻訳刊行され、米バチェルダー賞など受賞。読者の年齢を選ばない作風でありながら、登場する老人を通して現代の戦争観を浮き彫りにしている。

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4-23西の魔女が死んだ
梨木香歩 著
小学館 1996(平成8)
当館請求記号 Y9-2427(初版 KH431-E658)
初版は、楡出版から1994(平成6)年刊。不登校の少女が、自然の中でイギリス人である祖母と付き合いながら自分を取り戻していくまでの物語。

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4-24精霊の守り人
上橋菜穂子 作 二木真希子 絵
偕成社 1996(平成8)
(偕成社ワンダーランド ; 15)
当館請求記号 Y9-2886
架空の古代国家を舞台にしたファンタジー。文化人類学者でもある作者ならではの世界観で繰り広げられるシリーズの第1作目。

【コラム】さまざまなファンタジー

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4-25バッテリー
あさのあつこ 作 佐藤真紀子 絵
教育画劇 1996(平成8)
(教育画劇の創作文学)
当館請求記号 Y8-M98-6
野球を通じて少年たちの美しい信頼関係とひたむきさを描いた全6作シリーズ。

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4-26ぼくらのサイテーの夏
笹生陽子 作 やまだないと 絵
講談社 1996(平成8)
(わくわくライブラリー)
当館請求記号 Y9-2804
小学6年生の少年の、ある夏の経験と成長を独特の文体で描く。

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4-27アルマジロのしっぽ
岩瀬成子 著 渡辺洋二 絵
あかね書房 1997(平成9)
当館請求記号 Y8-M98-193
米軍基地のある山口県岩国市を舞台に、少女が日々の出来事に感じる繊細な感覚を描く。

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4-28イグアナくんのおじゃまな毎日
佐藤多佳子 作 はらだたけひで 絵
偕成社 1997(平成9)
(偕成社おたのしみクラブ)
当館請求記号 Y8-M98-178
11歳の少女がイグアナを飼うことを通して、家族の変化と再生を描く。

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4-29カラフル
森絵都 作
理論社 1998(平成10)
当館請求記号 Y8-M99-92
前世で過ちを犯した少年が、自殺した中学生に乗り移り、再度人生を生きなおす物語。

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4-30鬼の橋
伊藤遊 作 太田大八 画
福音館書店 1998(平成10)
当館請求記号 Y8-M99-182
鬼と人、生と死などの相反する概念を通して、少年時代の小野篁の成長を描く。

4-31十一月の扉
高楼方子 著
リブリオ出版 1999(平成11)
当館請求記号 Y8-M99-691
中学生の少女が、洋館「十一月荘」に下宿した日々を、物語に綴る。

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それいけズッコケ三人組』(那須正幹)が出版されたのは1978(昭和53)年。典型的なキャラクターが登場し、ちょっと大げさな文体で語られる子どものためのエンターテインメントです。2004(平成16)年までに、『ズッコケ』シリーズ50冊が書かれ、三人組は、過去も未来の世界も冒険して、シリーズは、さまざまな社会問題も描き出しました。『はれときどきぶた』(矢玉四郎)なども刊行されて、1980年代以降、子どもの文学は、エンターテインメントの時代をむかえ、より広い読者層をかかえることになっていきます。

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日本にはっきりとファンタジーという考え方を持ち込んだのは、瀬田貞二の評論「空想物語が必要なこと」(1958年)でした。瀬田は、英米の児童文学論を参照しながら、「空想的な創作童話」のことをファンタジーと呼ぼうとします。現代児童文学の起点となった『だれも知らない小さな国』(佐藤さとる)や『木かげの家の小人たち』(いぬいとみこ)は、まさに、そのファンタジーでした。

その後は、あまんきみこ、安房直子、天沢退二郎、舟崎克彦、柏葉幸子、浜たかや、岡田淳、荻原規子、富安陽子、上橋菜穂子などの作家たちがより独自なファンタジー世界を創り出すことになります。