本文
書誌
題名:はちかつきひめ
所蔵:国立国会図書館
種類:赤本
版元:鱗形屋
刊行年:1735-45年頃
判型:178×129mm
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解題
継子いじめのお話は、古くは「落窪物語」や西洋の「シンデレラ」などが有名ですが、ハッピーエンドで終るところも、伝統の形を継承していると言えるでしょう。ここでは、鉢をかぶった姫君という設定が何より際立っておりますが、後半の嫁くらべでは、美しさや財力だけでなく、琴や和歌の素養も試されています。昔の人々が、理想的な女性像をどのように考えていたかが窺える一面だと思われます。
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(♪)「かづく」というのは、「かぶる」ということばの古い言い方です。ですから「はちかづき姫」というタイトルは、鉢をかぶったお姫さま、という意味です。鉢は深めの器のこと。どうしてお姫さまが、鉢をかぶっているのでしょうね。では、お話をはじめることにいたしましょう。
さねたか公ご夫妻、長谷観音に祈願する
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(♪) 貴族のさねたか公ご夫妻には、お世継ぎがありませんでした。そのためきょうも、よいお世継ぎがさずかるようにと、大勢のお供を連れて、長谷観音にお参りに出かけました。供人「観音さまへのお参りも、きょうで七日目じゃなあ」
信心により、かわいい姫君が誕生する
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(♪) お二人の深い信心のおかげでしょうか、間もなくさねたか公ご夫妻に、かわいい姫君が授かりました。ご夫妻の喜びは言うまでもありません。一門の方々も、ぞくぞくとお祝いにかけつけます。
一門の方々「お世継ぎのご誕生、まことにおめでとうございます。それもこれも、長谷観音のご利益と、心よりおよろこび申し上げます」お祝いの品々も、つぎつぎに届けられました。
一門の方々「お世継ぎのご誕生、まことにおめでとうございます。それもこれも、長谷観音のご利益と、心よりおよろこび申し上げます」お祝いの品々も、つぎつぎに届けられました。
母の御台所、姫君の頭に鉢をかぶせて、亡くなる
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(♪) ところが、姫君が十三歳のとき、母の御台所が病いに倒れてしまいました。御台所は苦しい息のなかで、姫君を枕元に呼ぶと、手箱から宝物をとりだして、姫君の頭にのせ、その上に大きな鉢をかぶせました。御台所の歌「さしもぐさ 深くぞたのむ観世音 ちかいのままに いただかせぬる」そして何事かを観音さまにお祈りすると、そのまま息を引きとってしまったのです。
御台所がなくなった後、父のさねたか公は、姫君の頭の鉢を引き離そうとしましたが、ぴったりと吸いついて、離れる気配がありません。姫君はこうして、鉢をかぶった「はちかづき姫」になってしまったのです。
御台所がなくなった後、父のさねたか公は、姫君の頭の鉢を引き離そうとしましたが、ぴったりと吸いついて、離れる気配がありません。姫君はこうして、鉢をかぶった「はちかづき姫」になってしまったのです。
(左)はちかづき姫、川に身を投げる
(右)はちかづき姫、継母に邪魔にされる
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(♪) それから間もなく、さねたか公は再婚して、新しい奥方にも姫君が生まれました。そのため継母にあたる奥方は、はちかづき姫が邪魔になってしまったのです。何かにつけて、はちかづき姫の悪口を、さねたか公に告げたので、だまされたさねたか公は、はちかづき姫を散々に叩いたうえ、とうとう屋敷から追い出してしまいました。
(♪) 行く所のなくなったはちかづき姫は、大きな川のほとりまで来ると、「川ぎしの 柳の糸の一筋に 思ひきる身を 神もたすけよ」という歌をのこして、流れに身を投げてしまいました。どのぐらい流されたでしょうか。川面に鉢が浮いているのを見つけた漁師が、はちかづき姫を助け上げましたが、ふしぎな姿を気味悪がって、そのまま岸に置き去りにしてしまいました。
(♪) 行く所のなくなったはちかづき姫は、大きな川のほとりまで来ると、「川ぎしの 柳の糸の一筋に 思ひきる身を 神もたすけよ」という歌をのこして、流れに身を投げてしまいました。どのぐらい流されたでしょうか。川面に鉢が浮いているのを見つけた漁師が、はちかづき姫を助け上げましたが、ふしぎな姿を気味悪がって、そのまま岸に置き去りにしてしまいました。
(左)はちかづき姫、中将殿に助けられる
(右)はちかづき姫を、子どもたちが笑う
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(♪) やっと気がついたはちかづき姫は、またふらふらと歩きだしました。鉢をかぶったはちかづき姫の姿を見ると、近所の子どもたちが、大声ではやしたてました。
(♪) そこへ通りかかったのが、三位の中将殿とそのご家来衆でした。中将殿は、はちかづき姫のふしぎな姿を見ると、屋敷に連れ帰って、召し抱えたいと言いだしました。家来1「なるほど。それなら屋敷へ連れて帰りましょう」 家来2「それにしてもお殿様は、おかしな者をお抱えになるものだ」
(♪) そこへ通りかかったのが、三位の中将殿とそのご家来衆でした。中将殿は、はちかづき姫のふしぎな姿を見ると、屋敷に連れ帰って、召し抱えたいと言いだしました。家来1「なるほど。それなら屋敷へ連れて帰りましょう」 家来2「それにしてもお殿様は、おかしな者をお抱えになるものだ」
中将殿の息子・宰相殿に見初められる
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(♪) お屋敷に仕えるようになったはちかづき姫が、あるときお風呂をわかしておりますと、近くを通りかかった中将殿の四番目の息子・宰相殿が、はちかづき姫を一目見て、好きになってしまいました。その気持ちを打ち明けられたはちかづき姫も、宰相殿が好きになりました。さて、このお話がどうなるのか、下巻をお楽しみに。
11ページには朗読はありません
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12ページには朗読はありません
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13ページには朗読はありません
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(♪) 継母にいじめられて家を出たはちかづき姫は、川に身を投げたのでしたが、危ういところを漁師に救われました。さらに通りかかった三位の中将殿に助けられて、中将殿のお屋敷で働くことになったのです。そしてあるとき、中将殿の息子・宰相殿に見初められたというのが、前回までのお話でした。さてこの後のお話は、どのように展開するのでしょうか。
はちかづき姫と宰相殿、固い約束をする
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(♪) 宰相殿は、はちかづき姫を裏切らないという証拠に、つげの枕と笛を贈りました。そして歌をかわして、恋しい気持ちを伝えあったのでした。はちかづき姫「君こんと つげの枕や 笛竹の などふし多き ちぎりなるらん」おいでくださるのを、心からお待ち申しておりました。宰相殿「いく千代と ふし添いてみん くれ竹の ちぎりは絶えじ つげの枕に」待っていてくれたのですね。もう離れることはありませんよ。
(左)はちかづき姫の鉢が、落ちる
(右)中将殿ご夫妻、二人の仲をさこうとする
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(♪) はちかづき姫と宰相殿の仲を知った中将殿ご夫妻は、なんとかして二人を、別れさせようとしました。そして「嫁くらべ」をすることを思いつきました。嫁くらべというのは、息子の嫁たちの美しさや、衣裳・持ち物の豪華さ、教養などを競わせるものです。中将殿の御台所「これ、乳母や。はちかづき姫に、あきらめるように言うのだよ」 乳母「はい、嫁くらべと申せば、とてもお屋敷にはいられますまい」
(♪) 嫁くらべと聞いて、はちかづき姫と宰相殿は、とても悲しくなりました。着かざろうにも、はちかづき姫には何もないのです。二人は、屋敷から逃げ出そうと思いました。ところが、どうしたことでしょう。このとき、はちかづき姫の頭の鉢がゴロリと落ちて、中からたくさんの宝物が出てきたのです。二人は大喜びです。宰相殿「これで逃げることもなくなった。嫁くらべに出ても、見劣りすることはあるまい」
(♪) 嫁くらべと聞いて、はちかづき姫と宰相殿は、とても悲しくなりました。着かざろうにも、はちかづき姫には何もないのです。二人は、屋敷から逃げ出そうと思いました。ところが、どうしたことでしょう。このとき、はちかづき姫の頭の鉢がゴロリと落ちて、中からたくさんの宝物が出てきたのです。二人は大喜びです。宰相殿「これで逃げることもなくなった。嫁くらべに出ても、見劣りすることはあるまい」
はちかづき姫、嫁くらべに勝つ
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(♪) 鉢から出てきた宝物のおかげで、はちかづき姫は、立派な嫁くらべの仕度ができました。美しい着物をきて、後には付き人が、黄金の太刀、黄金の盃、黄金のたちばな、唐綾(からあや)百反などを持って従います。はちかづき姫のみすぼらしい姿を笑おうと待ち構えていた大勢の人々は、その美しさと豪華さに、すっかり肝をつぶしてしまいました。宰相殿「騒ぐでない。はちかづき姫は、嫁くらべにも負けはせぬぞ」 女たち「確かに、嫁御のなかでは、はちかづき姫が一番じゃ、一番じゃ」
はちかづき姫、兄嫁たちの意地悪にも勝つ
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(♪) 嫁くらべに勝ったので、中将殿ご夫妻は、はちかづき姫を宰相殿の嫁としてみとめ、しかも、一門の跡目を宰相殿にお譲りになりました。面白くないのは、三人の兄嫁たちです。はちかづき姫に恥をかかせようとして、大勢のまえで琴を弾くことを命じました。しかしはちかづき姫は、見事に弾きこなしてみせました。つぎに歌を詠むことを命じたのですが、これもまた見事なできばえでした。兄嫁たちの計略は、あえなく失敗してしまったのです。
はちかづき姫、父・さねたか公に会う
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(♪) それから暫くして、はちかづき姫に、二人の子どもが生まれました。そのお礼に、宰相殿とはちかづき姫は、親子で長谷観音にお参りに出かけました。長谷観音の境内で、はちかづき姫は、思いがけない人を見かけました。はちかづき姫「あのお方は、なんだか父(とと)様に似ていらっしゃるようだが…」出家姿はしているのですが、たくさんのお供を連れているのは、懐かしいさねたか公だったのです。
一同、めでたく対面する
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(♪) はちかづき姫と再会したさねたか公は、婿の宰相殿、二人の孫とも対面できました。そして、これもみな長谷観音のご加護によるものと、一同は心から喜びあったのでした。めでたし、めでたし。
21ページには朗読はありません
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