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書誌

題名:きんときおさなだち
所蔵:東京都立中央図書館(一部、大東急記念文庫)
種類:赤本
作画者:未詳
版元:鱗形屋
刊行年:1735-45年頃
判型:180×134mm

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解題

源の頼光に従って大江山で鬼退治をした坂田の金時が出世後の姿だとすれば、このお話は、金時の幼年時代のエピソード集と言えるものでしょう。主人公・快童丸(後の金時)の怪力ぶりは、クマと首引きや棒引きの力比べをする場面、頼光の前でけものたちと相撲をとって見せる場面などに、遺憾なく発揮されております。この絵のような力強い筋肉の描写は、私たちには相撲の錦絵などでお馴染みですね。
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金時おさなだち
赤本「金時おさなだち 上巻」の表紙 外題
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金時おさなだち。(♪) 坂田の金時といえば、源の頼光にしたがって、大江山の鬼退治をしたことで有名です。私たちには「金太郎」でおなじみですが、幼い頃からたいへんな力持ち。クマを投げ飛ばしたと言われております。金太郎は、今の神奈川県・足柄山で育ったことになっておりますが、このお話の舞台は信濃の国、今の長野県の上路(あけろ)山。主人公の名前も、快童丸になっております。それでは快童丸ものがたりの、はじまり、はじまり。(♪)

4ページには朗読はありません

赤本「金時おさなだち 上巻」の扉
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山姥、快童丸を育てる
赤本「金時おさなだち 上巻」の一丁表
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東京都立中央図書館蔵 無断複製を禁じます 左頁は原本欠落のため大東急記念文庫所蔵本より補いました
(♪) 昔から、山奥に住む山姥には、ふしぎな霊力があると言われております。さて、この山姥は、一人息子の快童丸を、とても大事に育てておりました。山姥「これこれ、おサルや。おまえが持っている桃の実を、この快童丸にやっておくれ」 サル「きゃっきゃっきゃっ。おやすいご用ですとも」
けものたち、快童丸に従う
赤本「金時おさなだち 上巻」の一丁裏、二丁表
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東京都立中央図書館蔵 無断複製を禁じます 右頁は原本欠落のため大東急記念文庫所蔵本より補いました
(♪) 快童丸が驚くほどの力持ちなので、山のけものたちは、みんな快童丸の家来です。綱を引いているのは、イノシシ、キツネ、ウサギたち。快童丸「おいおい、キツネ。もう少し静かに引いておくれ」 キツネ「やれやれ、驚いた。快童丸は、ほんとに人間のこどもなのか?」脇で掛け声をかけているのは、お調子者のサルです。「お先で振れふれ、お供で振れふれ!」
 里の百姓たちも、この様子を見てびっくり。百姓1「アレがうわさの、山姥の子・快童丸か」 百姓2「なんともまあ、真っ赤な顔のこどもだなあ」
クマが快童丸に、首引きをいどむ
赤本「金時おさなだち 上巻」の二丁裏、三丁表
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(♪) あるときクマが、快童丸に首引きをいどんできました。首引きというのは、輪にした綱を首にまいて、思いきり引っ張りあう力くらべです。さあ、首引きのはじまりです。快童丸は、初め負けたふりをしておりましたが、隙を見て、一気に引き倒してしまいました。クマ「もう、参った参った。まことに恐れ入りました」 快童丸「おい、力はもうそれっきりか。もっと精だして引っぱれよ!」
(左)頼光の家来・保昌、快童丸と出あう
(右)親方のクマも負ける
赤本「金時おさなだち 上巻」の三丁裏、四丁表
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(♪) 首引きに負けたクマは、すごすごと巣穴へ逃げ込みました。これを見ていた親方のクマが、こんどは快童丸に、棒引きをいどみます。棒引きというのは、太い棒を引っぱり合う力くらべのことです。快童丸「おお、こんどは親方のクマか。よし、それなら棒引きで勝負だ」 親方のクマ「負けるものか。ありゃありゃありゃ、こりゃこりゃこりゃ」
(♪) この棒引きの様子を、イノシシ狩りに来ていた源の頼光の家来・平井の保昌が見ておりました。保昌「さてさて、頼もしいこどもじゃ。さっそく頼光様に申し上げて、家来に召し抱えるように、おすすめしよう」 お供のさむらい「それにしても、不思議なこどもじゃ」
快童丸、けものたちに相撲をとらせる
赤本「金時おさなだち 上巻」の四丁裏、五丁表
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(♪) 相撲のだいすきな快童丸は、山の中に土俵をつくって、けものたちに相撲をとらせて遊んでいます。なかでも、イノシシと狼の対戦は好取組み。お互い業師なので、なかなか勝負がつきません。行司役は快童丸。土俵下ではウサギが、大声援をおくっています。ウサギ「イノシシー。ぜったい負けるなよ!」 快童丸「あっ、勝負あった。狼の負け!」なんと、イノシシが狼をお腹にのせて、見事に投げ飛ばしましたので、快童丸から、たくさんのご褒美をもらいました。
快童丸、家に帰る
赤本「金時おさなだち 上巻」の五丁裏
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(♪) 一日中けものたちと遊んだ快童丸は、イノシシの背にまたがって、山姥の家に帰ります。お供をしているのは、ウサギです。快童丸「どうだ、ウサギ。このやじろべえは、よく出来ているだろう」オモチャのやじろべえを喜ぶなんて、やっぱり快童丸もこどもですね。空には、大きな鎌のような月がかかりました。

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赤本「金時おさなだち 上巻」の裏見返し
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赤本「金時おさなだち 上巻」の裏表紙
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赤本「金時おさなだち 下巻」の表紙 外題
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赤本「金時おさなだち 下巻」の扉 内題
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(♪) 山のけものたちを相手にしても、誰にも負けない力持ちの快童丸。そして、その様子を見ていた源の頼光の家来・平井の保昌。さて下巻では、快童丸のどんな活躍がまっているのでしょうか。(♪)
保昌、頼光に快童丸のことを伝える
赤本「金時おさなだち 下巻」の一丁表
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(♪) 屋敷にもどった平井の保昌は、山で出あった怪力無双の快童丸のことを、主君・源の頼光に伝えました。保昌「この山姥のせがれ快童丸は、とてつもない怪力の持ち主でございます。クマやイノシシを、苦もなく投げ飛ばしておりました。ぜひ家来に召し抱えられますように」頼光の一の家来・渡辺の綱も、すぐに賛成しました。頼光「それほどまでの勧めならば、その山姥の子を召し抱えることにしようか」
(左)けものたち、快童丸をなぐさめる
(右)山姥、快童丸の成長を喜ぶ
赤本「金時おさなだち 下巻」の一丁裏、二丁表
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(♪) きょうは、快童丸と山のけものたちは、ままごとをして遊んでいます。サル「わしが飯をたきましょう。ふうふう、きゃっきゃっ」 快童丸「サルよ、じょうずに飯をたいてくれよ」そばでは山姥が、嬉しそうにこの様子を見守っています。山姥「快童丸、刃物で手をきるんじゃないぞ。そなたは私の、大事なだいじな秘蔵っ子だから」
(♪) ほかのけものたちも、いろいろな芸をして、快童丸を楽しませてくれました。タヌキは目かくしをして、腹つづみ打ちながらのポンポコ踊り。キツネは手足をひょいひょい伸ばしてキツネ踊り。ウサギも得意の跳ね踊りです。山姥「ほら快童丸、見てごらん。タヌキが目かくしをして踊りおる。ウサギの踊りも、じょうずじゃなあ」
快童丸、雷をにらみ落とす
赤本「金時おさなだち 下巻」の二丁裏、三丁表
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(♪) 快童丸が、けものたちと楽しく遊んでいる折もおり、一転空が暗くなると、ゴロゴロゴロッとものすごい雷鳴がして、急に雨が降りだしました。これには快童丸も、むかっ腹を立ててしまいます。快童丸「おれが気分よく遊んでいるのに、ゴロゴロゴロとはやかましい!」ぐっと空をにらみつけたからたまりません。震えあがった雷が、地面に落ちてしまいました。それを快童丸が捕まえて、木に縛り付けました。雷「あー、その太鼓をとられては、雷の商売もやっていけません。どうかお返しくださいませ…」泣いてしまうなんて、なんとも、だらしのない雷です。
さて、快童丸を召し抱えるために、山姥の家をたずねて来た平井の保昌でしたが、雷をにらみ落とした快童丸の振る舞いをみて、またびっくり。保昌「さてさて、実に気性のはげしいこどもじゃ。雷太鼓を打ち壊してしまったぞ」
(左)けものたちと、別れの相撲をとる
(右)快童丸、頼光の家来になる
赤本「金時おさなだち 下巻」の三丁裏、四丁表
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(♪) 保昌につづいて、頼光も山姥の家をたずねて来ました。そして山姥に、快童丸を家臣として召し抱えることを伝えました。頼光「頼もしいこどもじゃ。名を金時とあらためてやろう」保昌「それは、よい名でございます」山姥が喜んだのは、言うまでもありません。
(♪) 頼光に召し抱えられた快童丸・すなわち金時は、お殿様へのお目見えに、山のけものたちと、相撲をとってご覧にいれました。金時「おれはきょうから、さむらいだ。目にものみせてくれるから、どこからでもかかってこい!」クマを右手で軽々と差し上げておいて、左手でイノシシの首をひねります。山姥「快童丸よ、めでたいお目見えじゃ。たんと働け、はたらけ!」
金時、元服して、頼光の四天王となる
赤本「金時おさなだち 下巻」の四丁裏、五丁表
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(♪) 屋敷へ帰ると頼光は、さっそく金時に、元服の儀式をほどこしました。名前を坂田の民部金時として、烏帽子装束をあたえたのです。頼光「うれしいことじゃ。これで渡辺の綱、卜部の季武、碓井の貞光、坂田の金時と、頼光の四天王がそろったわけだ」金時の髪をさむらい風にととのえてくれたのは、平井の保昌でした。保昌「金時、これからおまえとおれは、朋輩だ。嬉しいであろう」 金時「保昌さま、たいへんお世話をかけしました」 綱「おお金時、よい若武者になったぞ」
金時の鬼神退治
赤本「金時おさなだち 下巻」の五丁裏
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(♪) このあと金時は、頼光にしたがって大江山の鬼退治にでかけるのですが、ここでは大江山の鬼ではなくて、戸隠山の鬼神退治ということになっております。金時「この悪鬼め、これで降参したか!」 鬼神「参りました。ごめんなさい、ごめんなさい」 頼光「金時、でかした、でかした!」 季武「金時、大てがらだぞ」
 鬼退治で有名な坂田の金時の、幼い頃のお話をご紹介しました。めでたし、めでたし。
赤本「金時おさなだち 下巻」の裏見返し
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(♪) ところで最後のページに、「いせや亀吉」というサインが見えます。この本は、伊勢屋の亀吉クンがもっていたのでしょうか。自分の名前をしっかり書いて、大事にしていたのでしょうね。

22ページには朗読はありません

赤本「金時おさなだち 下巻」の裏表紙
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