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本文

書誌

題名:赤本 鼠よめいり(後補題)
所蔵:国立国会図書館
種類:赤本
作画者:未詳
版元:鶴屋
刊行年:1735-45年頃
判型:171×124mm
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解題

この絵本は嫁入りを題材にした一種の実用書であると同時に、時間の推移に従って展開する構成は、いわばドキュメンタリーに属するものと言えるでしょう。またこの時代に鼠の嫁入り絵本が多いのは、子(ね)は物事の始めであること、多産な動物なので子孫繁栄に繋がること、大黒天のお使いで縁起がよいこと、などがその理由だと思われます。嫁入りの賑わいが、画面のあちこちから聞こえてくるような絵本です。
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赤本 鼠の嫁入り
「赤本 鼠の嫁入り」の表紙 外題
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赤本 鼠の嫁入り
「赤本 鼠の嫁入り」上巻の扉
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(♪) 赤本というのは、江戸時代中頃の草双紙のことです。子どもや庶民向けに作られた素朴な絵本で、表紙が赤いので、そう呼ばれていました。鼠が登場する嫁入り絵本は、江戸時代には何種類も作られています。「子(ね)」は物事の始めであること。鼠は多産なので、子孫繁栄につながると思われていたこと。鼠は大黒天のお使いで、縁起がよいとされていたこと、などがその理由だと思われます。絵本を眺めながら女の子たちは、いつの日か自分がお嫁に行くときのことを、考えていたのかもしれませんね。(♪)
結納の使者を迎える準備
「赤本 鼠の嫁入り」上巻の一丁表
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(♪) 婚礼を間近にひかえたこの家。きょうは結納の使者を迎える日です。玄関先を掃いたり、打ち水をしたり、雑巾がけをしたり。使者を迎える側は、大忙しで掃除の最中です。差配する鼠「これこれ、雑巾をよく洗ってから拭くのだよ」 下働きの鼠「へい。箔を押したように、ピッカピカにいたします」 先輩の鼠「ほら、打ち水は俺のようにするのだ。水が溜まらぬようにな」軒には、大きな提灯も出されました。
結納の使者、到着する
「赤本 鼠の嫁入り」上巻の一丁裏、二丁表
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(♪) さて、結納の使者が到着しました。お互いによい家柄なのでしょう、結納品も、おびただしい数です。結納金はもちろん、祝儀物の束ね熨斗(たばねのし)、結い綿、鴨、酒樽などが、次々と運び込まれています。使者の鼠「私は、先方より遣わされた者でございます。ご祝儀のしるしを、お受け取りくださいませ」 受取る側の鼠「されば、ご丁寧な儀。遠方よりご苦労さまでございました。これ以後は、ご懇意にお願い申し上げます」
使者をご馳走でもてなす
「赤本 鼠の嫁入り」上巻の二丁裏、三丁表
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(♪) 結納を運んで来た使者たちが、座敷でもてなしを受けております。お酒が出されたので、どちらも、すっかり打ち解けた様子です。接待する鼠「ささ、ここは朋輩同士ということで、気楽になさいませ」 使者の鼠「それではお祝いに、一献(いっこん)いただきましょう」台所では料理人や運び役が、次々と料理を送り出しています。料理人「あと幾膳盛ればいいのだ?」 運び役「はい、上座敷へ、あと五膳でます」下働き衆も、ご馳走になったり、ご祝儀をもらったりしています。
女衆は婚礼仕度にてんてこ舞い
「赤本 鼠の嫁入り」上巻の三丁裏、四丁表
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(♪) いよいよ婚礼の日が近づきました。こちらの部屋では、女衆が総出で、晴れ着の仕度をしたり、化粧をしたりしています。女鼠1「これを畳んだら、奥の小袖も畳みましょう」 女鼠2「それは、身幅(みはば)が広いかえ?」 女鼠3「三分ばかり縫い込んでおかっしゃい」そのすぐ隣りでは、お歯黒をつける者、髪を結う者、顔を剃る者。それぞれ身づくろいに余念がありません。
台所も料理仕度で大忙し
「赤本 鼠の嫁入り」上巻の四丁裏、五丁表
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一方、台所では、ご祝儀料理の下ごしらえです。タコ、鯛、野菜、鳥などの食材が、次々と運び込まれています。刺身を切る者、すり鉢をする者、かまどで炊きつける者など、休むいとまもありません。接待役は献立表を見ながら、進行の確認中。あれ? 薦被(こもかぶ)りから一杯やろうとして、注意されている者もいますよ。女鼠「これこれ、すきっ腹に冷(ひや)では、酔いがでますよ」
嫁入り道具の行列
「赤本 鼠の嫁入り」上巻の五丁裏
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(♪) まず、嫁入り道具の行列です。上の段から下の段まで、何とまあ、長い行列ではありませんか。担ぎ手1「この度のお荷物は、おびただしい数じゃなあ」 担ぎ手2「何が入っているのやら。箱は小さいのに、えらく重いわい」担ぎ手が、いろんなことを言い合っております。

11ページには朗読はありません

「赤本 鼠の嫁入り」の上巻と下巻の接ぎ目
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行列、まだ続く
「赤本 鼠の嫁入り」下巻の一丁表
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(♪) 嫁入り道具の行列は、まだまだ続いております。行列の監督1「ともかく天気がよくて、何よりであった」 行列の監督2「あちら様も、よいご身分だと承っております」 担ぎ手3「おい、ちょっと肩を換えるぞ」 担ぎ手4「これこれ、あまり動かさずに担いでおくれ」
婿方の迎えに、道具を渡す
「赤本 鼠の嫁入り」下巻の一丁裏、二丁表
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(♪) 担ぎ手1「さて、今夜のご祝儀は、二百は頂けるかな?」 担ぎ手2「何だなんだ、お前は貰うことばかり考えておる。みっともないぞ」そうこうするうちに、婿方の迎えに出会いました。迎えの者1「皆様、お迎えに参りました」 迎えの者2「ご大儀でございました。ここからは、こちらでお受け取り申しましょう」 行列の監督「それなら私どもは、これにて交代させていただきます」
いよいよ花嫁行列
「赤本 鼠の嫁入り」下巻の二丁裏、三丁表
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(♪) さて、いよいよ花嫁のお輿入れです。これまた、おびただしい行列ですね。行列の監督1「これこれ、お前達。酒は控えろよ。先棒のやつめ、よろよろしておる」 担ぎ手「いえ、私は酔ってはおりませぬ。婚礼の道具担ぎも、これで三度目でございますから。なんの、これしき」 行列の監督2「これ、御門前だ。静かにいたせ!」 行列の監督3「それにしても、花嫁は果報者だな。よい婿殿を持たれたし、お舅様たちも、よいお人柄のようだし」
婚礼のお座敷
「赤本 鼠の嫁入り」下巻の三丁裏、四丁表
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(♪) 座敷の中央には、松竹梅や縁起物の鶴亀をあしらった「島台」が置かれています。また両家の方々の前には本膳が置かれ、いま二の膳が運び込まれてきました。花嫁の世話役「さあ、かづきの綿帽子をおとりなさいませ」 花嫁「でも、私は恥ずかしゅうございます」 舅「わしらは年寄りなれば、よろしゅうお頼み申します」 姑「嫁御は、ほんとによい器量だこと」 花嫁の父「どうか実の娘と思し召して、よろしくお願い致します。お二人様には、親孝行をさせますから」
赤ちゃんの誕生
「赤本 鼠の嫁入り」下巻の四丁裏、五丁表
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(♪) それからまた月日は過ぎて、めでたく第一子が誕生いたしました。奥ではお産を終えた母親が、薬を飲んで休息中です。屏風のこちら側では、お産婆さんが、かわいい赤ちゃんを抱いて、足で産湯の加減をみています。小女1「お医者様へ、早くご酒肴(しゅこう)の用意をお願いします」 小女2「あの、お里からいま産着が届きました」あわただしい中にも、何かほっとした空気が感じられますね。
お宮参り
「赤本 鼠の嫁入り」下巻の五丁裏
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(♪) 今日は赤ちゃんの初宮参りです。乳母に抱かれた赤ちゃんが、御幣でお払いを受けております。母鼠「南無大黒天様。この子を、息災にお守りくださいませ」 巫女(みこ)「猫の災難から逃れるように、守りたまえ」猫の災難とは、やっぱり鼠のお宮参りなのですね。おしまい。

18ページには朗読はありません

「赤本 鼠の嫁入り」下巻の裏見返し
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19ページには朗読はありません

「赤本 鼠の嫁入り」の裏表紙
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