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書誌

題名:寺子短歌
所蔵:東京都立中央図書館
種類:青本
作画者:鳥居清倍(2世)・鳥居清満画
版元:鱗形屋から西村屋が求版
刊行年:宝暦12年(1762年)版による寛政6年(1794年)以降の摺り
判型:175×130mm
備考:寛政6年西村屋刊『五臓町細見絵図』下冊の題簽を、文字部分を入木して再利用

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解題

寺子屋、今でいえば学習塾を舞台にした絵本です。この絵本が他の作品と違うところは、お話が「いま」を描いているということでしょうか。現代風に言えば学園ドラマの世界です。テレビで「金八先生」や「中学生日記」を観るように、江戸時代の子どもたち(小学生ぐらい)は、この絵本を眺めながら、自分たちの姿をそこに重ね合わせていたのでしょう。当時の寺子屋の様子を知る貴重な資料にもなっております。
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寺子短歌
青本「寺子短歌」の表紙 外題
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寺子短歌。(♪) 寺子屋ということばを、聞いたことがあるかな? そうそう、江戸時代の学校、というよりも、今の学習塾みたいなものですね。師匠という先生がいて、商人や職人の子どもたちに、読み書きそろ盤、ときには謡いの稽古などもしてくれたそうです。江戸時代の子どもたちが、寺子屋でどんなことをしていたのか、絵といろは歌で、たどってみることにしましょう。(♪)
寺入り、つまり入学風景
青本「寺子短歌」の一丁表
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(♪) 師匠「おとなしゅうして、しっかり勉強するんだぞ」 寺子「はい、わかりました」 父親「お師匠さま、どうかよろしくお願い致します」寺子屋の入学では、師弟の盃をかわす、などという儀式もやっていたようですね。
(♪) 歌「いろはから 学び覚ゆる 手本かず」 最初はやっぱり、「いろは」の平がなから習ったようですね。
(左)壁に落書き
(右)さっそく叱られる
青本「寺子短歌」の一丁裏、二丁表
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(♪) 最初のしおらしさはどこへやら、さっそくいたずらをして、叱られました。師匠「どうじゃ長松、まだ悪いことをするか?」 長松「もうしません、もうしません。今度からはおとなしゅういたします」 子ども1「おい、長松の顔を見ろや」 子ども2「かわいそうに。いつまで御幣を持たされているのだ」(♪) 歌「留めらるる子は不勢(ぶせい)にて いつも文庫に 乗せらるる」 不真面目な子が、罰として、机の上の文庫に座らせられていますね。
(♪) ところがお師匠さまが見ていないと、すぐこんなことになります。子ども「どれ、ここはひとつ鳥居清信風に描いてやろう。お師匠さまが来なければよいが」(♪) 歌「落書きするが得物(えもの)とて 土蔵の壁に あまた見ゆ」 いくら落書きが得意だからといって、土蔵の壁に描いてはいけませんね。
師匠が留守になると…
青本「寺子短歌」の二丁裏、三丁表
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(♪) きょうは、お師匠さまがちょっと外出。すると教室では…。子ども1「やあやあ、おれは曽我の五郎なり!」 子ども2「それなら、おれは朝比奈の三郎だ!」 子ども3「どんどんどーん、一番目狂言のはじまり、はじまりーぃ」(♪) 歌「悪あがきして芝居のまね 机硯を 損うな」 悪ふざけが過ぎて、机や硯を壊してはいけません。
(♪) こちらではなんと、軽業の綱渡り。子ども4「はりはり、とうとう、こりゃこりゃ」 子ども5「あっ、お師匠さまのお帰りだ!」 師匠「こら、お前たちは、ちょっと留守にすると、すぐ芝居のまねじゃ。きょう一日は留め置きにするから、覚悟せい!」(♪) 歌「軽業のまね かずけ事 寺朋輩に 疎まれな」 軽業のまねをして、叱られると人のせいにするなんて、友だちに嫌われますよ。
年中行事・七夕祭り
青本「寺子短歌」の三丁裏、四丁表
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(♪) 七夕祭りも、寺子屋の重要な行事でありました。子ども1「急いで、急いで。隣りはもう竹飾りを出してるよ」 子ども2「でも、まだ短冊がこんなに残ってるのに」 子ども3「その長いのを、ちょっと取ってちょうだいな」(♪) 歌「七夕からは盆のうち 長い休みに 忘るるな」 七夕からは盆休み。長い休みに習ったことを忘れないようにね。寺子屋も夏休みだったようですね。
(♪) またこの日は、お祓いの意味を込めて、硯を洗う習慣がありました。子ども1「ほら、もっとたくさん砂をつけて洗えよ」 子ども2「まてまて、そんなに急ぐと割れてしまうぞ」 子ども3「おいらはもう、洗ってしまったよ」(♪) 歌「よごれた顔さえする時は ほめる親こそ おかしけれ」 顔に墨さえついていれば、よく勉強したと親は思ったのでしょう。
授業風景
青本「寺子短歌」の四丁裏、五丁表
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(♪) きょうは、師匠手ずから、手習いのお稽古です。師匠「そうではない。ほら、こちらへくるっと丸く書くのだ」 別の子ども「あのー、お師匠さま。そろそろお昼休みにいたしましょう」(♪) 歌「習いもせずに清書(きよがき)を いくたび書いても 同じ事」 練習せずに清書したって、そりゃあうまく書けませんよ。
(♪) 寺子屋では『文選』『大学』などの漢詩文や、『今川状』『庭訓往来』などの実用書が、教科書として使われておりました。子ども「子のたまわく、『大学』は孔子の遺書にして…。あの、お師匠さま。ここは何と読むのでございましょう?」 師匠「なんど教えたらわかるのだ。もの覚えの悪いやつじゃ」(♪) 歌「空に覚えはならずとも 今川・庭訓・大学の」 暗記しろとまでとは言いませんが、まず教科書をしっかり勉強しましょうね。
(左)おもちゃ好きは今も昔も同じようで
(右)商人の子はそろ盤が得意
青本「寺子短歌」の五丁裏、六丁表
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(♪) 寺子屋では、そろ盤も大事なお稽古の一つです。子ども「三一三十の一、三進(ちん)が一十(しん)」 師匠「ほほう、よく覚えたなあ。感心々々」(♪) 歌「稽古はさまざま町の子は 八算九々を ちと習え」 勉強することは色々ありますが、商人の子は、まず計算が出来ないと。(♪) でもつい立の陰では、こんなことをしている子たちもいます。子ども1「おれは餡ころより、このどら焼きのほうがうまい」 子ども2「おれはこれで三つ目だ。またあしたも買って食おう」(♪) 歌「不精(ぶせい)なくせに薩摩芋 どら焼などは きつい好き」 怠けん坊たちも、食い気だけはしっかりとあるようです。
(♪) また、おもちゃが好きなのは、今も昔も同じようですね。子ども1「それは俺の人形だ! 返しておくれ」 子ども2「お兄ちゃん、俺にも一つおくれな」 子ども3「これは、俺がお父っつぁんに買ってもらったのじゃ」 子どもたちが遊んでいるのは、金平(きんぴら)人形・野呂間(のろま)人形と呼ばれた首人形です。
悪ガキに、とうとうキレてしまった父親
青本「寺子短歌」の六丁裏、七丁表
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(♪) 父親「このガキめ、今日という今日は堪忍ならぬ!」 娘「父(とと)さん、お兄ちゃんを堪忍してあげて!」 母親「これ松坊、こっちへ逃げておいで。おまえ様もまあ、興奮しないで」(♪) 歌「ゆるがせする母もあり 厳しい父が 薬ぞや」 優しいお母さんと、厳しいお父さん。昔からこれでバランスがとれるのです。
(♪) 松二郎「おーっと、叩かれちゃたまんねえや」 祖母「この悪ガキめは。わしが言うことだって、いつも聞かないんだから」 友だち「おーい、松二郎、おれの家に逃げて来なよ」(♪) 歌「人並みならぬ腕白は 毎日竹箆(しっぺ)を 頂いて」 手の付けられない腕白坊主。毎日怒られるのも仕方がありませんね。
寺子屋では、小うたいなども教えていた
青本「寺子短歌」の七丁裏、八丁表
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(♪) 小うたいとは謡いの「さわり」、つまりいちばんよい部分のことですが、寺子屋では、そんなことも教えていたんですね。娘1「あの子はよい器量だこと。大きくなったら、きっと歌舞伎役者のようになるわね」 娘2「ほんとにきれいな若衆さんじゃ」 鼓方「ひやー、ぽんぽん」(♪) 歌「小うたいシテ・ワキかしこまり 声高々と 謳うべし」 謡いのさわりを知っているのも、この時代の教養の一つだったのでしょう。
(♪) 謳い1「立ち出でて 峰の雲、花やあらぬ 初桜の…」 大鼓「ぽぽん、ぽんぽん」 謳い2「祇園林(ぎおんばやし)、下河原(しもがわら)…」 師匠「皆さん、たいへん良く出来ましたよ」(♪) 歌「師匠は針にたとえつつ 弟子は糸なり 大切に」 お師匠さんが針なら弟子は糸。先導役の先生を大切にしましょう、ということです。
女の子も、習字や手紙の稽古にはげみます
青本「寺子短歌」の八丁裏、九丁表
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(♪) 父親「おお、わが娘ながら、見事な能書ぶりじゃ」 娘さよ「お師匠さま、これを奉納いたしましょうか。それにしても篆字(てんじ)という書体は、書きにくい文字じゃ」 師匠「ほほぉ、だいぶよく書けたのう」 奥のほうには、9歳のさよが書いた「松竹梅」の篆書文字が見えます。(♪) 歌「器量ある子は女でも 八分字(はぶじ)・篆字を 書くもあり」 女の子でも、能力のある子は難しい書体を習っていたようです。江戸時代だって、何でも男社会というわけではありません。
(♪) 一方こちらの娘は、手紙文のお稽古中です。 娘「時々のお障りものう…。さてその後は、なんと書けばよいのか…」(♪) 歌「冥加にかない玉の輿 御部屋様にも なるものぞ」 麗しい手紙がもとで玉の輿、などということがあったのかもしれませんよ。
天神様へのお参り
青本「寺子短歌」の九丁裏、十丁表
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(♪) きょうは書道と学問の神様、菅原道真公をまつる北野天満宮へのお参りです。父親「これこれ、静かに、静かに。ここが天神様じゃ」 息子「父(とと)さん、お賽銭をくださいな」 手前の男衆が担いで来たのは、天神様へ奉納する大きな額です。(♪) 歌「末は能書となるように 朝夕筆道 心がけ」 将来字が上手になるためには、やっぱり普段の心掛けが大切です。
(♪) 子ども1「やあ、お前方は、ずいぶん早く来たんだねえ」 子ども2「あれ? あそこに八ちゃんの書いた額があるよ」 子ども3「どれどれ。ああ、ほんとうだ!」 神社の境内では、子どもたちが何かと大騒ぎをしています。(♪) 歌「京の北野の聖廟へ お礼参りに 登るべし」 こうして天神様へお参りしておけば、有難いご利益があるのは間違いないというものでしょう。
出版の広告
青本「寺子短歌」の十丁裏
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(♪) 最終ページは「壬午(じんご)春新板物目録」のタイトルがある広告ページです。これは現在の出版物でもよく見られるものですね。左下に『いろは文字 寺子短歌 上下』の文字も見えています。では、おしまい。

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青本「寺子短歌」の裏表紙
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