メニューを飛ばして本文へ

本文

書誌

題名:塩売文太物語
所蔵:国立国会図書館
種類:赤本
作画者:未詳
版元:鱗形屋
刊行年:1749年
判型:190×138mm
1/18

解題

このお話は、お金持ちの弱い者いじめ、貴種流離譚、動物の恩返しなど、昔話の基本的な要素を備えた面白い絵本なのですが、タイトルが地味なせいでしょうか、現代ではあまり知られておりません。文太夫婦のほかに、娘の小しおと助八という若者の恋愛話も絡んでいて、筋の面白さ、登場人物の個性的な表現など、すぐれた絵本だと思われます。恩を受けたオシドリが再登場する場面など、実に見事なものです。
2/18
塩売り文太物語
赤本「塩売り文太物語」の表紙 外題
3/18 画像を押すと拡大
塩売り文太物語
赤本「塩売り文太物語」の扉 内題
4/18 画像を押すと拡大
(♪) この物語の主人公・塩売り文太は、浜辺で海水を汲み、それを干したり、煮つめたりして、塩をつくることを仕事にしている人です。さて、どんなお話がはじまるのでしょうか。(♪)
文太夫婦と娘のこと
赤本「塩売り文太物語」の一丁表
5/18 画像を押すと拡大
(♪) 昔むかし常陸の国に、塩売り文太という者が住んでおりました。暮しは貧しかったのですが、夫婦とも正直者で、小しおという娘がひとりおりました。小しおも心のやさしい娘で、とくに歌を詠むことが上手でした。
(左)ねじかねばば、仲立ちに乗りだす
(右)大宮司、小しおを嫁にほしがる
赤本「塩売り文太物語」の一丁裏、二丁表
6/18 画像を押すと拡大
(♪) ところで、文太がつくった塩を買い上げてくれる者に、浜の大宮司という男がおりました。このあたり一番の大きな塩問屋で、豪勢な暮しをしておりました。この大宮司が、文太の娘・小しおの評判を聞きつけて、嫁にほしいと言い出しました。しかし、小しおは言うことを聞きません。
(♪) 大宮司の家に古くから仕えている者に、ねじかねばばという老女がおりました。小しおが言うことを聞かないというので、何とか仲立ちをしてやろうと思いました。ねじかねばば「お任せください。このばばが、うまく話をまとめてみましょう」 大宮司「なに、おまえが話をまとめてくれると言うのか」 側近「うまくいったら、褒美はたんまりもらえるぞ」 汐汲み「いやいや、いかにばば殿の手ぎわでも、小しおは言うことを聞きますまい」
オシドリのこと、助八のこと
赤本「塩売り文太物語」の二丁裏、三丁表
7/18 画像を押すと拡大
(♪) 話は少し戻りますが、大宮司は鳥を飼うことが好きでした。とりわけオシドリを大事にしていて、前々から秘蔵のオシドリを、文太の家に預けておりました。またその頃、文太の家に都から通ってくる商人(あきんど)で、助八という若者がおりました。心立てがよいうえに、歌を詠むことが好きなので、小しおとも気が合って、いつしか二人は深い仲になってゆきました。文太夫婦もそれに気づいていたのですが、助八のことを気に入っておりましたので、見てみぬふりをしておりました。
 文太「ところで助八殿、オシドリの話をしてくださるということでしたが」 助八「はい、これは唐土(もろこし)に伝わるお話なのですが、とても仲のよい夫婦が帝に殺されてしまい、その魂が二羽の鳥となってオシドリになったとか。ですからオシドリは、互いに相手を慕う鳥だと言われております」 小しお「なにやら、心にのこるお話ですこと」
(左)小しおを、いぶし殺そうとする
(右)ねじかねばば、さまざまに手をつくす
赤本「塩売り文太物語」の三丁裏、四丁表
8/18 画像を押すと拡大
(♪) さて、小しおを大宮司の嫁にしようと考えたねじかねばばは、華やかな小袖や、櫛・笄(こうがい)などを見せびらかして、小しおの気を引こうとしました。ねじかねばば「どうじゃ、大宮司さまの嫁御になれば、このような小袖は着たいほうだいじゃ」 小しお「なんと言われても、私はいやでございます」
(♪) 手をかえ品をかえて言い含めましたが、小しおはちっとも言うことを聞きません。ねじかねばばは、とうとう怒りだしてしまいました。ねじかねばば「なんとも、しぶといあまめ。こうなったら、松葉いぶしで責め殺してやる。それにしても、憎たらしい顔つきだわい」 小しお「どんなに責められても、おまえの言うことなんか聞くのはいやじゃ」
(左)助八、いそいで旅からもどる
(右)小しお、大宮司から預かっているオシドリを逃がす
赤本「塩売り文太物語」の四丁裏、五丁表
9/18 画像を押すと拡大
(♪) やっとの思いで逃げ帰った小しおは、自分が助八を思う気持ちと、一羽だけ捕らわれているオシドリの身を思い重ね、オシドリを籠から逃がしてやりました。オシドリは大喜びで空に舞い上がりました。小しお「それにしても助八さんは、今ごろどうしておられるのか。大宮司さまのオシドリを逃がしたからには、私はもうこの家には居られないのに」
(♪) 小しおの説得に失敗したねじかねばばは、小しおのしぶとさに呆れながらも、大宮司の屋敷へ帰ると、こんどはもっと厳しい仕置きをしてやろうと、悪だくみをめぐらしておりました。一方、商売のため二、三日旅回りをしていた助八は、小しおからの手紙を見て驚き、いそいで文太の家にもどってきました。
(左)文太夫婦、小しおの書き置きを見る
(右)小しおと助八、都へ逃がれる
赤本「塩売り文太物語」の五丁裏、六丁表
10/18 画像を押すと拡大
(♪) 留守中の出来事を聞いた助八は、ここに留まっていては危ないと思い、小しおを連れて、都へ逃げることにしました。オシドリを逃がしたのですから、大宮司に、どんな仕返しを受けるかもわかりません。助八「長い道のりを歩いたが、そなた、疲れてはいないか。もうニ、三里歩いたら、少し休むとしよう」
(♪) 小しおと助八が都へ逃げた後、文太夫婦は娘の書き置きを見て、かえって安心するのでした。文太「『私たちが立ち退いた後は、ご両親様も、さぞご苦労なさるであろう』などと、かわいいことを言ってくれるではないか」 文太の妻「それなら小しおは、助八殿と連れだって立ち退いたのかえ。よかった、よかった」
文太夫婦、すまきにされる
赤本「塩売り文太物語」の六丁裏、七丁表
11/18 画像を押すと拡大
(♪) 嫁にしたいと思っていた小しおは、駆け落ちをしてしまう。そのうえ、大事にしていたオシドリは逃がしてしまうということで、大宮司はすっかり腹をたててしまいました。大宮司「いまいましい親どもだ。すまきにして、ふん縛ってしまえ!」 家来「ふてぶてしい親父め。娘をどこへ逃がした」 ねじかねばば「よくも無駄骨を折らせおって。むかっ腹がたつわい」 文太「このような目にあうのは覚悟のうえだ。何とでもしてくれ」もともと娘思いの夫婦でしたから、小しおのために責められることは、少しもいといません。手荒にあつかわれて、すまきのまま海へ投げ込まれそうになりました。
代官所の侍に助けられる
赤本「塩売り文太物語」の七丁裏、八丁表
12/18 画像を押すと拡大
(♪) 大宮司の家来たちに担がれて、今にも文太夫婦が海へ投げ込まれようとしていたときでした。突然代官所の侍が使者として現れると、夫婦の罪が許されたから、すぐに縄をほどくようにと、大宮司の家来たちに命じたのでした。代官所の侍「いかに文太。オシドリを逃がした両人の罪は、代官所によって許されたぞ!」
オシドリの恩返し
赤本「塩売り文太物語」の八丁裏、九丁表
13/18 画像を押すと拡大
(♪) あまりの急展開に呆然としている文太夫婦に、代官所の侍が重ねて言いました。侍、実はオシドリ「文太夫婦よ、実はわれらはオシドリの夫婦なのだ。大宮司に捕らえられて、長いあいだ妻と引き離されていたのを、お前の娘・小しおに命を助けられて、夫婦が再会できた。きょうはそのお礼として、お前たち夫婦を助けたのだ」と言うがはやいか、侍はつがいのオシドリとなって、羽音も高く空へ飛び去っていきました。
文太夫婦、小しおと再会する
赤本「塩売り文太物語」の九丁裏、十丁表
14/18 画像を押すと拡大
(♪) オシドリに助けられた文太夫婦は、小しおを訪ねて、都へ上ることになりました。そして都で小しおに再会できたのですが、そこでは益々驚くことばかりでした。小しおを連れて都へ逃がれた助八という若者は、実は有栖(ありす)の中将という、身分の高い貴族なのでした。和歌に詠みこまれた歌枕の地を訪ねて、商人(あきんど)の姿をして、常陸の国に通っていたのです。
 文太夫婦は、中将殿の盛大な歓待を受け、たくさんのご褒美もたまわりました。中将殿と小しおが、幸せに暮らしたことは、言うまでもありません。めでたし、めでたし。
新板本目録
赤本「塩売り文太物語」の十丁裏
15/18 画像を押すと拡大
(♪) 最終ページは新しい本の広告です。『塩売り文太 上下』の文字も見えますね。
 また左ページの文字は、この本の所蔵者が書いたものでしょうか。「読んだらすぐに返してね」という意味の歌が書かれています。本を大事にしていた時代の雰囲気が伝わってくるようですね。

16ページには朗読はありません

赤本「塩売り文太物語」の裏見返し
16/18 画像を押すと拡大

17ページには朗読はありません

赤本「塩売り文太物語」の裏表紙
17/18 画像を押すと拡大

目次

18/18